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2013年4月 1日 (月)

SFマガジン2013年5月号

長期にわたって人気を博した作品は、いわば根を張った大樹のような強い印象を残すものだ。全十三巻で完結した丸川トモヒロ『成恵の世界』は、近年のSFコミックにおけるそれの代表格に違いない。
――Media Showcase/COMIC 福井健太

 280頁の標準サイズ。今月は「星界の戦旗Ⅴ 宿命の調べ」刊行記念として、《星界》シリーズ特集。たぶん番外編的な位置づけの短編「介入 星界の断章」に加え,渡邊利通の論評「受け継いだものと切り開いたもの」,シリーズのブックガイドに加え、年表・増補版が嬉しい。なお、年表は「断章」も含めたネタバレを含むので要注意。

 今月の小説は他にジェイムズ・S・A・コーリイ「エンジン」、夢枕獏「小角の城」、梶尾真治「キリアンは迷わない」。それと「オールクリア」刊行にあわせてか、コニー・ウィリスのインタビュウも載ってる。

 森岡浩之「介入」。イラストは赤井孝美なんだが、オッサンとオバハンしかいない←をい。ベリサリア星系の主星である惑星モメンタの首都マウタニア。星系は危機に陥った。惑星の軌道上にスーメイ人の強制執行艦隊が居座り、武力を背景に厳しい取立てを迫ってきたのだ。なんと、主要な大陸であるサトゥルノ大陸を一標準年以内に引き渡せ、と。政府の秘密政調にスーメイ人のメッセージを届けたアルコ・アウゴが見たのは…
 思い出した。この作家、陰険な会話を書かせたら巧いんだよなあ。特に今回は、土壇場の危機下で開催されるマウタニア政府の会議が、実に政治家同士の会話っぽくって、互いにオブラートに包んだ毒を吐きあう様子が、「いかにも」な感じがよく出てる。やがてわかるスーメイ人の手口も、この作者らしいし、最後のアルコ・アウゴのやりとりときたら、もうね。

 ジェイムズ・S・A・コーリイ「エンジン」金子浩訳。ジェイムズ・S・A・コーリイは二人の作家、ダニエル・エイブラハムとタイ・フランクの合同ペンネーム。エイブラハムは「ハンターズ・ラン」の著者のひとり。
 時は未来、人類は火星に植民しはじめた。火星生まれのエンジニアのソロモンは、自作エンジンのテスト・フライトに赴いた。順調に加速がかかり…どころか、順調すぎる。ヨットは7Gを超え、なおも順調にエンジンは稼動している。もう噴射開始から10分が経過した。そろそろ燃料が尽きるか…と思って残量を見る。出発する時は90パーセントだった。今は89.6。そんなバカな!
 強いGでブラックアウト寸前の状況で、ソロモンが回顧する自分の人生。愛する妻ケイトリンとの出会い、地球と火星の政治状況、そしてエンジンの開発。「距離は時間で測られる」ってのは、キナ臭い状況での台詞としては、なかなか意味深。ウイリアム・マクニール曰く「経済、社会の変化の早さからすれば、世界情勢がこの程度の平和を保っているのはおどろくべきである」。かと思えば「ドイツの科学は世界一ぃ~」だったり。

 梶尾真治「キリアンは迷わない」は、怨讐星域シリーズ26話。惑星ニューエデンでは、市民が一丸となってノアズ・アークとの戦闘に備えていた。 14歳のキリアンもワルゲンツィン少年隊の一員として、槍を供与され戦闘訓練に励んでいる。いつものように訓練に出かける途中、一つ年下の幼馴染の女の子 ナタリーに呼び止められ…
 うんうん、あの年頃の男の子はねえ。無駄に煩悩が膨れ上がる上に、ちょうど女の子は見る見る綺麗になっていく頃。おまけに野郎同士の見栄の張り合いもあって、変に硬派気取っちゃったり。

 長山靖生「SFのある文学誌」、今回もヴェルヌ、題して「古代生物と地球空洞説 明治のヴェルヌ・ブーム」として、「地底旅行」を取り上げる。なんと、明治18年に翻訳・出版された蔡には、同じ本の後半が「地質学と動植物進化の説明に充てられているのである」。やっぱり、ヴェルヌはそういう位置づけだったんだなあ。

 冒頭の引用は「成恵の世界」完結を記念して。ハニワ、出てきた時にはきっと一回こっきりのゲストだと思ってたのに、意外と重要な役で再登場したのには驚いたなあ。イマドキ珍しいまっすぐな少年漫画で(いやサービスカットも多々あるけど)、バトルのシーンがありながらも、主人公の飯塚君は戦う人ではなく、煩悩に憑かれた普通の中学生なのもいい。

 光川ゆかり「是空の作家・光瀬龍」。1970年代の話。当事のSFの状況が切ない。「編集者たちはSFをイカサマだと思っていた」って、やっぱり一段低く見られてたんだよなあ。今の「SFって理系っぽくて頭よさげ」ってのも、チト違う気もするけど。「百億の昼と千億の夜」、私は漫画で出会いました、はい。週間少年チャンピオンだったっけ?当時は少年誌で女流作家が書くことすらタブー視されてた感があったんだよなあ。今じゃ荒川弘とかが大暴れしてて、読者もジャンプ少女とかが出てきてる。結局、面白けりゃ作家の性別なんかどうでもいいし、男の子向け・女の子向けってのも、「新鮮な面白い話」なら、あんまし関係ないんだよなあ。絵柄やコマ割りの慣れって問題はあるけど;昔は少女漫画の方が大胆なコマ割りしてた印象がある。こういう性別不問な傾向を「少年エース」とかの新雑誌や、「モーニング」など青年誌が加速させ…ってな事を語り始めると長くなるのでやめよう。

 コニー・ウィリスのインタビュウ。受賞歴で一頁埋まっちゃうのが凄い。「わが愛しき娘たちよ」は衝撃的だった。主流文学がふんぞり返ってるのはアメリカも同じらしく…

偉大な芸術を生むことのできないジャンルもなければ、ゴミを生むことのない良いジャンルもありません――特に現代の主流文学なんて、クズだらけだわ!

 鳴庭真人「MAGAZINE REVIEW」は、アシモフ誌2012年10・11月合併号~2013年1月号。ウィル・マッキントッシュ「向こう側」が二つの世界を同時に描く話で、「ふたつの世界をページを分割してふたつの本文というレイアウトで表現している」けど「キンドルでは正常なレイアウトで読むことができません」。ああ、やっぱし難しいのかあ。ちなみに日本ではかんべむさしの「決戦・日本シリーズ」というのが…

 堺三保「アメリカン・ゴシップ」、新番組「ロボットコンバットリーグ」にびっくり。「操縦可能な人型ロボットをリング上で戦わせる」って、プラレス三四郎かい←古い。どころかサイズが「ちゃんと人間と同じくらいの大きさ」ってんだから、さすがアメリカン。

 次号はなんと「本にだって雄と雌があります」の小田雅久仁が登場。

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