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2013年10月25日 (金)

エイミィ・ステュワート「人類にとって重要な生きもの ミミズの話」飛鳥新社 今西泰子訳

化成肥料は作物を養うのに対し、有機肥料は土を養う。

【どんな本?】

 ガーデニングに凝る著者は、ミミズ・コンポストを使い始める。生ゴミを黙々と処理して堆肥に変えるミミズに、著者は次第に愛着を覚えてゆく。一般に土を肥やすといわれるミミズだが、調べ始めると、現代でも意外とわかっていない事に気がつく。なんたって、ミミズは光を嫌うし、日頃は土の中にいて全く見えない。

 進化論の礎を築いたチャールズ・ダーウィンが、ミミズをテーマに著した晩年の作品「肥沃土の形成」を随所に織り込みながら、知られざるミミズの生態と生態系に与える影響、そして科学や産業での利用の現状をレポートしつつ、ガーデニングの楽しさを伝える、一般向けの科学解説書。2005年カリフォルニア園芸協会ライター賞受賞作。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Earth Moved : On the Remarkable Achievements of Earthworms, by Amy Stewart, 2004。日本語版は2010年8月14日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約273頁+訳者あとがき5頁。10ポイント40字×17行×273頁=約185,640字、400字詰め原稿用紙で約465頁。長編小説なら標準的な長さ。

 翻訳物の科学解説書にしては、文章はかなりこなれていて読みやすい。内容も実にわかりやすく、小学校卒業程度の理科がわかれば充分すぎる。数式や分子式も全く出てこない。ガーデニングの話題が頻繁に出てくるので、花や野菜を育てたり庭の手入れをしている人なら、更に親しみやすいだろう。

 敢えてイチャモンをつけると、面積の単位がエーカーなのが難点。約4047平方メートルで、だいたい64m×64mぐらい。

【構成は?】

 はじめに
第1章 ダーウィンのミミズ
第2章 謳われざるヒーロー
第3章 大地は動いた
第4章 大地の腸
第5章 目もなく耳もなく
第6章 今、地中にある危機
第7章 侵略者の顔
第8章 巨大ミミズを追いかけて
第9章 生きた農耕機具
第10章 文明の礎として
第11章 生ゴミを黄金の土に
第12章 あなたが必要
第13章 高みへと昇るミミズ
 おわりに
 訳者あとがき

【感想は?】

 いわゆる一般向け科学解説書としては、とっても親しみやすく理解しやすい。分量も控えめだし、文章もこなれている。そして、驚きに満ちている。ガーデニングに凝る著者だけに、実際の体験談も多く、学問ぶった所もない。多くの専門家にインタビューしているが、いちいち「普通の人の言葉」に翻訳して伝えてくれる。

 ミミズにも色々な種類がある。わかっているだけで4500種。コンポストに入れるのは、たいていがシマミミズだ。「釣具店で買った釣餌1箱に4種類のミミズが入っていた」なんて話もある。オーストラリアのギブスランドミミズは体長1メートル、のばせば3メートルにもなる(Google画像検索の結果、覚悟してね)。

卵包が産み落とされてから孵化するまでに1年以上かかる。孵化すると長さ5センチほどの子ミミズが出てくる。(略)5年ほどで成熟し、20~30年生きるのではないかと考えられている。

 さて、そのミミズ、科学者たちも、今は生息型で3種に分けている。

  1. 下層土生息型:小さく黄褐色、植物の根にいる
  2. 表層土生息型:地面に穴を掘る大ミミズ、地中深くにいる
  3. 堆肥生息型:シマミミズなど、地表の堆肥にいる

 コンポストに入れるのは 3. のシマミミズ。小さいミミズ。地面を耕すのは 2. で、アメリカじゃナイトクローラー(→Google画像検索)、日本には別種のフトミミズ(→Google画像検索)がいる。この効果が劇的に現れたのが、ニュージーランド。ヨーロッパからミミズを輸入して試したら、「最初の数年間で、農地や牧草地の生産性が70%もアップした」。

 この成功を聞きつけた農夫が、1925年に土ごと山の斜面に移植したところ、「手を加えなかった土地の20倍ものライグラスが育つ」「飼育する羊の頭数は倍になり、冬に刈り取る羊毛の収量は2トン近く増加」と、どっかの宣伝漫画みいだ。ただ、「ナイトクローラーは1年に2、3メートルしか移動しない」というから、やっぱり時間はかかる模様。

 とまれ、いいことばかりじゃない。「冬小麦をおかす萎縮性腥(なまぐさ)黒穂病の病原菌は、ミミズが蔓延させるおそれのある真菌のひとつである。トマト萎縮病を引き起こすフザリウム属の真菌も、ミミズの働きによって広がるおそれがある」。また、外来のミミズを移植すると、一緒に外来植物も持ってきちゃう可能性がある。ミミズが種子を飲み込んだまま移動してるかもしれない。

 フィリピンのイフガオ州バナウェ棚田は、外来種のミミズが田んぼに穴をあけ水が抜けてしまった。昔は年中水を張っていたのでミミズが入り込めなかったが、最近は排水した棚田で商業作物の野菜や花卉を栽培するので、増殖してしまった。在来種も、田の畔を壊すので嫌われているとか。この対策が、また面白い。

「でも、ミミズを追い出す方法がひとつあるんですよ。ワサビです」

 この辺は、まんまバイオSFの面白さで、複雑怪奇な生態系のダイナミクスが味わえる。堆肥型のミミズのアポレクロデア・ロンガの糞には、シュードモナス・コルガタという細菌を、他のミミズの糞より10倍多く含む。この細菌はトマトの茎壊疽病を起こすが、ジャガイモの輪腐病を抑える。

 バイオSFなのは最近のガーデニングも同じで、著者は害虫や病気を抑えるため線虫や微生物をメールで取り寄せてたりする。これを拡散するのにも、ミミズが活躍してる。ムギを枯らすムギ類立枯病菌を防ぐシュードモナス・コルガタを羊の糞に混ぜて土壌に入れると、ミミズが羊の糞に惹かれて集まり、菌を運んでくれるのだ。

 のんびりと観察と実験にふける晩年のダーウィンの楽しげな姿、不耕起栽培に代表される最近の様々な農業の手法、古代文明とミミズの関係、ミミズが検証する大陸移動説など科学の楽しいエピソードに加え、ガーデニングの面白さにも溢れた、読みやすく親しみやすい一般向け科学解説書の傑作。

 唯一の問題点は、表紙だろう。真っ白な地に、色鮮やかでリアルなミミズのイラスト。人によっては、ちょっとひくかも。

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