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2013年6月 8日 (土)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 西海岸編 1」電撃文庫

「ぬほほ。テレビ見とったバイ。ぬしゃも目立ちたがり屋よのー。まだ目立ち足りんか?」

【どんな本?】

 元は2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。マニアックな内容が独特の性向を持つ人々に受け星雲賞まで獲得し、2010年にはPSP用のアーカイブとして復活を遂げた。

 そのノベライズとして2001年12月15日に発売の短編集「5121小隊の日常」から始まった榊涼介のシリーズ、こちらもコアなファンの根強い支持を受けて、入れ替わりの激しいライトノベルでありながら12年以上もシリーズを重ね、この巻で通算37巻目。

 第二次世界大戦は、意外な形で終わる。1945年、月と地球の間24万kmに突如出現した黒い月、ついで人類の天敵「幻獣」の襲来だ。圧倒的な兵力の幻獣はユーラシアを蹂躙し、人類の生存圏は南北アメリカとアフリカ南部、そして日本が残った。

 1998年、幻獣は九州に上陸。1999年、日本は二つの法案を可決する。熊本要塞の戦力増強と14歳~17歳の少年兵の招集である。壊滅寸前の自衛軍の戦力回復の時間稼ぎのため、学兵たちを投入する腹案だった。キワモノ兵器の人型戦車・士魂号三機を核とし、学兵のはみだし者を集めた5121小隊が意外な活躍を見せ、九州を奪われるものの多くの学兵を救う。

 やがて山口防衛戦・九州奪還を通し一部の幻獣勢力と和平に漕ぎ付け、北海道独立の危機を凌ぐ。名声を得た5121小隊は、米国ワシントン政府の招聘を受け新大陸へ渡る。幻獣に包囲されたニューヨーク州レイクサイドヒルの市民を救い、サムライ・ブームを巻き起こす。

 米国西海岸には、ワシントンと異なるもうひとつのアメリカ、シアトル政府があった。日本はワシントン政府を承認していたが、この機にシアトル政府との国交も樹立しようと、5121小隊を神輿としてシアトルに派遣、その陰で政・軍・財界も接触を始める。レイクサイドの英雄5121小隊はシアトルでも歓迎されるが、肝心の5121のメンバーは死地を生き延びたとはいえ、無駄にエネルギーを持て余し煩悩にまみれる十代の少年少女。戦場のストレスも重なり暴走は騒動を巻き起こし…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年6月7日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約284頁。8ポイント42字×18行×284頁=約214,704字、400字詰め原稿用紙で約537枚。諸編小説としては標準的な長さ。安定してます榊さん。

 文章の読みやすさは文句なし。戦争物ではあるが、この巻ではあまりマニアックな描写はあまり出てこない。敢えて言えば「小隊」・「将校と兵」の概念ぐらい。長いシリーズではあるが、この巻は戦況とともに舞台も変わっているので、この巻または前の連作短編集「5121小隊の日常Ⅲ」から読み始めてもいいだろう。

【どんな話?】

 シアトルの銀行に、奇妙な四人組が押し入った。十代の少年少女で、人質を取るどころか客も銀行員も追い出し、金も要求しない。しっかり者のシャロン・大人しいクラウス・お喋りなマイケル・ガタイのいいピート、小学校以来の幼馴染で、戦場帰りだ。「手榴弾で自爆する」と脅しをかけ、集まったマスコミを介してシアトルのヒーロー・5121小隊との面会を要求し…

【感想は?】

 未央ちゃん、大活躍の巻。

 テレビに道着で登場する場面から、バッチリ決まってる。芯は強く落ち着きがあり、修羅場を潜った経験も豊富。とはいえ、根はまっすぐで不器用な未央ちゃん。英語もたどたどしく、交渉役には思いっきり向かない。しかも、同行するのは、小学校二年生と机を並べる滝川。明らかに人選は失敗してるぞ四人組。つか滝川、タコス齧りながら登場って、どうよw しかも無意味ゴーグル見破られてるし。

 今回は二部構成。一部は四人のズッコケ銀行強盗を介し、シアトル政府の内幕が次第に明らかになってゆく。人質?となった滝川・壬生屋そして通訳の森のニュースを聞きつけ、5121小隊の面々が事件の解決に向け蠢動を始める。

 といった話の中で、最もスポットを浴びるのが未央ちゃん。先の「小隊の日常Ⅲ」では小学校に赴き剣道を教え、教師・児童ばかりかPTAまで支持層を広げた彼女の人望が、この巻では絶大な威力を発揮する。因縁の対決を演じたペドロとリーアムも、この巻では再び仲良く?姿を見せる。つかリーアム、見る目はあるぞ。

 などと未央ちゃんが堂々と主役を勤める中で、単なるコミック・リリーフに堕した滝川が哀れw 剣道の指導を通じ厚い人望を集める未央ちゃんに対し、小学二年生と机を並べて勉強してる有様じゃあ、なあ。でも Episode TWO の「士魂号、前へ!」じゃ子供相手に意外なコミュニケーション能力?を見せた滝川、精神年齢的に彼らと近いから←をい

 とまれ、不器用な未央ちゃんと能天気な滝川じゃ話が進むはずもなく。四人組の要求の重大さは、次第に騒ぎを大きくし、シアトル政府と日本の国交問題にまで発展してゆく。まあ、5121を人質に取った時点で、もはや抑えようがないんだけど。

 ってな中で、なんとか火消しに奔走するのが陰険眼鏡こと狩谷夏樹。クールな頭脳と爽やかな弁舌、それとは裏腹に真っ黒な腹の中を存分に活かし、直情的な連中が集まった現場を冷静に仕切っていく。やっぱりね、彼は黒くないと。人好きのする笑顔に計算ずくの陰謀こそがなっちゃんの本領。

 などと火消しに努力する秀才なっちゃんの緻密な計算を、根こそぎ破壊して火に油どころか高性能爆薬を投げ込むのが怪人半ズボンこと茜大介。「東京動乱」での活躍に味をしめたのか、ここでも奇怪なアジテーションで善良な人々を煙にまき、脚線美で幻惑しながら、狩谷が沈静化させた状況を更なる混乱へと押しやってゆく。なんというか、人望はないけど、有象無象の群集を扇動する能力はあるんだよなあ。5121に入らなかったら、共生派のアジテーターとして秀でた能力を発揮してたかも。困った奴だ。

 などと他の連中にスポットを攫われ、やや影が薄いのが舞ちゃんとあっちゃん。戦闘では圧倒的な存在感を見せる二人も、常識が通用しない連中はさすがに制御しきれない模様。頼みの綱の原さんも、事態を面白がって遊んでるし。

 などとコミカルな雰囲気ばかりでなく、話が進むにつれシアトル政府の暗黒面や、幻獣との戦況も次第に見えてくる。複雑な国際情勢まで絡みだしたこの物語、果たしてどこへゆくんだろう。

 ところで、ちょい役だけど肘鉄が得意技のキャスターさん、次でも出番があるのかしらん。

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