SFマガジン2013年7月号
「そうね。あんまりいい人じゃなかった。でも、女優になりたいという願いは責められない。けっきょく、役者っていうのは、世界でいちばん報酬の大きな職業なんだから。あなたはどうなの、エミリー? 女優になりたい?」
――コニー・ウィリス「エミリーの総て」
280頁の標準サイズ。今月は「ブラックアウト」「オールクリア」二部作完結記念としてコニー・ウィリス特集と、「攻殻機動隊ARISE」上映開始記念として攻殻機動隊特集。小説は先月に続き野阿梓「偽アカシヤ年代記」第2部後編、そして待ってました久しぶりの菅浩江「天の誉れ」。
コニー・ウィリス第一弾「エミリーの総て」 All About Emily 大森望訳。三度もトニー賞を獲得しブロードウェイの伝説とまで言われる大女優クレア・ハヴィランド。けど、クリスマスを明後日に控えてるってのに、氷雨の中ラジオシティ・ミュージックホールの前で通行人に声をかけている。どうしてこうなった?そりゃマネージャーのトランスと、映画「イヴの総て」のせい。
コニー・ウィリスお得意のクリスマス・ストーリー。往年の名画や名舞台のトリビアがギッシリ詰まってるんで、名画ファンにはたまらない作品。コニー・ウィリスお得意の手法でソープオペラばりに饒舌な女性を語り手に、テンポのいい文章でポンポンと話が進む。重要なネタのロケッツ(The Rockettes)は幾つか Youtube に挙がってる(12 Days of Christmas featuring the Rockettes | Radio City Christmas Spectacular)。いい時代だなあ。「さすが職人、あざとい」などと思いながらも、最後の数行は涙でなかなか読めなかった。ラブライブ!やアイドルマスターなど、「憧れに向かって突っ走る女の子」が好きな人は必読。通勤電車の中でポロポロ泣いて醜態を晒せ。
第二弾「ナイルに死す」 Death on the Nile 大森望訳。エジプトに向かう飛行機の中の三夫婦。ゾーイはガイドブックを朗読し、その夫の寝こけてる。ムカつくのはリッサ。夫が呑んだくれてるスキにわたしの夫ニールに色目を使ってしなだれかかる。ニールも何を考えてるのか、甲斐甲斐しくリッサの世話をやく。飛行機は雲の中で…
アガサ・クリスティーの「ナイルに死す」を題材にした、不気味な物語。読んでて「おや?」と思うのが、男性を示す際に「…の夫」って表現を使っている点で、主人公の夫いのニール以外は名前が出てこない。小技ではあるけど、なかなか挑発的な書き方だ。もしかしてクリスティの「ナイルに死す」もそうなのかな?いやクリスティは「春にして君を離れ」しか読んでないんで。
菅浩江「天の誉れ」。近未来を舞台に、最先端技術を使い美容と医療を統合したサービスで大旋風を巻き起こす、コスメディック・ビッキー社を中心に描く連作シリーズの最新刊。コスメディック・ビッキーのシンボルでもあるモデル・山田リルは悲劇に襲われた。注目を集めるリルだが、なかなかコンタクトは難しい。そこに、元同級生の簑原詩衣がリルとの面会が叶う。男性向けバラエティ雑誌<ウオミニ>編集長の加藤は、そこに食いつき…
長いシリーズも、ついに次回で完結(9月号の予定)。今まで目的も正体もイマイチ不明だったコスメディック・ビッキー。その中枢に位置するシンボル・キャラクターの山田リルを登場させ、謎の核心へと迫っていく。まあ、アレです、見てくれを気にするのは女性ばかりってワケじゃなく、男だって鬘や増毛法のCMを見ればお分かりのように…。初めてネクタイを締めた時は、やっぱり気持ちがシャンとしたし。
巻頭カラー「未来はボクらがつくるんだ!」特集。日本SF作家クラブが協力してるだけあって、デザインは斬新。驚いたのは「真空飛行船」。やぱり、アイデア自体はあるんだなあ。素材は謎だけど。カーボンの一体成型?
縣丈弘 Media Showcase/DVD、最初の「ザ・フューチャーズ 漂流宇宙船/未来裁判」。「遺伝子疾患にかかり、宇宙に追放された奇形の人々のもとに地球から使節が訪れる。地球で蔓延する病気の治療に彼らの血が必要」って設定、小川一水の「天冥の標」の救世群に…
攻殻機動隊特集。黄瀬和哉総監督インタビュウは、このシリーズへの押井守の影響力の大きさをつくづく感じさせる内容。シリーズ・ガイドでは、時田シャケのタチコマ愛が可愛い。こういう、「何か特定の人物・ガジェットへの偏愛」って、大好きだ。タチコマは、巨大クモっぽい図体に対し、可愛い声と性格のミスマッチが魅力だよなあ。
SENCE OF REALITY は金子隆一のドリームマシンで紹介してる研究が…。つまりは人の夢を記録しようって研究の初期段階なんだけど、「男性の被験者三人がレム睡眠に入ったらすぐに叩きおこし」って、ヒデえw。被験者は寝つき・寝起きのいい人たちなんだろうなあ。
堺三保のアメリカン・ゴシップ、いきなり「今やアメリカではレンタルビデオ&DVD産業は瀕死の状態」と衝撃的な出だし。ネット配信がシェアを食ってるって事らしい。国土の広さの違いもあるし、日本じゃどうなんだろう。とまれ、配信会社がオリジナル・ドラマを作ってて、これがマニアックな内容に走れるって話は、ちと考えてしまう。書籍の魅力の一つは、案外と過激な描写も許されちゃう点にあって、その辺が共通してるなあ、などと思いつつ、下手に成長すると丸くなって面白さが薄くなるのは、テレビの深夜番組がゴールデンに進出した時のアレみたいな。
「ヨハネスブルグの天使たち」刊行記念の宮内悠介インタビュウ。表題作は衝撃的だったなあ。この人の参考文献で「テロリストの軌跡 モハメド・アタを追う」を読んだ。ルーシャス・シェパードの「戦時生活」なんて懐かしい名前も出てきて感激。DX9の姿、最初は初音ミクだと思ったんだ が、ミクダヨーだったら…やめよう、危険だ。
| 固定リンク
「書評:SF:小説以外」カテゴリの記事
- SFマガジン2023年12月号(2023.11.06)
- SFマガジン2023年10月号(2023.09.10)
- SFマガジン2023年8月号(2023.07.24)
- SFマガジン2023年6月号(2023.05.01)
- SFマガジン2023年4月号(2023.03.22)
コメント