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2013年7月27日 (土)

「歴史群像アーカイブ2 ミリタリー基礎講座 戦術入門WW2」学習研究社

 中隊の防御火網は、中隊でもっとも大きな火力を持つ火器である重機関銃を軸として構成される。
  ――戦術入門 歩兵中隊/大隊/連隊

【どんな本?】

 雑誌「歴史群像」に掲載した記事を、テーマごとに集めて再編集したムック。第二次世界大戦の参戦国の軍を標本として、陸軍組織の構成要素である小隊・中隊・大隊・連隊・師団などを、人数・役割・武装や装備・階級・歴史・特徴などを、初心者向けにわかりやすく説明する。また、実際の戦場での理想的な行動を、攻撃・防御・追撃などの各段階にわけて解説してゆく。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年5月15日第1刷発行。B5版ソフトカバー縦4段組128頁。8ポイント19字×32行×4段×128頁=約311,296字、400字詰め原稿用紙で約779枚だが、写真やイラストを多数掲載しているので、実質的な文章量は半分ぐらい。

 軍事の本だけにお堅い単語が並ぶものの、文章としては意外と素直で読みやすい。内容もよく考えられていて、歩兵分隊からボトムアップで師団へと登ってゆく構成は、具体的な武装や任務が脳内にイメージできるため、とてもわかりやすい。

【構成は?】

戦術入門 歩兵分隊/小隊 田村尚也
戦術入門 歩兵中隊/大隊/連隊 田村尚也
戦術入門 歩兵師団 田村尚也
戦術入門 機甲編Ⅰ 単車~戦車小隊 田村尚也
戦術入門 機甲編Ⅱ 戦車中隊~連隊 田村尚也
戦術入門 機甲編Ⅲ 機甲師団 田村尚也
戦術入門 師団砲兵 田村尚也
戦術入門 実践編Ⅰ 攻撃機動 田村尚也
戦術入門 実践編Ⅱ 防御 田村尚也
戦術入門 実践編Ⅲ 追撃・離脱・遅滞行動 田村尚也
鉄路の補給戦 宇垣大成
進化する兵站システム 宇垣大成
師団 瀬戸利春
参謀本部 瀬戸利春
コラム 後方支援の多様性 樋口隆晴
コラム 日本陸軍の内務班 樋口隆晴
巻末付録 各国歩兵師団の編成 編集部

【感想は?】

 ニワカ軍オタが随喜の涙を流して喜ぶ、理想的な現代の陸軍組織の入門書。

 書名は「戦術入門 WW2」だ。確かに小隊や師団などの組織ごとに、どんな人数で・どんな武装で・どんな役割を・どんな方法で果たすのか、という形で話が展開する。それが、思わぬ効果を発揮して…

 普通の素人は、小説や軍記を読んで、「小隊」や「連隊」などの言葉が出てきても、イマイチ意味が分からない。多少は詳しくなっても、せいぜいが「小隊→中隊→大隊→連隊の順に組織が大きくなっていく」ぐらいで、個々の言葉が持つニュアンスまで掴める人は少ないだろう。

 それが、この本の前半を占める、田村尚也氏の連載記事を読めば、「中隊」「連隊」「師団」の持つ特別な意味やイメージが、ハッキリと伝わってくるのだ。

 結果として、書名は「戦術入門」だが、実質的には「陸軍組織入門」とも言える内容だ。

 標本として、第二次世界大戦に参戦した各国、具体的には日本・アメリカ・ドイツ・イギリス・ソ連を使っている。第二次世界大戦では、いささか古いように思えるが。

 この本は、単に例を挙げるだけでなく、各国の軍が、どんな理想を掲げ、どんな目的で計画したのか、などの理論・原理的な側面を抑えた上で、現実にはどんな条件に制約され、どんな形で編成し、結果としてどんな長所・短所を見せたか、という形で展開してゆく。こんな風に理論→現実の形で説明してもらえると、読んでいて面白いし、理屈もすんなり頭に入る。つまり、軍組織の基礎が自然と理解できてくるのだ。

 現代の各国の陸軍も、基本的には第二次世界大戦の組織を基礎とし、それをアレンジする形で発展してきた。武装にしたって、小銃が自動小銃に変わり、野砲が自走砲や地対地ミサイルに変わったけど、基本的な役割は同じでだ。自動小銃は歩兵の武装だし、地対地ミサイルは師団またはそれ以上の単位の配備だ。つまり、この本で基礎をマスターしておけば、現代の軍組織も、その応用で理解できるため、現代でも充分に通用するのだ。

 「中隊」や「連隊」などの言葉は、単に組織編制の単位だけではない。それぞれに、独特の「匂い」や「帰属感」がある。冒頭の引用は、中隊の意味を掴むのにピッタリな文章だ。つまり、歩兵中隊とは「重機関銃を運用する単位」と見なせる。が、実際に従軍する兵や将校の立場で見ると、それだけではないことが、この本を読むとわかる。

 例えば、エイブラム・カーディナーの「戦争ストレスと神経症」では、「PTSDの症状を示した兵は、なるたけ大隊から引き離すな、あくまで大隊との心の絆を維持させろ」とある。なぜ大隊なのか、なぜ連隊や師団でないのか、この本を読んでわかった。

 中隊は、多くの国の軍隊で平時の兵営生活の基本単位であり、炊事や教育も中隊単位で行われることが多かった。(略)同じ中隊に所属する兵士は文字通り「同じ釜のメシを喰う」戦友なのだ。

 大隊と中隊の違いはあるが。兵にとっては、軍に入った時から、一緒に居る仲間の最大単位が、(当事のアメリカ陸軍では)大隊なんだろう。同じ大隊と一緒にいる限り、兵は見知った仲間と苦楽を共にしている、そういう気持ちを持ち続けられるって事なんだろう。戦況によっては、同じテーブルで一緒にメシも喰えるだろうし。ということで、兵にとっては中隊は特別な単位なのだ、という事がこの本ではわかる。

 同様に、将校にとっては、連隊が帰属感の単位となる。兵装も、連隊には対戦車砲中隊がついたり(アメリカ軍・ソ連軍・ドイツ軍)、通信中隊(日本軍)がついたりする。まあ、アメリカ軍は大隊に対戦車砲小隊がついたりするんだが、これは金満国家なればこそ。

 師団の大きな違いは、「工兵」が所属することだろう。トーチカで堅い陣地を作ったり、仮設橋を架けたりする、危険で忙しい人たちだ。また、日本軍では、輜重・野戦病院の単位でもあった。兵站の独立単位なわけだ。

 書名にもなっている戦術なのだが、実はこれ、分隊から師団まで、単位と武器こそ違え、基本原理はみな同じだから面白い。曰く「ファイヤー・アンド・ムーブメント」。つまり、隊を二手に分け、片方が攻撃して牽制している間に、もう一方が回りこんで横や後ろから叩く、または交互に前進する、それだけである。歩兵小隊だろうが師団だろうが、果ては戦車ですら基本は同じ。つまるところ、戦闘力とは火力と機動力なんだなあ。

 ってな説明で、圧倒的な威力を発揮しているのが、豊富に掲載しているイラスト。先のファイヤー・アンド・ムーブメントの原理もそうだし、ドイツ軍の快進撃を実現した電撃戦も一発で理解できるし、第一次世界大戦が凄惨な塹壕戦になった理由も、ファイヤー・アンド・ムーブメントの原理で飲み込める。戦車が怖いのは、単に無敵の戦闘力があるだけでなく、やっと形成した前線が千切られちゃうから。グデーリアンが提唱した戦車の集中運用の意味も、結局はファイヤー・アンド・ムーブメントの原則から導かれるから凄い。

 終盤の記事「参謀本部」も、なかなか興味深い内容。ナポレオンの時代から参謀の歴史と役割を解説しつつ、太平洋戦争での日本軍とアメリカ軍の「参謀」と「司令官」の関係の違いを指摘する内容は、両国の軍の体質の違いを鮮やかに照らし出す。

 書名こそ「戦術入門」だが、実質的には「初心者向け陸軍入門」と銘打っていいぐらいの、わかりやすく包括的で、かつ面白い充実した内容。なんで砲が自走すると嬉しいのか、無人偵察機のドコが怖いのかなど、現代の軍事にも充分に通用する理屈が、親しみやすいイラスト一発で頭に入ってくる、ニワカ軍オタなら狂喜乱舞間違いなしの入門書。

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