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2013年8月12日 (月)

宇治谷猛「全現代語訳 日本書紀 上・下」講談社学術文庫 1

 昔、天と地がまだ分かれず、陰陽の別もまだ生じなかったとき、鶏の卵の中身のように、固まっていなかった中に、ほの暗くぼんやりと何かが芽生えを含んでいた。やがてその澄んで明らかなものは、のぼりたなびいて天となり、重く濁ったものは、下を覆い滞って大地となった。

【どんな本?】

 古事記と並び日本の古代の歴史を伝える文献ではあるが、一般に多く流布した古事記と比べ、日本書紀はあまり馴染みがない。物語風で神代の巻が覆い古事記に比べ、日本書紀では歴代天皇の記述が多くを占め、また豪族や地名の由来の記述が多く、歴史書として当事の政治情勢を強く反映した様子が伺える。

 講談社学術文庫の上下巻は、読解が難しい漢文で書かれた日本書紀を、読みやすい現代語に翻訳したものであり、日本の古代史の入門用として優れた資料となる。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 解説によれば、成立は奈良時代の720年。講談社学術文庫の全現代語訳は1988年8月10日第1刷発行。私が読んだのは1988年8月31日の第2刷。文庫本で縦一段組み上下巻で本文約363頁+約339頁=約702頁。8.5ポイント41字×16行×(363頁+339頁)=約460,512字、400字詰め原稿用紙で約1152枚。長編小説なら2冊分ぐらい。

 訳文そのものは比較的にこなれている。が、なにせ元が古代の文章であり、しかも漢文だ。表現などはイマイチ分かりにくいし、出てくる固有名詞や地名もよくわからない。また意味不明な文章も多い。とまれ、主な舞台は近畿・中国・北九州なので、地元の人には馴染み深いかも。

 などと難渋する要素が多い上に、奇異な点や矛盾する記述も多い。編纂時の政治的な意図もあるし、古代史・ミステリ・伝奇物・怪奇物が好きな人だと、推理や妄想に頭を占領され、なかなか読み進められないので要注意。

【構成は?】

上巻
  まえがき/九国名地図/国県対応表
 巻第一 神代 上
 巻第二 神代 下
 巻第三 神日本磐余彦天皇(かむやまといはれびこのすめらみこと) 神武天皇
 巻第四 神渟名川耳天皇(かむぬなかはみみのすめらみこと) 綏靖天皇
      磯城津彦玉手看天皇(しきつひこたまてみのすめらみこと) 安寧天皇
      大日本彦耜友天皇(おほやまとひこすきとものすめらみこと) 懿徳天皇
      観松彦香殖稲天皇(みまつひこすきとものすめらみこと) 孝昭天皇
      日本足彦国押人天皇(やまとたらしひこくにおしひとのすめらみこと) 孝安天皇
      大日本根子彦太瓊天皇(おほやまとねこひこふとにのすめらみこと) 孝霊天皇
      大日本根子彦国牽天皇(おほやまとねこひこくにくるのすめらみこと) 孝元天皇
      稚日本根子彦大日日天皇(わかやまとねこひこおほひひのすめらみこと) 開化天皇
 巻第五 御間城入彦五十塑殖天皇(みまきいりびこいにえのすめらみこと) 崇神天皇
 巻第六 活目入彦五十狭茅天皇(いくめいりびこいさちのすめらみこと) 垂仁天皇
 巻第七 大足彦忍代別天皇(おほたらしひこおしろわけのすめらみこと) 景行天皇
      稚足彦天皇(わかたらしひこのすめらみこと) 成務天皇
 巻第八 足仲彦天皇(たらしなかつひこのすめらみこと) 仲哀天皇
 巻第九 気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと) 神功皇后
 巻第十 誉田天皇(ほむだのすめらみこと) 応神天皇
 巻第十一 大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと) 仁徳天皇
 巻第十二 去来穂別天皇(いざほわけのすめらみこと) 履中天皇
       瑞歯別天皇(みつはわけのすめらみこと) 反正天皇
 巻第十三 雄朝津間稚子宿禰天皇(をあさづまわくごのすくねのすめらみこと) 允恭天皇
       穴穂天皇(あなほのすめらみこと) 安康天皇
 巻第十四 大泊瀬幼武天皇(おほはつせのわかたけるのすめらみこと) 雄略天皇
 巻第十五 白髪武広国押稚日本根子(しらかのたけひろくにおしわかやまとねこのすめらみこと) 清寧天皇
       弘計天皇(をけのすめらみこと) 顕宗天皇
       億計天皇(おけのすめらみこと) 仁賢天皇
 巻第十六 小泊瀬稚鷦鷯天皇(おはつせのわかさざきのすめらみこと) 武烈天皇
 巻第十七 男大述天皇(おほどのすめらみこと) 継体天皇
 巻第十八 広国押武金日天皇(ひろくにおしたけかなひのすめらみこと) 安閑天皇
       武小広国押盾天皇(たけをひろくにおしたてのすめらみこと) 宣化天皇
  小見出し索引
下巻
 巻第十九 天国排開広庭天皇(あめくにおしはらきひろにはのすめらみこと) 欽明天皇
 巻第二十 渟中倉太珠敷天皇(ぬなかくらのふとたましきのすめらのみこと) 敏達天皇
 巻第二十一 橘豊日天皇(たちばなのとよひのすめらみこと) 用明天皇
         泊瀬部天皇(はつせべのすめらみこと)崇峻天皇
 巻第二十二 豊御食炊屋姫天皇(とよみけかしきやひめのすめらみこと) 推古天皇
 巻第二十三 長足日広額天皇(おきながたらしひひぬかのすめらみこと) 舒明天皇
 巻第二十四  天豊財重日足姫天皇(あめとよたからいかしひたらしひめのすめらのみこと) 皇極天皇
 巻第二十五 天万豊日天皇(あめよろづとよひのすめらみこと) 孝徳天皇
 巻第二十六 天豊財重日足姫天皇(あめとよたからいかしひたらしひめのすめらみこと) 斉明天皇
 巻第二十七 天命開別天皇(あめみことひらかすわけのすめらみこと) 天智天皇
 巻第二十八 天渟中原瀛真人天皇(あまのぬなはらおきのまひとのすめらみこと) 天武天皇 上
 巻第二十九 天渟中原瀛真人天皇(あまのぬなはらおきのまひとのすめらみこと) 天武天皇 下
 巻第三十 高天原広野姫天皇(たかまのはらひろのひめのすめらみこと) 持統天皇
  あとがき――解説に代えて――/参考文献
  付録 五行・十干・十二支 干支順位表 皇室系図 「日本書紀」関連年表(神武天皇――持統天皇)

【感想は?】

 一級品のミステリ。

 「まえがき」によれば、古事記は文学書で日本書紀は歴史書。Wikipedia によると「伝在する最古の歴史書」ではあるけど、「最古の歴史書」ではない模様で、例えば巻第二十四・皇極天皇に「蘇我臣蝦夷らは殺される前に、すべての天皇記・国記・珍宝を焼いた」とある。

 歴史書としても奇妙な点が多い。最初の天地開闢からして、「ある書ではこういっている」「また一書では」…と、九つの仮説を併記している。この併記様式、巻が若いほど併記が多く、後になるほど減っていく。何か事情があるんだろうか。

 さすがに神代は古事記でも馴染みの内容が多い。神話ってのはパターンが決まっているのか、イザナギノミコトがイザナミノミコトを追って黄泉の国に行き「覗いちゃイヤ」と言われてるのに覗くあたりは、ギリシア神話のオルフェウス(→Wikipedia)を思わせる。また、鍛冶の神様が「天目一箇神(あまめのひとつのかみ、→Wikipedia)」ってのが、これもギリシア神話のヘパイストス(→Wikipedia)を連想してしまう。

 「覗いちゃイヤ」「でも覗く」パターンは海彦・山彦の山彦こと彦火火出見尊(ひこほほでのみこと、→Wikipedia)が再演。奥様の豊玉姫が「出産の時に覗かないでね」と言ってるのに…。まあ「見ちゃイヤ」と言われると見たくなるのは男の性。「鶴の恩返し」にも出てくるし、日本の伝統芸でしょう←をい

 神武天皇(→Wikipedia)が127歳と異様に長命なのは有名で、これも色々な解釈ができる。もうひとつ気になるのが、この頃は即位してすぐ遷都してること。この二つをあわせると、まず二つの可能性が思い浮かぶ。

  1. 最初の頃の天皇は、人物ではなく覇権の移動を示す。その当事の最も有力な豪族の本拠地を都とした。
  2. 王朝は連続している。当事の天皇は人物ではなく王朝の本拠地を示す。つまり即位→遷都ではなく、遷都を即位と解釈した。

 まあ、それ以前に「そもそも日本書紀の記述が信用できるのか?」って問題があるんだけど。

 「日本人のルーツ」とかを考えると、やっぱりイロイロとヒントが隠れている。まず気がつくのは、航海術に長けていること。この本の冒頭に「旧国名地図」があって、これを見て「うわ!」と叫んでしまった。大きな区分として東海道とか山陽道とかあるんだが、それぞれの「道」は、東西に細長い。当事の運輸は水運が盛んで、水運を基準に地域を分けたと考えれば辻褄があう。

 メイン・ウエポンが弓なのも、当事の特徴。これも幾つか解釈ができて。確か戦国時代あたりまでは礫や弓が主力で、次いで槍って話があるから、あまり戦の抽象化が進まず実態に近い描写になったのか、水上での弓の射あいが多かったのか。いや今思いついたんだが、当事の主要金属は青銅だから、矛や剣は、あまり威力がなかったのかなあ。

 やはり東征に代表されるように、陛下自らの出陣が多い事にも気がつく。「正式な歴史書」である以上、唐に渡る事も配慮してるだろうから、中国の各王朝が武力で統一した事に倣ったとも考えられるけど、本来の大和王朝は荒々しい存在だった、とするのが自然だろうなあ。

 記述で奇妙なのが、有名な日本武尊(ヤマトタケルノミコト、→Wikipedia)の熊襲征伐。女装して云々が有名だが、初登場の時の紹介は「壮年になると、容貌は溢れるばかりの逞しさ」「身丈は一丈」って、約3メートル?まあ、この不自然さに加えて、実は日本武尊の熊襲征伐は第二次。第一次があって、これが…

熊襲梟師(クマソタケル)には二人の娘・市乾鹿文(いちふかや)と市鹿文(いちかや)がいた。景行天皇は市乾鹿文を抱きこむ。市乾鹿文は熊襲梟師を酔わせ弓の弦を切り、手下が熊襲梟師を暗殺する。景行天皇は市乾鹿文の親不孝を憎み、彼女を殺す。

 …なんか日本武尊の手口とソックリだし、クマソタケル死んでるじゃん!と思ったら、日本武尊が倒すのは魁帥と書いてタケルと読む人で、またの名を取石鹿文(とろしかや)または川上梟師(かわかみのたける)。どうもタケルというのは熊襲の長を示すっぽい。

 ってのは置いて。先の市乾鹿文の話が、日本武尊の直前に出てくるってのが、謎。どうみてもパクリで、しかもハッキリとわかる形で記してるのは、どういう事なんだろう?「また一書では」とするつもりが何かの事情で省かれたのか、多数のチームに分かれ編纂したための不整合なのか。

 同様に巻第七では、伝奇物ファンにはお馴染み武内宿禰(→Wikipedia)が登場して…などと妄想に浸りつつ、次の記事に続く。

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