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2013年10月15日 (火)

アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター「タイム・オデッセイ 時の眼」早川書房 中村融訳

「1895年に――この時間軸では十年も先だ!――H・G・ウェルズが『タイム・マシン』を発表したとき、2,30ページを費やして、タイム・マシンがなにをするのか説明しなければならなかった。どういう仕組みで働くのかじゃなくて、それがなんであるかを説明するために」

【どんな本?】

 英国SFの長老アーサー・C・クラークが、やはり英国のサイエンス・フィクションを代表するスティーヴン・バクスターと組んで発表するシリーズ<タイム・オデッセイ>の開幕編。人類200万年の歴史から、何者かによってパッチワークのようにかり集められた人々が、不慣れな環境の中で戸惑い争う姿を描く、長編SF小説。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2008年版」ベストSF2007海外編の20位にランクイン。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は TIME'S EYE, by Arthur C. Clarke and Stephen Baxter, 2004。日本語版は2006年12月15日初版発行。単行本ハードカバー縦二段組で本文約337頁。8.5ポイント25字×22行×2段×337頁=約370,700字、400字詰め原稿用紙で約927枚。普通の長編なら2冊分ぐらいの分量。

 文章は比較的にこなれている。SFだが、特に難しい理科の知識は要らない。それより、必要なのは世界史の知識。ポイントは3つ。アレキサンダーの大遠征、チンギス・ハンの大帝国、そして19世紀にイギリスとロシアがアフガニスタンで繰り広げたグレート・ゲーム。

【どんな話?】

 <探るもの>は、乳飲み子の<つかまるもの>を抱え、おずおずと森から出た。森は安全だが、外の平原にはライオンやハイエナなど猛獣が沢山いる。宙に浮かぶ見慣れぬ球体を見た時、<探るもの>と<つかまるもの>は蔓草のようなものに捕らえられた。

 2037年。<断絶>の時、国連派遣軍の三人、英国陸軍のビセサ・ダット,合衆国航空宇宙軍のケイシー・オシック,パシュトゥーン族のアブディカディル・オマルは観測ヘリで飛んでいた。突然、あらゆる信号が途絶え、しかもRPGが飛んできた。テイル・ローターが破損し、機体は墜落した。

 国際宇宙ステーションから帰還するソユーズ往還船に乗り込んだのは、船長ムーサ・ヒロマノヴィッチ・イワノフとコーリャことアナトーリー・コンスタンチノヴィッチ・クリヴォラポフ、それにセーブル・ジョーンズの三人だった。ステーションから切り離された直後、地上およびステーションとの通信が途絶えた。

 1885年。インド(現パキスタン)北西部とアフガニスタンの境近くのジャムルド砦には、英国第七十二高地連隊が駐屯している。ボストン・グローブの記者ジョシュ・ホワイトとラホールの新聞社の記者ラディは、異変で飛び起きた。門の近くに、ボールのような物が空中に浮かんでいる。

【感想は?】

 ユーラシア大陸を部隊に繰り広げる、大規模な戦国自衛隊。

 お話の概要は、様々な時代から、幾つかの集団が、何者かによって突然パッチワーク状に、地球上にかき集められる、そんな話だ。人類の起源の頃から<探るもの>と<つかまるもの>。2037年からアフガニスタン国連派遣軍の3人とソユーズの3人。19世紀の西北インド(現パキスタン西北部)から英国駐屯軍。そして、なんと遠征中のアレキサンダー大王と、モンゴルのチンギス・ハン。

 描写は確かにSF作家のものだ。19世紀またはそれ以前の者が、21世紀の者とモノに出会ったら、どうなるか。時代によって変わってきた、ヒトのモノの考え方のギャップを、どう乗り越えてゆくか。そこに存在するであろう認識のギャップについて、SF作家ならではの透徹した眼で、著者たちは問題を描き出す。

 ただ、この作品においては、少しだけ登場人物にゲタを履かせている。主要な人物が、全て軍人なのだ。よって、考え方の方向性は、だいたい似通ってる。敵か味方か。ボスか部下か。やるかやられるか。同盟が組めれば、話は早い。基本的な目的は一致する。まずは敵に備えること。違いが出るのは、その次、「どうやるか」の段階である。

 といったモノの考え方に加え、<断絶>の仕掛けが、これまた意外性に溢れている。実際は何が起きたのか、それによってどんな影響が起きたのか、その辺の考察はさすがクラーク&バクスターな感じで、表紙を見直し「おお、なるほど!」と感激したり。かなり無茶やってます。

 なんてSF的な面白さ、実はこの作品は控えめで、私はむしろニワカ軍ヲタとして楽しんだ。なんたって、19世紀の英国派遣軍 vs アレキサンダー大王の大軍勢 vs チンギス・ハンの騎馬軍団。軍ヲタならずとも、男の子(のなれの果て)としてゾクゾクしてくる。

 まあ、この辺の対決は、当然ながら終盤に入ってからなんだが、それ以前の、各軍団の生活様式が、なかなかに調べられてて、ちょっと感心したり。アレキサンダーもチンギス・ハンも、ほとんど常に移動を続ける組織ってのは、共通してる。だもんで、生活様式も移動に適応してて、例えば住む所は…

 それぞれの集団の構成もキチンと調べてあるし、「おお、スゲー」と思ったのは、チンギス・ハンの騎馬集団の食事。私はこの本で知ったんだが、著者はどうやって調べたんだろう。

 もちろん、各軍団の主要な武装と、得意とする戦術もバッチリ。歩兵中心のアレキサンダー、騎兵による蹂躙が得意なチンギス・ハン。チンギス・ハンの騎馬軍団については、主要武器(→Wikipedia)も押さえてるし、編成もちゃんと考えてる。今考えると、チンギス・ハンの軍事思想って、グデーリアンと似てるんだなあ。後智恵による改良で、アレ(→Wikipedia)が出てきたのも嬉しい。

 ってんで、やっぱりクライマックスは終盤での大決戦。この分量で決戦にケリつけるとなると、やっぱりこの両名になるよなあ。例えば第二次世界大戦の各国軍じゃ補給に問題が出るし、日本の戦国時代の武将じゃ一箇所に腰を落ち着けちゃうだろうし。

 などと、仮想戦記としてマニアックな楽しみができる作品でありました。

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