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2013年9月19日 (木)

月村了衛「機龍警察 暗黒市場」早川書房

「運命なんてただの影だ。臆病者だけがそれを見るんだ」

【どんな本?】

 アニメの脚本などで活躍した著者による、近未来長編SFシリーズ第三弾。ハインラインの「宇宙の戦士」に出てくるパワードスーツを思わせる二足歩行兵器・龍機兵を擁して重大犯罪に立ち向かう、警視庁特捜部 SIPD を中心に、過酷な運命の中で己の生き様を貫く男たちの姿を描く、ハードボイルドな警察小説。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2013年版」でもベストSF2012国内編の5位に食い込む大活躍を見せた。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年9月25日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約405頁。9ポイント45字×22行×405頁=約400,950字、400字詰め原稿用紙で約1003枚。文庫本の長編小説なら2冊分の大ボリューム。

 どうしてもおカタい表現が多くなる警察小説だが、前の「自爆条項」に比べると、文章は読みやすくなってる。内容的にも、銃器などのマニアックな部分はあるものの、素人にも比較的にわかりやすい表現を工夫している。ただ、重要な舞台がロシアなので、人名や地名などが馴染みのないロシア語なのが、ちとキツいかも。とはいえ、冒頭に登場人物一覧があるので、だいぶ助かった。

 シリーズ物であり、レギュラー陣は前作・前々作からのひきつぎ。とまれ、一見さんにも配慮しているようで、初登場の場面では軽く人物紹介するし、重要な設定にも説明が入るので、この巻から読んでも問題はないだろう。

【どんな話?】

 12月26日。栃木県閑馬上駒駐在所が襲われ、杉原巡査部長を含む八人が殺された。白人が運転するトラックが機甲兵装を載せ、それが重機関銃を乱射したのだ。目撃者によれば、トラックは傷だらけの男を追っていた。杉原巡査部長が男を駐在所に運び込み、トラックが駐在所と隣の民家に乱射したとのこと。

 司法解剖の結果、傷だらけの男の胃にマイクロSDカードがあり、身元が判明する。警視庁組織犯罪対策部第五課の安藤捜査員。SDカードには音声ファイルがあり、「ドラグーン」という言葉が聞き取れた。

 元ロシアの刑事で、特捜部と契約を結び龍機兵バーゲストを操るユーリ・オズノフ。だが、彼は突然に契約を破棄される。仕事を求め、ユーリは顔役のティエーニに面会を求める。「奴は俺の幼馴染なのさ」

【感想は?】

 ドSだわ、この作家。前作もライザちゃんをイジめまくった著者、今回はユーリを徹底してイジめまくる。

 パワードスーツみたいなドラグーン(龍機兵)でSF者の目を惹きつつ、次第に警察小説の色を濃くしてきたこのシリーズ、今回もほとんど警察小説。出てくる警察官が、ことごとくキャラが立ってる。

 開始わずか3頁で惨殺される杉原巡査部長からして、いかにも「人のいいベテランの駐在さん」を思わせる。容姿の説明はないけど、刈り上げたゴマ塩頭の初老の「おまわりさん」って感じ。こち亀の大原部長を想像しても、あまり外れてないと思う。

 ここで機甲兵装を「キモノ」と表現するあたりが、日本の警察の雰囲気をよく掴んでる。なんか、彼らの業界用語って、そういうセンスなんだよなあ。

 杉原巡査部長と同様に、ゲストで光るのが、渡会茂課長が率いる警視庁組織犯罪対策部第五課の面々。いわゆるマル暴、日頃はヤクザ相手にメンチ切ってる方々で、「暴力団と見分けがつかない」との評判。こーゆー人たちが、元外務官僚の沖津やエリートの城木・宮内と組むってのが、もう可笑しい。

 現場に向かう列車の中で、城木がイキりたつ組対の若集と同席する場面は、まるきしヤクザと悪徳顧問弁護士に見える。シリアスで息が詰まる場面が多いこの作品の中で、数少ない大笑いのシーン。どう見ても渡会さんはチンピラをたしなめるオヤブンさんだよなあ。そりゃ一般人は逃げるって。

 などの日本の警官の描写も面白いが、今回の中心はユーリの過去。ロシアで警官として勤務していたユーリ、果たして彼はどんな経緯で特捜部と契約を結ぶ傭兵になったのか。

 同じ特捜部の傭兵でも、戦場を渡り歩いた経歴を持つ姿俊之は、飄々として底が掴めないながら、モノゴトを割り切った感がある。やはり物騒な過去を引きずるライザちゃんは、マシンのごとく感情を見せない。ところがユーリだけは、いかつい図体でありながら、人間的な感情が染み出てくる雰囲気があった。三人の傭兵の中で、ユーリだけが、フッ切れていない部分を残していた。

 そんなユーリの過去が明かされる第二章は、ロシア風ハードボイルド。ロシア風ったって、古典的なロシア文学じゃない。ソ連が崩壊しオリガルヒ(新興財閥)が国家の財産を食い物にする、現代ロシアが背景の殺伐としたもの。

 警察はよくわからないけど、ソ連の頃の赤軍は横領が酷かったらしく、キャサリン・メリデールの「イワンの戦争」やロドリク・ブレークウエストの「アフガン侵攻1979-89」あたりを読むと、「よく戦えたなあ」と感心してしまう。やはり政治家や官僚の腐敗も、マーシャル・I・ゴールドマンの「強奪されたロシア経済」が詳しい。

 そんなロシアで警官をやっていたユーリながら、今までのシリーズ作品を読む限り、あまり悪徳警官って感じじゃない。なんか警官の仕事に未練たっぷりで、現場の捜査にあたる由紀谷や夏川を羨ましそうに見てたりする。先の短編「雪娘」でも、強引に捜査に加わったり。

 なんで彼がそんなに警官でありたがるのか、それが分かるのがロシアのパート。雰囲気はアメリカのバディ物より、日本の刑事ドラマに近い。つまり、一つの案件にかかるのが、二人じゃなくユーリを含めた七人のチームで、群像劇として展開してゆく。雰囲気は「踊る捜査線」より「太陽にほえろ!」かなあ。ボゴラスはモにゴリさんっぽいし、プリゴジンはヤマさん?まあ、そんな風に刑事ドラマの登場人物を当てはめて読むと楽しめると思う。

 とまれ、やっぱり長編版の機龍警察の見せ所は、装甲騎兵や龍機兵のバトル。私が大好きなライザちゃんのバンシー、最初の登場じゃ最大の魅力の火力が封じられ、実にハラハラさせてくれる。

 そして終盤は、往年の香港映画のノリで楽しめるサービスシーンが満載。地下室でのバトルは、今までのリアル路線から一転、ハリウッドのアクション映画っぽいケレン味たっぷりのお約束展開となる。短編まで読んでいる人には、嬉しいクスグリも随所にあって、思わずニヤリとさせられる。

 ソ連崩壊後のロシアを中心とした国際情勢を組み込んだ舞台設定、重いノワール物の空気を漂わせるユーリの過去編、そしてサービス満点の終盤。少しだけ見えてきた沖津の思惑など、シリーズ物の面白さもあり、長いながらも一気に読める作品に仕上がってる。

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