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2013年9月12日 (木)

芝村裕吏「ガンパレード・マーチ アナザー・プリンセス」電撃文庫

「堂々とするがいい、芝村の友よ。我らは間違ったことをすることもある。だが、恥ずかしいことは、しておらぬ。決して」

【どんな本?】

 元は Alpha System が開発した 2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。当事のハードウェアの限界を超える野心的なシステムは開発費を食いつぶし、宣伝費ゼロというコンピュータ・ゲームにあるまじき状況で市場に投入された。

 いささかとっつきにくいゲームでありながら、その斬新なシステムや作りこまれた設定、そして濃い登場人物は多数のマニアを虜にして2001年(第32回)星雲賞メディア部門も受賞、長く愛され中古価格は新品と変わらぬ高値を続け、ついに2010年にはPSP用のアーカイブとして復活した。

 「アナザー・プリンセス」は、「ガンパレード・マーチ」のスピンアウトとして電撃マ王2010年9月から連載を始めたコミックで、原作は芝村裕吏、作画は長田馨。電撃文庫版は、ゲーム版の開発を率いたガンパレの父であり、コミック版アナザー・プリンセスの原作者でもある芝村裕吏によるノベライズ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年9月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約340頁。8ポイント42字×17行×340頁=約242,760字、400字詰め原稿用紙で約607枚。長編小説としては、ちょい長め。

 正直、ライトノベルとしては文章がこなれていない。ただ、ガンパレとなると、私はどうしてもベテランの榊涼介と比較しちゃうんで、少々厳しい評価基準になってるかもしれない。内要は、世界観が独特なので、読者によるだろう。とりあえず3パターンほど挙げる。

  1. コミック版の読者:まず問題ないと思う。
  2. ゲーム版の経験者または榊版の読者:やはり問題なし。
  3. どれでもない:世界設定や人物設定が込み入ってるんで、ちとキツいかも。

 とまれ、私自身は 2. に属する者なので、他の立場の人の評価は、あまり信用しないで下さい。

【どんな話?】

 1945年、第二次世界大戦は意外な形で終わる。黒い月と、それに続く幻獣の出現。食事も生殖もせず、大兵力でただ人を狩る幻獣に人類は撤退を続け、ユーラシアを明け渡し、南アフリカの一部・アメリカ、そして日本を残すのみとなった。

 1998年、幻獣は九州に上陸を始める。日本の自衛軍は八代会戦でなんとか勝利を収めたが、戦力の8割を失う。1999年、日本政府は二つの法案を可決する。熊本要塞の戦力増強、そして14歳から17歳の少年兵の招集である。少年たちを盾に時間を稼ぎ、その間に自衛軍の戦力建て直しを図る方針だ。

 前線の瓦礫の中、佇む秋草一郎が気になり、小山美千代は声をかけた。付き合いで巻き込まれた戦友の菊池優奈と共に、小山は信じられない言葉を聞く。

「現時点をもって君たちは僕の指揮下に入る」
「秋草一郎、階級は技術万翼長。所属はC41 0101 部隊名、二度寝天国。たった今、君たちも臨時配属された。現況が更新された。排除目標はこちらに向かって移動してくる。振動から種族特定。<ミノタウロス>。数は五、もしくは六」

【感想は?】

 再びお断りしておく。私はゲームと榊ガンパレは知っているが、コミック版アナザー・プリンセスは読んでいない。主な読者とは、視点が違うだろうと思う。

 いわゆる「番外編」かと思ったが、ゲームとも榊ガンパレとも、微妙に設定が違う。5121小隊の編成も違っている。まあ、そういうモンだと思って読んだ。つまりはガンパレ信者なのだ、私は。コミックも近いうちに読みます、はい。

 まあ、そんなわけで、やっぱり5121小隊が登場すると、読んでて一気に盛り上がってしまう。最近の榊ガンパレは5121小隊も成長してきて、とても安定感があり、カドが取れちゃってる。それがこの版だと、人間関係、特にカップル関係がギクシャクしていて、なかなか初々しい。

 ゲーム版のガンパレは面白い仕掛けがあって。

 一周目だと選べるキャラクターは速水厚志のみ。たいてい一周目はボコボコに叩かれると相場が決まってるんだが、コツを掴むと、いくらでも幻獣を狩れるようになる。ゲームの特徴の一つは、戦闘パートの他に、日常パートもあること。ここで、武器・装備を整えたり、他の小隊メンバーを鍛えたり、戦闘を有利に運ぶ準備も出来るほか、他の登場人物との交流も楽しめる。ハーレムだって夢じゃない。

 などと戦場では大活躍して、ハーレムでウハウハしてるリア充を楽しめるけど、それが他の登場人物からどう見えるか、が分かるのも、このゲームの面白いところ。これは二つあって、ひとつは、かつては速水でプレイしていたプレイヤーが、今度は他の人物から速水を見る視点になること。もう一つは…まあ、最後までやってみよう。

 こういう視点の違いの面白さが、この作品にもある。今まではゲーム・榊ガンパレ共に、5121小隊視点での物語だった。これが、他の小隊から5121小隊を見ると、どう見えるか。5121小隊の編成こそ少し違うものの、「やっぱりハタから見たら奇妙に思うよなあ」と、しみじみ感じられる。

 ゲームじゃ当然のごとく5121小隊に溶け込んでいる東原ののみも、外から見ると、やっぱり異常だよなあ。誤魔化し方も、なかなか巧い。こういうパターン、キャサリン・メリデールの「イワンの戦争 赤軍兵士の記録 1939-45」にもあったので、特に珍しい話でもない模様。

 視点の違いは他にも面白い効果をあげていて。士魂号の主な武器である20mmジャイアント・アサルト、これゲーム中だと、イマイチ有り難味がわからない。最初に渡される装備でもあり、どうも軽視してしまう。ところが、この本は歩兵視点の物語のため、20mmという口径がいかに凄まじいものか、実感できたりする。

 そうだよなあ、今の現実の歩兵の主武器である自動小銃は5.56mmとか7.62mmで、対物ライフルでも12.7mm。20mmったら、戦闘機に搭載するクラス。なんと凄まじい火力であることか。ましてや90mmなんつったら。この辺、詳しくはかのよしのり「銃の科学 知られざるファーイア・アームズの秘密」と学研の「歴史群像アーカイブ2 ミリタリー基礎講座 戦術入門WW2」が役立ちます。

 などとガジェットでも、榊ガンパレじゃ冷遇されてるアレやコレがチョコチョコと出てくるのも嬉しい。士魂号複座型のもう一つのアレもそうだけど、やっぱり燃えるのがストライカーD。私はコレが一番好きで、発言力があれば真っ先にスカウトに着せる。いや放置するとスカウトって先走ってすぐ戦死するし。その点、可憐D型は機動力がないから突出しにくく、タコ殴りにならない。また火力・射幅・射程も充分なんで、小型幻獣なら、充分に対処できる。防御力もソレナリにあるし。ミノタウロスやスキュラなど中型は、プレイヤーが美味しくいただこう。

 こういったゲーム・ファン向けのサービスは随所に仕掛けられてて。どっかで聞いたような台詞が、巧くお話に紛れ込んでいる。また、意外な幻獣が活躍するのも、懐かしい感じ。最近、榊ガンパレじゃ、すっかり忘れられてるしなあ。しかし、いくらなんでも、あの潰れトカゲの台詞を言わせるのはヒドいw

 オリジナルの登場人物では、赤澤正行・深澤正俊・末綱安種の変態トライアングルが、主人公の秋草一郎とヒロインの小山美千代、そしてプリンセスの芝村神楽を圧して強烈な存在感を発している。この辺は、頁数の問題かも。全員を丁寧に書くには、一巻じゃ難しいだろうなあ。

 と、全般的には、ちと詰め込みすぎた感がある。ファン向けかな。

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コメント

コメントありがとうございます。榊氏は余計な仕事させるより、早く本編を書いてくれた方が嬉しいかも。

投稿: ちくわぶ | 2013年9月20日 (金) 13時01分

レビュー楽しく読ませて頂きました。ガンパレファンとしては楽しい小説なのですが、芝村の文章力が低いのが個人的にダメでした。あらすじだけかいて中味は榊さんに任せれば良いのに(ボソッ)とか思ったのは秘密です。

投稿: 名無し | 2013年9月20日 (金) 12時11分

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