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2013年8月28日 (水)

SFマガジン2013年10月号

アクションをやるまえに、まずは体を鍛えることから始めたんだ。僕の役は知力体力とも優れているという設定であり、たったひとりで大量殺人兵器という存在でもあったから、身体はもっと大きくしたほうがいいだろうと思い、一日4千キロカロリーを摂取して、スーツのサイズを三段階アップさせるくらいに鍛えた。
――スタートレック イントゥ・ダークネス ジョン・ハリソン役ベネディクト・カンバーバッチ

280頁の標準サイズ。今月の特集は「SFコミック」。吉富昭仁「ニュートラルハーツ File1 電気少女の気持ち」・丸山薫「星の池」・宮崎夏次系「と、ある日の忘れもの」・鷲尾直広「永遠の創作物」、作家特集:西島大介に加え、SFコミック30選・21世紀SFコミックの現状・掲載作品解説。小説は森岡浩之「海嘯 星界の断章」のみ。

 最初は吉富昭仁「ニュートラルハーツ File1 電気少女の気持ち」16頁。女子中学生の輝美と涼子は、下校中にゴミ集積所で不法投棄された少女型のアンドロイドを拾う。幸い、輝美の姉がロボット企業に勤めているため、それを頼りに家に連れてゆくが…
 競争の激しい商業誌で厳しく鍛えられた人だなあ。読んでて、とてもスッキリと話が頭に入ってくる。擬音以外、文字はフキダシだけで、それも最大で三行、それ以外は全て絵で伝えている。絵はコントラストがクッキリしてて、特に女の子の髪がベタなのが特徴。ココマごとにテーマが明確で、それぞれのコマで「何に注目させたいか」「何を伝えたいか」が直感的にわかるよう徹底的にに工夫されてる。ああ、もちろん、私は大好きですよ、女の子同士のキャッキャウフフ。やっぱし表情豊かな女の子って、見てるだけで「にへら~」となっちゃう。File 1 ということなので、次回が楽しみ。

 丸山薫「星の池」8頁。草原にある池のほとりで釣りをする少年と少女、レフとリサー。釣り上げた魚を見ていたリサーは、不思議な事に気がつく。
 3頁目のバケツのアップ → ロングで描くレフとリサー → 見開き と動く展開の心地よさ。こういう風に、コマの大きさや視点を自在に動かせるのも、マンガだからこそ出来る表現なんだよなあ。特にロングで描く風景がいい。

 宮崎夏次系「と、ある日の忘れもの」8頁。島の施設に老いた母を一人残し、島を去る息子。薄情なのはわかっている、でも仕事の都合があるのだ。
 SFマガジンという雑誌だけに、最初のコマはエイリアンかと思ったw 「年配で体の弱ったご婦人」を、徹底したデフォルメで表現してる。お話のキーとなる存在だけに、徹底する必要があったんだろうなあ。

 鷲尾直広「永遠の創作物」16頁。妻の美奈を残し、早世した尚斗。だが、百年後、彼は再び目覚めた。彼を待っていたのはムギ、美奈の面影を宿した少女。ムギに誘われ百年後の世界を覗きに外出した尚斗は…
 ちょいソフトフォーカスがかかったような線は、デジタル処理の影響かしらん。手書き原稿をスキャナで取り込む際の何かなんだろうか。文字が多いのも特徴で、「もっと頁数を寄越せ」という作者の叫びが聞こえてきそう。絵もギッシリと詰め込まれてて、「恋ガ窪が描きたい、可愛い女の子が描きたい、パワードスーツが描きたい、エイリアンが描きたい、とにかく俺には描きたいモノが沢山あるんじゃあぁ~」って想いがヒシヒシと伝わってくる。でも倍の32頁を与えたら、きっと4倍の内容を詰め込んじゃうんだろうなあ、この人w

 西島大介特集。All those moments will be lost in time 最終回ほか。こいこん企画採録「SF作家」西島大介再発見の吉田隆一氏が「すべてがちょっとずつ優しい世界」を語る所で、西島大介がやってる事が、やっとわかった。

キャラクター自体がこんなにもシンプルで、ギリギリのところで見分けがつくような、研ぎ澄まされた世界になっていた。

 なるほど、「どこまで単純化できるか」に挑んでいたのか。絵を描く人なら一発で分かったんだろうなあ。
 ひらめき☆マンガ学校の、うえむらちかとの対談では、「いかに売り込むか」という戦略的な視点も見せてくれる。かなり視野の広い人だ。

 森岡浩之「海嘯 星界の断章」。テラフォーミング中の所領に向かうアプリアル・ネイ=ドゥブレスク・ゲムファーズ子爵・ラムリューヌ殿下。気まぐれで第一艙を覗いた彼女は、たちまち後悔した。そこに溢れていたのは、数百匹の山羊と飼育官のスナカシュ。
 今回も台詞が読みどころ。前回の陰険漫才もよかったけど、今回は正反対に全く空気を読まない二人、飼育官のスナカシュと、生態系調整官のクファパール君。自分の世界にドップリ浸かってる技術屋と、ローカルな小役人。それぞれに天職かもしんない。

 友成純一「人間廃業宣言」。スティーブン・シェル監督「デッド・マイン」の写真がヒドいw インドネシアの孤島で「山下の黄金」を巡るアクション・ホラー映画。写真を一目見ただけで、そのテキトーぶりが伝わってくる。帝国陸軍の残党のゾンビで、兵はヘルメットに鎧、将は戦国時代みたいな兜。オマケに眉庇(兜の額の飾りみたいなアレ)がw ニニンがシノブ伝かい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「東京円形城壁都市計画」。山手線の駅ビルを全部つなげて、円周を覆う城壁にしちまえ、というお話。広がる妄想は、このまんま長編小説になりそうな面白さ。そういえばK.W.ジーダーの小説で「垂直世界の戦士」ってのがあったなあ。

 ローカス・ベストセラーリスト、いきなりオーソン・スコット・カード「エンダーのゲーム」が2位に食い込んでどうしたんだ?と思ったら、映画の公開が近いのか。納得。

 堺三保「アメリカン・ゴシップ」、今月は3D映画の話。アメリカじゃ今年に入ってから3D上映の観客の比率が下がってるとか。3D率が採鉱なのは、やったね「パシフック・リム」で5割。うんうん、あれは映像を見る映画だからねえ。ロケットパンチは名訳。芦田愛菜の場面、あの人がコクピットから姿を表す所じゃ思わず泣いたよ、あたしゃ。わかってるよねえ、デル・トロ監督。

 大橋博之「SF挿絵画家の系譜」、今回は竹中英太郎。特高課でバイトしてる時、押収した社会主義文献を読んで影響を受けたってのに爆笑。

 以下、余談。今回のコミック特集は、意図的に台詞の内容やストーリーのネタを避けた。これには理由があるのだ。

 マンガの評論が沢山ある中で、私が最も感心したのは、いしかわじゅんの「漫画の時間」。長いキャリアを持つプロの漫画家が書いた本だけあって、鋭い視点を提供してくれる。絵だ。松苗あけみの目、横山光輝の月、大友克洋のバイクなどの例を挙げ、マンガの中の絵の重要性をわかりやすく教えてくれる。

 全く、そのとおりだと思う。例えば絵柄は、マンガのとっつきやすさを大きく左右する。私は70年代の少年マンガっぽい絵が好きで、いかにも少女マンガな絵は苦手だ。お陰で田村由美のBASARAなんて大傑作を暫く読み逃していた。「絵が並ぶ」のもマンガの特徴で、コマの割り方によって印象が大きく変わる。一般に大きなコマは重大な事柄を示し、小さなコマは補足的な役割を担う。コマの大きさで、お話を読み解くためのメタ情報を示しているのだ。

 同じ事象でも、ロングで全身を描くか、アップで顔を描くかで、全く違う意味になる。例えば、高校生の男女が正面衝突して、女の子が男の子の上に四つんばいになるシーン。平凡な人なら、横から全身を描くだろう。少年マンガなら、下から女の子を見上げるし、少女マンガなら女の子視点で男の子を見下ろす。そして矢吹健太郎なら、スカートのめくれた女の子を後ろから描く。作家により、作品により、テーマにより、描き方は自在に変わる…または、描き方で、作品の方向性や主題が大きく違ってしまう。

 書き込めばいいってモンじゃないのも、マンガの面白い所。三浦健太郎の「ベルセルク」の魅力の多くが、執拗な書き込みにあるのは全面的に認める。と同時に、簡素化した絵にもちゃんと価値がある。同じベルセルクでも、単純な腺で描いたパックやイシドロは、緊張した雰囲気の中で読者に息継ぎを与えると同時に、「彼の言葉を真に受けないでね」という、物語を読み解く上で読者の助けになる重要な情報も与えている。

 また、背景を省略する場合もある。これで、読者の注意を人物に集中させる。逆にロングにすれば、それは舞台や背景を伝えるコマだ。読者はソレを特に意識せずとも、「何に注目すべきか」が自然とわかるように、上手なマンガは描かれている。巧ければ巧いほど、読者はそこに仕掛けられた作者の工夫に気がつかない。

 つまり私はこう言いたいのだ。「マンガは絵に多くの魅力がある」と。コマ割り、ロングかアップか、見下ろすか見上げるか正面か横向きか、デフォルメするかしないか、腺が太いか細いか。日本のマンガは、そういった多彩な技術やノウハウを、独自かつ高度に発展させてきた。こういう実際に使われている技術やノウハウも、日本のマンガを支える重要な柱なんだと思う。

 などと偉そうに演説しちゃいるが、私は絵が描けないので、かなり情けない評になっちゃったけど、とりあえず素人なりに絵の魅力に拘って語ってみた。ハズしてる所も沢山あると思う。詳しい人は教えてくれると嬉しい。

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