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2013年6月30日 (日)

SFマガジン2013年8月号

佐々木敦「…フィクション=虚構については、ジャンルを問わず、おしなべてそうだと思いますが、現実を忘れるための虚構と、現実を考えるための虚構がある。…」
大橋可也「自分の作品も、現実から乖離したものではなく、観たあとに現実に戻ってくると、周りの見えかた、感じかたが少し変わってくるような作品にしたいんです」
  ――「グラン・ヴァカンス」上演記念特別対談 ダンスとSFの親近性 大橋可也×佐々木敦

 280頁の標準サイズ。今月の特集は「日本ファンタジイの現在」として、乾石智子/勝山海百合/中村弦/西崎憲の小説に加え、読書ガイド「日本ファンタジイ必読作家20選」。

 まずは乾石智子「春告鳥」。<星の老人>は地から<ダカン>を掘り出す。人は家系からダカンを受け継ぐことはできるが、自分が<星の老人>から貰えるのは一生に一度だけ。人はダカンと強い絆を結び、人により様々な魔法が使えるようになる。かつて故郷クリアルから出奔した魔法使いオウルムに、故郷から若い客人ダナイエンが訪ねてきた。クリアルに危機が迫っている、助けて欲しい、と。
 異世界を舞台とするハイ・ファンタジイだが、世界観がとても明確で、ルールがすんなりと頭に入ってくる。登場人物の人物像も思い浮かぶし、物語の流れもわかりやすく、「おはなし」として綺麗にまとまっていて、作家としての職人芸の巧みさが光る。今回の特集では、私はこれが一番好き。クライマックスのシーンも迫力あるし、映像化したら映えるだろうなあ。

 二番手は勝山海百合「チョコレートとあぶらあげ」。ヘルシンキからロヴァニエミへの出張を終え、僕はヘルシンキに向かうフィンランド鉄道の夜行列車に乗り込んだ。二年前の2008年、東京は大災害に襲われ、首都機能を福岡に移した。その頃、僕はヘルシンキ郊外の大学にいた。
 「なぜフィンランドであぶらあげ?」と不思議に思いながら読んでいくと、「そういうことか」と納得。北欧といってもフィンランドは微妙に印象が違って、よくいえば牧歌的、悪くいえば田舎。スウェーデンがイングランドだとすれば、フィンランドはアイルランド。ムーミンやカレワラやサンタクロースの土地で、何が出てきてもおかしくない雰囲気で、ファンタジイの舞台としては格好の国。このまんま長編にしても面白そう。

 三番手は中村弦「廃園の昼餐」。おれは気づいたときには全知だった。おれは女の腹の中、子宮にいた。おれは過去も未来も全て知っている。おれを孕んだ女が生まれたとき、父親や母親が死ぬとき、おれが死ぬときも知っている。母親は麻布に住んでいる。おれが最初に感じたのは退屈だった。
 「ファンタジイ」というより「幻想小説」と呼びたい一編。胎児の「おれ」が辿る、幻想的な風景の中の旅と、母親の百音やその家族の人生のひと時を交互に描く、幻想的で奇妙な物語。

 最後は西崎憲「フェアリー・キャッチ」前編。主人公は避暑地の民宿の子で、小学三年生の昭太郎。夏休みに入って突然に早起きになった昭太郎は、アチコチを探検して歩く。とある別荘の洋館に、今年も彼女が来ていた。齢は昭太郎と同じぐらい、大きなリボンを結んだきらきら光る髪。その日、昭太郎は不思議な旅人に出会い…
 幼い少年が、不思議な能力を持つ旅人と出会って…というお話。ちょっと懐かしい雰囲気もあり、和製ブラッドベリという感じだけど、お話の輪郭はブラッドベリよりクッキリハッキリしていて、親しみやすい。今回は前編のみで、ヒキがとっても巧い。「うおお、どうなるんだあ~!」という所で(次号へつづく)。んな殺生な。

 「日本ファンタジイ必読作家20選」は、最近頭角を現してきた作家を中心に20人を紹介。萩原規子/妹尾ゆふ子/光原百合/西崎憲/恒川光太郎/多崎礼/高橋由太/小野不由美/五代ゆう/縞田理理/西魚リツコ/廣嶋玲子/仁木英行/乾石智子/上橋菜穂子/村山早紀/畠中恵/菅野雪虫/勝山海百合/中村弦。児童文学出身の人と女性が多いのが、SFとの大きな違いかな。あと登竜門が多様なのも羨ましい。

 小説は巻末にもうひとつ、松永天馬「モデル」。神様は「光あれ」と言われた。すると闇と光が生まれ、光は発電所から街へと供給され、神様の言葉は電力会社の広告に使われた。人気モデルのまことは中学生の頃、竹下通りでスカウトされた。神様や資本主義のロールモデル。
 いきなり聖書の天地創造と現代日本の資本主義・広告万能社会をシャッフルする出だしは、なかなかに挑発的。一般人から見ると華やかで胡散臭い芸能界・広告業界をデフォルメして描きつつ、そこに現代を感じさせるガジェットを混ぜ込んでゆく。

 冒頭の引用は飛浩隆「グラン・ヴァカンス」のダンス化を記念した対談。あれをダンス化ってのが、もう想像がつかない。一体、どういう舞台になることやら。

 「ユハネスブルグの天使たち」刊行記念トークイベント採録「建築と廃墟のある風景に惹かれて」宮内悠介×大森望は、宮内氏のファンなら必読。デビュー時の大森望の千本ノックが実に厳しい。やっぱりDX9はミクだったか。しかも、なんとニコニコの住民で…。愚民ども、探し出せ!

 「SFセミナー2013」レポート。藤井大洋氏の自作アプリ、ブロガーの一人として欲しいような要らないような…やっぱりイヤだなw

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