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2013年3月11日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 2K 5121小隊の日常Ⅲ」電撃文庫

「ぬふふー。顔色が変わったな。ソックスタイガー。オジサンらと小難しい話ばしよるんに飽きてきておらんか?」

【どんな本?】

 そもそもの始まりは、2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。当事のハードウェア能力を超える要求仕様と凝りに凝ったシステムにより肥大した開発費により、広告費ゼロというゲームにあるまじき状況で発売開始。ところが、斬新かつ柔軟なゲーム内容、練りに練られたバランス、そしてアクの強い登場人物の魅力は妄想力逞しいディープなファンの心を捉えて離さず、触れるもの全てを宣教師と変えてゆき、ついには星雲賞まで獲得した。2010年9月22日に PSP 用ゲームアーカイヴとして復活し、今なお若いファンを獲得し続けている。

 ノベライズの第一弾は広崎悠意「高機動幻想ガンパレード・マーチ」だが、当シリーズとは完全な別物。2001年12月15日に榊涼介が「ガンパレード・マーチ 5121小隊の日常」からシリーズを始め、これまた好評を博し、入れ替わりの激しいライトノベルにありながら11年以上もシリーズを重ね、この巻で通算36冊目となる。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年3月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約279頁。8ポイント42字×18行×279頁=約210,924字、400字詰め原稿用紙で約528枚。標準的な長編小説の分量。

 文章はライトノベルに相応しくこなれている。この巻は軍事用語もあまり出てこないので、最近の巻の中ではとっつきやすさはピカ一。「5121小隊の日常」と名のつく巻は連作短編集で、5121小隊の各メンバーそれぞれが主役となり、彼らの生活や舞台背景が明かされる。長いシリーズだけに、どこから読み始めていいのか迷う人には、格好の入り口だろう。ただ、出来れば再録でいいから5121小隊全員のイラストを口絵につけて欲しかった。

【どんな話?】

 1939年に勃発した第二次世界大戦は、意外な形で終わった。1945年、月と地球の間24万kmに突如出現した黒い月、ついで人類の天敵「幻獣」の襲来だ。圧倒的な兵力の幻獣はユーラシアを蹂躙し、人類の生存圏は南北アメリカとアフリカ南部、そして日本だけとなる。

 1998年、幻獣は九州に上陸。1999年、日本は二つの法案を可決する。熊本要塞の戦力増強と14歳~17歳の少年兵の招集である。学兵たちを、壊滅寸前の自衛軍の戦力回復の時間稼ぎのため投入する腹案だった。キワモノ兵器の人型戦車・士魂号三機を核とし、はみだし者を集めた5121小隊が意外な活躍を見せ、九州を奪われるものの多くの学兵を救う。

 以後、日本は山口防衛戦・九州奪還を通し一部の幻獣勢力と和平に漕ぎ付け、北海道独立の危機を凌ぐ。死闘を生き延びた5121小隊の名声は高まり、米国政府の招聘を受け新大陸へ渡る。幻獣に包囲されたニューヨーク州レイクサイドヒルの市民を救い、サムライ・ブームを巻き起こす。

【収録作は?】

 米国西海岸はワシントン政府から独立、独自に日本政府との国交を求めていた。日本艦隊が入港したシアトルで長期休暇に入った5121小隊、だが曲者揃いの彼らが平穏な日々に埋没するはずもなく…

善行忠孝の困惑
 空路シアトル入りした遠坂・田辺・善行。躍進する遠坂財閥総帥の財界人として来た遠坂&田辺はともかく、大原首相の肝いりで秘密外交団の一員という立場の善行は、連日の会議で忙殺されていた。やっと時間が空き、シアトルの街を視察するつもりだった善行に、思わぬ客人が…

 困惑というより、窮地でしょ、これ。まあ自業自得だけど。開幕編として、5121小隊に対するシアトル市民の感情が伝わってくる。なんだよサムライ・ブラックってw しかもデマ振りまいてるしw つか善行、うら若い乙女をドコに連れて行くw 喜んでたみたいだから、いいけど。後半は、珍しい人のジョークが。短い台詞だと、切れ味が鋭いわ。
森精華の抵抗
 東海岸では、散々な目にあい、精根尽き果てた森精華は、三日間、寝込んでしまった。目覚めた時はシアトルの病院。数日で退院はしたものの、突然の長期休暇命令に戸惑いは増すばかり。他の隊員たちはそれぞれ自分のペースで休暇の楽しみを見つけており、出遅れた気分の森は原付で街を散策する。湾岸沿いで見つけたそれが、事件の始まりだった。

 原さんからは「不細工で不器用」と揶揄される森にスポットがあたる一編。溜め込んじゃうタイプの人が限界を超えると、往々にして大変な事になるもので。そんな時に頼りになるのが、趣味。とりあえず一心不乱に打ち込めるこのがあれば、当面は痛みを忘れていられる。しかし、意地悪い姐さんだw
壬生屋未央の憧れ
 事件の処罰として小学校での奉仕活動が命じられた森。教員志望の壬生屋は、そんな森が羨ましく、同行を申し出る。ただでさえスター扱いの5121小隊、しかも道着に袴姿の美少女パイロットとあって児童はもちろん職員までもが大騒ぎ、苦手な英語に困惑しながらも筋書きどおり、小学生相手にチャンバラの指導をする羽目になり…

 「不潔ですっ!」の印象が強い未央ちゃんの、もうひとつの側面が拝める短編。問題児の保護者として父親が出てくるあたりが、アメリカを感じさせる(日本は母ちゃんの国、アメリカは父ちゃんの国なのだ)。噂だと日本の弁当はアメリカのナードたちに憧れのシロモノだとか。ましてサムライ・ブラックの手作りと来た日には、毎日が争奪戦だろうなあ。などと文化の違いを強調しながらも、案外と根底に流れるものは似ているようで、そこを見極める未央ちゃんの魅力大爆発の一編。
狩谷夏樹の献身
 遊び歩く整備班の面々、トレーニングと食べ歩きに余念のないパイロットやスカウト連中を尻目に、狩谷夏樹はひとり整備テントに篭り、士魂号の調整を続けている。生体パーツこそないものの、機械部品は潤沢で、ゲストの立場を利用すればいくらでも手に入る。イ号作戦でやりくりしていた熊本時代からすれば夢のような状況で、整備員の憧れ100%コンディションを目指し奮闘する狩谷。しかし、そんな彼の楽園に侵入してきたのは…

 うんうん、なっちゃんと連中じゃ相性は最悪だよねえ。つか何やってんだジェフw 滝川と気が合いそうな奴だなあ。空気読めない所もソックリだし。危機的な状況では意外な成長を見せたなっちゃんだけど、ここではコアな女性ファンに高評価な陰険眼鏡の魅力?を発揮している。
芝村舞の孤独
 突然の休暇命令に戸惑うのは森ばかりではない。トレーニングと水族館通いの日課が終われば手持ち無沙汰の舞。カンを維持するために必要な実機訓練は、なぜか原の厳命により禁止され、そろそろ日本の食べ物が恋しくなってきた。

 舞のように前向きでエネルギッシュな人は、やはり自由な時間というのが苦手なようで。今までは「戦場で生き延びる」という苛烈ながらも明確な目標があったのに対し、ここでは特に目標も見つけられず、戸惑う舞が可愛い。が、やはり見せ場を掻っ攫うのは原さん。榊さん、やっぱり原さんが贔屓なんだろうなあ。ののみにも、そろそろ同年代の友達を見繕ってあげてください、榊さん。
茜大介の試練
 先の事件で御用となった茜は、懲りずにカウンセラーのキャメロン相手に熱弁をふるっていた…ここでも自分の役割を5倍ほどに膨らましつつ。ここでも日本と同様に警官のお世話になる機会の多い茜だが、有名人の立場が幸いしたか、警官も好意的だ。そんな茜の前に現れたのは…

 相変わらず天上天下唯我独尊の茜を狂言まわしに、西海岸地域の明るいばかりではない状況を垣間見せる一編。茜もげろ。
遠坂圭吾の不思議な愛情
 財界人としては他に先駆けシアトル入りした遠坂圭吾。ビジネスマンとしての目でシアトルの経済状況を観察し、その目論見を探っていた。そんな彼を訪れたのは…

 特異な趣味の紳士が待ちに待った芳香漂う一編。山口防衛戦あたりから異端へと堕ちた遠坂圭吾、だが彼の牙は折れていなかった。かつての戦友との出会いに目覚める戦士の血。つか油断もスキもない連中だなあ。これがニューヨークの金融資本と繋がっているとは、恐ろしい世界だw
原日記 in Seattle #1~#6

 久しぶりの短編集、それも「小隊の日常」とあってはファンとしちゃ喜びもひとしお。長編もいいけど、やっぱり短編は切れ味が鋭いし、一編ごとにテーマがくっきりしていて親しみやすい。ガンパレの短編集としては外せない「遠坂圭吾の不思議な愛情」もいいが、私は未央ちゃんの魅力が炸裂する「壬生屋未央の憧れ」に泣いた。教師志望らしく、指導すべき所は指導し、任せるべき所は任せる見切りが鮮やか。

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