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2013年2月16日 (土)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2013年版」早川書房

SFは潜んでいる。普段手にとらないレーベルや版元の本に。SFは生み出されている。未知だったり意外だったりする作者の作品として。
  ――ライトノベルSF/タニグチリウイチ

 2012年に日本で出版・公開されたSF小説・コミック・映画・アニメや、SF/ファンタジイのファンが好みそうなノンフィクションや小説を総ざらえする、年一回発行のムック。紹介の対象となるのは2011年11月1日~2012年10月31日までの新作。SFやファンタジイが好きな人には、「最近の面白い作品」を漁るのに、とっても便利なブックガイド。192頁、2013年2月15日初版発行。

 冒頭の引用が示すように、最近はどこにSFが潜んでるかわからない。ライトノベルは最初から優れたSF作品/作家が潜んでた。去年は円城塔が芥川賞を取ったり、月村了衛の「機龍警察 暗黒市場」がミステリ方面で高評価を得たり、篠田節子が「オール読物」で「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」なんて傑作を発表したり。そんな時代だから、こういう傑作の一覧表が見えるムックはありがたい。

 冒頭は BEST SF 2012 海外編・国内編。いずれも一位は予想通り「屍者の帝国」「都市と都市」。意外な活躍を見せたのが、小田雅久仁「本にだって雄と雌があります」とウラジミール・ソローキンの「青い脂」。いずれもTwitter文学賞などキワモノ好きにウケて、やたら盛り上がってるんだよなあ。なぜか「ニンジャスレイヤー」が国内編に入っているが、あまり詮索すると「ニンジャが自宅に派遣」されるとか。国内ではアンソロジーが沢山出たのも嬉しい。「ブラックアウト」は、「オールクリア」が出てからが本当の評価、ってことかな。

 対談は円城塔・宮内悠介・長谷敏司の三人。長谷敏司の「BEATLESS」連載は、円城塔の「屍者の帝国」執筆と時期が重なってて、「読んではいけないと自分に言い聞かせていた」。三人とも多様なフィールドで書いてる人たちで、やっぱり読者層の違いは意識している様子。また、インターネットの発達・普及が作品に与える影響とかも興味深い。チャールズ・ストロスみたいなコア層向けの作家が出てきた背景も、これかなあ。

 マイ・ベスト5。坂村健の肩書きが「電脳建築家」になってて笑った。芝村裕吏、なんで「ガンパレード・マーチ 新大陸編」を挙げない?難波弘之がご老体に喧嘩売ってて楽しい。ほんと、素直に「わかんない」と言えばいいのに。海外編では大野典宏が紹介してる原書房の「赤軍ゲリラ・マニュアル」が異彩を放ってる。うう、読みたいぞ~。

 ライトノベル/伝奇アクション&異世界ファンタジイ担当の卯月鮎の指摘「ウェブ小説の書籍化ラッシュ」は、やっときたか、って気分。かなり前から Boiled eggs とかあったけど、主婦の友社の「小説投稿サイトの人気作を出版する戦略」ってのも、なかなか思い切った方針だなあ。

 森山和道/科学ノンフクションは、ヒトの脳や認識に関係した本が多い。ちょっと前、ほけっとTVを見てたら映ってたのが「ピダハン」。ノーム・チョムスキーの普遍文法(→Wikipedia)を覆しかねない自然言語が見つかった、という話。今は論戦中で、まだ決着はついてないはず。

 渡辺麻紀/SF映画は、ジョー・コーニッシュがニール・スティヴンスンの「スノウ・クラッシュ」を映画化する、って話に狂喜乱舞。つかなぜ「バトルシップ」が入らない?と思ったら、関連DVD/縣丈弘が「バカSF映画の快作」として★★★(三段階評価)つけてて満足。うんうん、あそこまでバカに徹して予算と火薬を使った作品は滅多にないって。

 各社の刊行予定、まず早川書房の森岡浩之「星界の戦旗Ⅴ」が三月って、信用していいのかしらん。光文社から「SF宝石」が8月に書籍扱いで復活。そして東京創元社はヴァーナー・ヴィンジの「空の子供たち」が、ついに出る。

 とりあえずイアン・マクドナルドの「サイバラード・デイズ」を確保しようかしらん。でも、その前にアントニー・ビーヴァーの「パリ開放」を片付けないと…

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