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2013年4月30日 (火)

SFマガジン2013年6月号

 もともとSFというか空想科学物語ってのは、産業革命に端を発する、うおお、こんなことできちゃうの、こんなものの見かたがあり得るのっていう「観点の革命」が、物語に取り込まれていって成立してきたものだったと思う。
  ――鹿野司「サはサイエンスのサ 感覚のふしぎ」より

 280頁の標準サイズ。今月は日本作家特集として野阿梓・小田雅久仁・仁木稔・松永天馬の小説と、乾石智子・藤井大洋のインタビュウ。加えてイラストレーター寺田克也の特集。他にデイヴィッド・モールズの短編「街に兵あり」を収録。

 小田雅久仁「11階」。良徳は妻・日菜子と二つ違いだ。出遭ったのはコンパで、その帰りに送っていく電車の中で、日菜子は頭痛に悩まされているように、目を閉じて眉間に皺を寄せ険しい表情になっり、「11階が……」「ちいちゃん……」とつぶやくのだった。彼女を家まで送った帰りに、良徳が見たのは…
 文芸誌のような出だしで、「うおお、いつものSFマガジンとえらく毛色が違うな」と思ったら、やっぱり毛色が違った。文章の大半が過去形で、静かに流れていく感じがする。奇妙な偏頭痛を持ち、11階にこだわる妻・日菜子と、そんな日菜子に寄り添って生きる良徳。ちょっとホラーっぽいけど、怖いというより、不思議って感覚かなあ。味わいは恒川光太郎に少し似てるかも。

 松永天馬「死んでれら、灰をかぶれ」。ママは言う。「男は女の敵」。パパはいない。小さい頃、電話でお話しただけ。月面探査の仕事で、月の裏側にいる。高校生になったわたしは、ケータイを買ってもらった。着信音が鳴る。パパからだ。「あまり元気ではないな。突然だが、パパは生きて帰れないかもしれない」
 キッチュというか、アンダーグラウンドというか。「月面探査」や「ケータイ」などの現代的なイメージと、「LPレコードのA面」や「蜂蜜を鼻に垂らしたプーさん」などのレトロな表現が混沌となって押し寄せ、夢のように不条理なストーリーが急ピッチで語られてゆく。SFというより幻想小説かしらん。

 仁木稔「The Show Must Go on」。「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」と同じ世界観の、亜人が登場するシリーズに、やっと名前がついた。人間同士の戦争に代わる役目を仰せつかったのは、亜人たちによるショウ的な戦争。歴史上の戦争を原型にしてデザイナーがアレンジした衣装や武器で、亜人同士が戦う戦争は、同時に人気の娯楽となる。設計助手のアキラが手がけた名無しは僅かだが視聴者の注目を集め…
 ヒトは心に持つ暗黒面を亜人に押し付け、平和と繁栄を謳歌している世界。デザインの世界で日本のアニメ・漫画風の表現がもてはやされる風潮は、確かにかつてのジャポニズムを思わせるよねえ。絵師さんにも、ミュシャが好きな人は多いみたいだし。創造と独創の議論も興味深い。

 野阿梓「偽アカシヤ年代記」第2部前編。地下数百メートルに青く広がるプール、陽電子加速装置の中心にある遮蔽体の上に、直立して浮かんで見える黒ずくめの女、永夜。携帯端末を手にとり、龍胆寺桀との通話を始める。惑う永夜への対処に毅然とした態度で答える龍胆寺は…
 学園都市・井光を巡り争う二つの勢力、龍胆寺と塔家。まあ、いつもの野阿節です。

 デイヴィッド・モールズ「街に兵あり」。放浪民とおぼしき者の突然の攻撃により、<とうきび祭>の最中に女神レディ・グーラまでも殺された都市衛星・イシン。生き残った僧兵イシュことイシュメニンシナ・ニンナディインシュミ。惨劇を目の当たりにし、無力感に襲われながらも兵としての役目を果たさんとしていたが…
 神を当主と仰ぐ衛星都市、無意味とも思える虐殺を行う放浪民。舞台が遠未来の宇宙なのはわかるが、「神」や「放浪民」などの背景はよく見えてこない。大きなスケール感のある世界を舞台としたシリーズの一編、といった感じがする。

 藤井大洋インタビュウ。2013年2月号の「コラボレーション」が、やたらIT系にマニアックな芸風だと思ったら、「これまでは3Dソフトウェアをあつかう会社に勤務していた」ってんで納得。だから、あそこまで濃い描写ができたのかあ。

 乾石智子インタビュウ。ファンタジイ世界の創り方が、ファンタジイというよりSFっぽかったりする。まず自然の条件から創りあげていくあたり、ウイリアム・H・マクニールやジャレド・ダイアモンドみたいな歴史観なのかな。

 池澤春菜「SFのSは、ステキのS」。「人は本のみにて生くるに非ず、されど……」として、電子書籍の話。ランキングから電子書籍の市場傾向を分析していて、これがなかなか目の付け所が鋭い。「過渡期が一番面白い」ってのは、全く同感。近年の新刊ラッシュと絶版の早さは、電子化に影響あるのかなあ。ブライアン・スティブルフォードのタルタロス三部作が復活したりしたら、嬉しいなあ。ないだろうけど。

 長山靖生「SFのある文学誌」は、明治のヴェルヌ・ブームの4回目。ついに「海底二万里」。紅海から地中海に海底トンネルを通る場面、そういえばレセックス(レセップス)のスエズ運河を思わせるよねえ。ネモ船長の正体、色んな説があるんだなあ。私はインドの人だとばっかり思ってた。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」、今回は著作者としての姿勢のお話。なぜ先端科学に拘るのか、SFとサイエンス・ライターの立場は、とか。科学や工学に限らず、知識ってのは人間の認識を大きく変えてっちゃう部分があって、SFが好きな人の多くは、そういう「世界観が揺らぐ感覚」に憑かれちゃってる人が多いんじゃないかしらん。

 堺三保「アメリカン・ゴシップ」、今回はロサンゼルスのアナハイムで開かれた「ワンダーコン」の話。「アナハイム市当局は、数年前からサンディエゴ・コミコンに対して熱心な誘致活動をしている」、サンディエゴ側も「必死に引き留め工作をしていて」って、羨ましい。

 次号は、久しぶりに菅浩江のコスメのシリーズが載る。この頁によると「あと2話」とのことなので、いよいよラストスパートにはいったのかな?

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