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2013年2月18日 (月)

アントニー・ビーヴァー&アーテミス・クーパー「パリ解放 1944-49」白水社 北代美代子訳 1

「パリ!蹂躙されたパリ、破壊されたパリ、殉教者のパリ、だが解放されたパリ。自らの手で、人民の手で、そして全フランス、すなわち、闘うスランス、真のフランス、永遠のフランスの助けを借りて解放されたパリ」
  ――シャルル・ドゴール

【どんな本?】

 第二次世界大戦。ドイツは電撃戦でマジノ線を突破、ドゴールは徹底抗戦を主張するが、対独協力を主張するペタン元帥など主だった軍と政府の決定は変わらず、フランスはドイツ軍の占領下となる。1944年の連合軍ノルマンディ上陸は戦局を覆し、フランス市民は対独協力者への復讐へと走る。

 凱旋を果たすドゴールに対し、レジスタンスの実績で対抗する共産党。サルトルをはじめとする文化人は紙不足に悩みながらも、占領の反動で活発な言論活動でフランスの思想を蘇らせる。例年を越える寒波は庶民の生活を直撃し、政府の取締りをよそに闇市が盛況を見せる。

 負債で破産寸前のイギリス、内戦に悩むギリシャ、そして飢えるフランスとドイツ。荒廃したヨーロッパに忍び寄る冷戦の気配に気づいたアメリカは、急遽マーシャル・プランを発表する。欧州各国は大筋で歓迎しながらも、各国の対応は様々だった。対ソ連の防壁としての「強いドイツ」を望むアメリカ、迅速な支援を熱烈に望むイタリア、二度の世界大戦の記憶から「弱いドイツ」を望むドゴール。

 フランスの自立を守らんとナショナリズムを前面に押し出すドゴールとアメリカを筆頭とする連合軍の軋轢、混乱に乗じて勢力拡大を狙う共産党、占領と解放という劇的な社会の変化に翻弄されるフランス人の倫理、混乱を超えて温存される階級社会。激動するフランスで展開する、政治と文化と人々の生活を、多量の資料と取材で再現する、圧倒的な質量のドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Paris after the Liberation 1944-1949, by Antony Beevor and Artemis Cooper,。1994年に初版が、2004年に改訂版が出版。日本語版は2007年のペンギン・ブックスの改訂版を元に、2012年9月10日発行。ハードカバー縦一段組みで本文約486頁+訳者あとがき4頁。9ポイント46字×20行×486頁=約447,120字、400字詰め原稿用紙で約1118枚。長編小説なら2冊分。

 全般として、けっこう読みにくい。翻訳物のわりに文章は自然な方なのだが、内容が問題。なにせ戦後のフランスを描くという野心作だ。登場人物や組織がやたらと多くて覚え切れない上に、ひとつの文章に多数の人が登場するので、背景を掴むのに苦労する。人物は巻末に人名索引があるので助かるが、組織名の一覧も欲しかった。だってマキ(→Wikipedia)とか言われても判らんでしょ、普通。スペイン内戦など当事の歴史的背景も、ある程度は把握していた方がいい。また、サルトル/カミュ/セリーヌなど思想家・小説家、ディオール/シャネルなどファッション関係などフランスの文化人・芸術家・芸能人に詳しいと、更に楽しめる。

【構成は?】

 序
第1部 二都物語
 第1章 元帥と将軍
 第2章 対独協力(コラボ)への道と抵抗運動(レジスタンス)への道
 第3章 国内のレジスタンスとロンドンの男たち
 第4章 パリ先陣争い
 第5章 解放されたパリ
 第6章 亡命への道
 第7章 戦争ツーリストと《リッツ》戦争
 第8章 野放しの粛清
第2部 国家、それはドゴールなり
 第9章 臨時政府
 第10章 外交団
 第11章 解放した者と解放された者
 第12章 砲列戦場の作家・芸術家たち
 第13章 帰還
 第14章 大裁判
 第15章 新しさへの渇望
 第16章 洪水のあと
 第17章 政府内の共産主義者たち
 第18章 シャルル二世の退位
第3部 冷戦突入
 第19章 影絵芝居――計略と逆計――
 第20章 政治と文学
 第21章 外交の戦場
 第22章 ファッションの世界
 第23章 二都物語
 第24章 共産主義者に反撃する
 第25章 自らを実現していく予言
 第26章 共和国、絶体絶命
 第27章 サン=ジェルマン=デ=プレ沸騰
 第28章 奇妙な三角形
 第29章 知識人の背任
第4部 新たな秩序
 第30章 パリのアメリカ人
 第31章 観光客の襲来
 第32章 パリは永遠にパリ
 第33章 反復性発熱
  訳者あとがき
  写真・クレジット・謝辞/参考文献/出典/人名索引

 原則的に時系列順。政治の話を中心に、文化人・世相を間に挟む形で話が進む。

【感想は?】

 スペイン内戦・ノルマンディー上陸作戦など軍事中心の印象が強いアントニー・ビーヴァーだが、この本は共著者が奥さんのためか、政治、それもドゴールを中心として、フランスの戦後を文化・生活などを交え多角的に描く内容となっている。

 なんといっても、、フランス、それもドゴールの視点、というのが新鮮。今まで読んだ第二次世界大戦物はアメリカ・イギリス視点の作品が多く、ドゴールは「手柄を独占したがる頑固者」「非妥協的な態度で米英を出し抜こうとする旧弊な帝国主義者」みたいな印象を持っていたのだが、ここでは「ひたすらフランスの国威を願う孤高の将軍」的に書かれている。まあ、所詮は人間なんで、いろいろと欠点もあるんだけど。

 典型的なのが、ドイツへの態度。あくまでもフランスの利益を追求するドゴール、ライバルのドイツが強くなるのは嬉しくない。トルーマンに、こう語っている。「ヨーロッパの未来の平和は、ドイツを農業のみに限定された弱小国家の集合体に縮小し、その一方で、フランスをヨーロッパの経済大国として建設することによって保障される」。身勝手と言えば身勝手だけど、フランスの利益を考えれば、そうなるよねえ。

 パリ解放にしても、アイゼンハワーは後回しにするつもりだった。連合軍は圧倒的な物量を誇るとはいえ、補給路は伸びきっている。パリを解放すれば市民への補給が必要になり、パットンが飢える。パリでは共産党系のレジスタンスが貧弱な武器で蜂起を煽りつつあり、開放が遅れれば戦後のフランスは共産党が支配するだろう。

 レジスタンスは大雑把に3つの系統がある。イギリス系、ドゴール系、そして共産党系。戦前から非合法化されていたため地下活動に慣れていた共産党は、開戦当初は独ソ不可侵条約に縛られ右往左往するが、1941年6月のバルバロッサ作戦発動で対独抵抗に切り替え、ドイツ軍に目の敵にされた事も手伝いパリ解放後は人気を博す。600名に過ぎなかった共産党系義勇遊撃隊だが、連合軍のノルマンディー上陸後にFFIは志願兵一万五千を集める…武器は二千名分しかなかったが。

 アイゼンハワーへの命令違反も辞さずパリへ急行するルクレール率いるフランス軍、迎えるレジスタンスもバリケードを築いて協力する。

七区、八区、十六区のような高級住宅街には、バリケードはほとんど築かれなかった。もっとも数が多かったのは市の北東地域、1936年には圧倒的多数が人民戦線に投票した区域である。もっとも効果的に設置されたのはパリの南東部で、三年前にドイツ軍の青年海軍将校を暗殺した共産党員ファビアン大佐が指揮を執っていた。

 この辺はスペイン内戦で鍛えた古強者も活躍した模様。
 ソ連の日和見な方針に踊らされた共産党だが、踊ったのは他の組織や個人も同じ。パリ大司教シュアール枢機卿はドイツ国防軍に志願しロシアに向かったフランス志願兵の祝福ミサで贖罪を与えよと強く主張し、女優のアルレッティは愛人のドイツ空軍将校とホテル《リッツ》に滞在する。エルンスト・ユンガー曰く「食物とはたしかに権力である」。

 連合軍の巻き返しは倫理を反転させ、対独協力者へのヒステリックな復讐が始まる。万を越える女性が丸坊主にされ、ヴィシー政権の要職にあった者は次々と刑務所へ送られる。これは文壇にも波及、行き過ぎを懸念した文化人はル・フィガロ紙などを中心に論説を載せ、ファシスト系雑誌「ジュ・スュイ・パルトゥ」の元編集者ロベール・ブラジャックの死刑の執行猶予嘆願書を出す。署名者は59名、ジャン・アヌイ/クローデル/ヴァレリー/コレット/コクトー/アルベール・カミュなど。ちなみにサルトル/ボーヴォワール/ピカソは署名を拒否。

 中ではジャン・コクトーの分析は鋭い。「作家は他の重要な対独協力者、とくに産業界のスケープゴートにされている」。これはある意味あたっていて、フランスの復興には産業界の協力が欠かせず、だが生き残っているのはドイツに協力した企業ばかりだったから。最終的にフランスは大規模な国有化に乗り出す。妥当な措置かも。

 物資不足による闇市の発達、抑留者の帰還、そして冷戦の勃発など市民生活の苦闘と倫理的な激動は、次の記事へと続く。ええ、続くんです。

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