ロバート・ヤーハム「自然景観の謎」産調出版 ガイアブックス デイヴィッド・ロビンソン監修 武田裕子訳
プレートは大別すると、比較的年代が古く軽い花崗岩質で非常に厚い大陸プレート(シリカとアルミニウムを多く含み、シアルとも呼ばれる)と、薄いが密度が高く比較的新しい玄武岩質の海洋プレート(シリカとマグネシウムを含み、シマとも呼ばれる)の2種類となる。
――地球の構造 対流による移動
【どんな本?】
河はなぜ蛇行するのか。グランド・キャニオンのような切り立った崖や谷は、なぜできたのか。富士山はなだらかな姿なのに、マッターホルンはなぜナイフの刃のように鋭くそびえているのか。草原にポツンとある巨岩は、どこから来たのか。なぜ泉が湧くのか。エアーズ・ロックやデビルズ・タワーは、どうやってできたのか。
考えてみれば、地形とは不思議なものだ。河はまっすぐに流れればよさそうなもんだし、切り立った崖なんですぐに崩れて埋まりそうな気がする。様々な地形が、どのように始まり、どう発達して、どう出来上がり、そして将来はどうなるのか。イギリスの地形学者が多数のカラフルなイラストと写真で、地形の出来上がりを解説する。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
原書は HOW TO READ THE LANDSCAPE, by Robert Yarham, 2010。日本語版は2012年7月1日発行。単行本ソフトカバーで横組オールカラー255頁。185mm×138mmの独特の版型。イラストや写真が主体の本なので、文字の分量はあまり意味がない。
カラーのイラストや写真が中心の本であり、4コマ・マンガを見る雰囲気で、スルスルと頭に入っていく。
【構成は?】
序文/はじめに
第1章 ランドスケープを理解する 地球/さまざまな作用
第2章 ランドスケープを読み解く
高地のランドスケープ
低地のランドスケープ
海岸のランドスケープ
カルスト地形
その他のランドスケープ
人工的なランドスケープ
第3章 地図からランドスケープを読む
地図の種類/ナビゲーション
用語解説/参考資料/索引
原則として一つの見開きで一つの記事が完結する構成。説明の主体はイラストで、一つの地形が出来て崩れるまでを、カラーの4コマのイラストで解説するスタイルが中心。
【感想は?】
やはり絵と写真の力は絶大。デビルズ・タワー(→Wikipedia)とかの奇妙な風景が、どうやってできたのか、たった4コマのイラストを見ただけで「おお!」と分かってしまった。
頑張って文字で説明してみよう。
- 元は火山。そうだな、あんパンを想像して欲しい。アンコのかわりに溶岩が、パンのかわりに山の岩や土砂がある。
- やがて溶岩が冷えて花崗岩になる。
- 雨などで、花崗岩の周りの岩や土砂が洗い流される。
- 残った花崗岩が、デビルズ・タワー。
ってのが、たった4コマのイラストを見るだけでわかる構成だ。実に嬉しい。
さすがにデビルズ・タワーなどは、あまりに特異なので馴染みがないけど、湧水とかも考えてみれば不思議な現象だ。つまりは地下水脈が地表に露出したわけで、いわば自然のカナート(→Wikipedia)。そもそも地下水脈がなぜできるのかすら、私は知らなかった。要は、地層によって水を通す地層と通さない地層があって、通さない地層の上に水が溜まって地下水となるわけです。
地層が均質でなく、色々な性質の地層が重なっているため、ヒトは井戸が使えるし、温泉に入れる。地殻運動のせいで日本は地震に見舞われるけど、同時に温泉がアチコチにある。SF読みとしては、異星を舞台とした作品や、テラフォーミングを題材にした作品を読む際に、参考になりそう。
山によっては、南から登るルートと北から登るルートで傾斜や登坂の難しさが全然違う場合があるけど、この原因もイラスト一発でわかるから嬉しい。ようは断層なんだけど。激しい傾斜は断層で、緩やかな傾斜は、元は平らだった所。
滝ができる過程も、イラスト一発でわかる。堅い岩石層とやわらかい岩石層の境目を、河が流れる。柔らかい岩石層はどんどん浸食され、滝つぼになる。滝つぼは水の勢いが大きいから、どんどん深くなる。たまに堅い岩石層も割れるんで、基本的に滝は上流の方へ移動してゆく…って、やっぱし文字で説明してもわかんないよね。
マッターホルンとかの急峻な山は、氷河によって山肌が削り取られて形成されたもの。お皿に盛ったアイスクリームを、スプーンで端から削り取っていく感じかな?
水や氷の力ってのは凄くて、海岸の崖や洞窟も水の力。この辺まで読んでて感じるのは、水の力って、基本的に正のフォードバックが効いてるな、って事。海辺の洞窟とかは、崖に押し寄せた波が、崖の弱い所を掘る形で始まる。掘れてくると、そこに波の力が集中して、更に洞窟を深くしてゆく。クッキーとかも、一旦ヒビが入ると、そこから割れていくでしょ。…って、例えが食べ物ばっかりだな、俺。
天橋立みたいな砂嘴(さし)が出来るプロセスは、河と海流の相互作用によるもの。海流が運んだ石などが河口に溜まり、これが天然のテトラポットとなって砂も溜めてゆく。それがドンドン発達したのが、天橋立。
石炭にも色々あるってのは知ってたけど、どう違うのかが分かったのも収穫。基本的に古い地層のモノほど高品質。つまりは堆積した植物が変化したものが石炭なんだけど、比較的に新しいのが泥炭。圧縮が進むと共に褐炭・石炭・無煙炭と高品質になっていく。品質のいい石炭は、基本的に深い所に埋まってる理屈になる。
日頃、なんとなく見ている風景も、それができた過程にはちゃんと意味がある。その過程を考えると、散歩も楽しくなりそう。掲載している写真も、このまま壁紙にしたいくらい綺麗なのが多くて、これこそ電子書籍で出して欲しい。
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