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2013年7月15日 (月)

エドワード・O・ウィルソン「社会生物学 合本版」新思索社 伊藤嘉昭日本語版監修 第Ⅰ部

 本書は社会生物学を、進化生物学とりわけ現代集団生物学の一分野として体系化しようと試みるものである。

【どんな本?】

 生物学の世界で大きな話題を呼び、大論争を巻き起こした話題の本。基本的には生物の個体を遺伝子のヴィークルと見る立場を基調とし、個体が集団となった場合の同種間の相互作用や、異種との被食・捕食関係などを洗い出し、その淘汰や進化(または種の分化)の様子などを定式化しようとする試み…なんじゃ、ないかな←をい。

 なにせ内容が高度な上に分量も多いので、何回かに分けて書評します。今回は「第Ⅰ部 社会進化」の部分だけ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Sociobiology : The New Synthesis, Edward O. Wilson, 1975。日本語版は最初に5分冊で出たが、私が読んだ(というか今読んでいる)のは1999年9月10日の合本版。ハードカバー横一段組みで本文約1140頁の重量級。9ポイント36字×32行×1140頁=約1,313,280字、400字詰め原稿用紙で約3284枚。長編小説6~7冊分。

 日本語の文章は現代の基準から見てかなり堅い。また内容も高度で、ズバリ大学、それも専門課程の教科書と思っていい。最も大きな難関は、実は生物学ではなく数学。生物学は、せいぜい遺伝子のヘテロ接合とホモ接合ぐらいで充分なので、理科が好きな中学生でもなんとかなるだろう。

 が、数学は、ΣやΔや行列式などが続々と出てくるので、記号を見ただけで頭痛がする人には苦行となる。ザッと見る限り、微分は四則演算程度で充分なのだが、重要なのは確率と統計。例えば任意の遺伝子が集団の中で絶滅または定着する確率を求める、なんて計算が何度も出てくる。

 ま、私は大半の数式を読み飛ばしてるんだけど←をい

【構成は?】

 日本語版への序/日本語版監修者のまえがき/合本版への日本語版監修者のまえがき/翻訳分担
第Ⅰ部 社会進化
 第1章 遺伝子の倫理
 第2章 社会生物学の基本概念
 第3章 社会進化の原動力
 第4章 集団生物学の原理
 第5章 群淘汰と利他現象
第Ⅱ部 社会機構
 第6章 集団の大きさ、繁殖、時間-エネルギー収支
 第7章 社会行動の発達と修正
 第8章 コミュニケーション:基本原理
 第9章 コミュニケーション:その機能と複合的システム
 第10章 コミュニケーション:起源と進化
 第11章 攻撃
 第12章 社会的間隔、縄ばりを含む
 第13章 順位システム
 第14章 ロールとカスト
 第15章 性と社会
 第16章 親による子の保護
 第17章 社会的共生
第Ⅲ部 社会的な種
 第18章 社会進化の四つの頂点
 第19章 群体制の微生物と無脊椎動物
 第20章 社会的昆虫
 第21章 冷血脊椎動物
 第22章 鳥
 第23章 哺乳類における進化的傾向
 第24章 有蹄類と長華類
 第25章 食肉類
 第26章 ヒトを除く霊長類
 第27章 ヒト:社会生物学から社会学へ

  文献/動物名索引/人名索引/事項索引/用語集/監修者および訳者略歴

 訳者は坂上昭一/粕谷英一/宮井俊一/伊藤嘉昭/前川幸恵/郷采人/北村省一/巌佐庸/松本忠夫/羽田節子/松沢哲郎。今回の記事は、上の黒字の部分。グレーの部分は、追っていつか紹介…するつもり。

【感想は?】

 実は少し後悔している。実物を見れば判るが、物理的に大変な迫力で、しかも内容がまた見かけ以上の歯ごたえなのだ。本文だけで千頁越え、重量1.5kg。通勤電車で読めばシェイプアップに役立つだろう。内容もΣだのΔだの数式がアチコチに出てきて、なかなか進まない…結局、数式は読み飛ばしてるんだけど。

 そんなわけで、読み終えるまでかなり手間がかかるため、適当に区切りがついた所で記事を書く形で、何回かに分けて書評する事にした。書かないと私も記事の書き方を忘れちゃうし。

 今回は「第Ⅰ部 社会進化」。導入部として、社会生物学に必要な基礎概念・用語などから、実験や観察で配慮すべき事柄などを初めとして、社会生物学が目指す方向性・目標などを述べている。

 私のように野次馬根性で読んでいる者にとって、一般に生物学の本は、具体的なエピソードが楽しいのだが、この本の第Ⅰ部は抽象的な話が多いため、野次馬視点ではやや退屈かもしれない。たぶん、Ⅱ部以降は面白くなってくる…と思う。

 とまれ、幾つかの点で興味深い話もあって。そもそも、なんで群れを作るのか、という話とか。狼などチームで狩りをするならともかく、蚊やハトなど食われる側の動物が、群れになって何の利益があるのか。

 ひとつは、捕食者の満腹。何匹かは食われるけど、残りは逃げられる。野生動物はあまし貯蔵しないから、被害は一度の食事分だけで済む。また「数は力」ってのもあって、サシじゃ敵わなくても集団ならボコれる。エサ場が分散してるなら、ソコを知ってる個体の後についていけば確実にメシにありつける。面白いのがウミガメの赤ちゃん。

 アオウミガメは砂浜に穴を掘り、100個ほどの卵を産みつけ穴を埋める。Archie Carr はこれを掘り出し、「卵を1個から10個に分けて再び産め」た。1個だけの卵は27%しか地上に達しないが、2個だと84%が地上に出た。集団だと上にいる仔が上に掘り進み、下の仔が落ちた土を踏み固める。そうやって、空間が泡のように上がってゆくのですね。

 スティ-ヴン・ジェイ・グールド(→Wikipedia)などが提唱している断続平衡説(→Wikipedia)。私は「種の分化は小さい群れで起きやすい」と思ってて、これを裏付ける話が出てきた。ほぼ半々の割合で存在する対立遺伝子が消失または定着する確率は、集団の大きさで変わる。個体数10~100なら「毎世代遺伝子座あたりおよそ0.1から0.01」、一万なら10-4、10万以上なら「無視できる」。

 孤立した小数の群れで発生した突然変異は定着しやすく、競争相手の同種に比べ生存・生殖に有利なら、その群れ(新種)は元種を駆逐して急激に個体数を増やす。そして個体数が増えると変化は停滞する。ま、妄想ですが。

 興味深いのが、「繁殖価」という考え方。その個体がどれぐらい子孫を残すか、という意味なんだけど、意外と幼生の価値が低い。これは、野生状態だと幼生は死に易いからで、つまりは「その個体が繁殖期まで生き延びる確率」も関わってくるから。タラコを食べるのは理に適ってるんです、たぶん。もちろん、産卵を終えた鮭も繁殖価はゼロ。

 他に利他的な行動、例えば捕食動物に襲われた(または狙われた)状況で悲鳴をあげる性質なども考察してて、なあこれは予想通り。よく見てると霊長類に関する部分では日本人の貢献が大きくて、たとえばキチンと固体を識別する観察方法を賞賛してたりするのが嬉しい。

 たぶん、これから具体的なエピソードが増えて面白くなってくると思うので、のんびり読んでいくつもり。

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