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2013年2月24日 (日)

ブライアン・グリーン「隠れていた宇宙 上・下」早川書房 竹内薫監修 太田直子訳 1

 ひも理論のもっとも美しい特徴のひとつ(そして私がこの理論を学んだときにもっとも感動したところ)は、粒子の性質が余剰次元の大きさと形で決まることだ。

【どんな本?】

 「エレガントな宇宙」「宇宙を織りなすもの」など、最新の物理学が示す宇宙論を一般向けに解説した著作で知られる物理学者・超ひも理論研究者のブライアン・グリーンによる、ひも理論が導出する奇妙な宇宙像を、幾つかの多宇宙論を中心に紹介し、また現代の物理学が抱える問題点や「人間原理」などのキーワードを含め説き起こす、一般向けの科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Hidden Reality ; Parallel Universes and the Deep Laws of the Cosmos, by Brian Greene, 2011。日本語版は2011年7月25日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組みで上下巻、本文約277頁+267頁+監修者あとがき8頁。9.5ポイント43字×16行×(277頁+267頁)=約374,272字、400字詰め原稿用紙で約936枚。長編小説なら2冊分。

 正直に言う。何回か、寝た。竹内薫監修とあるわりに、意外と日本語はこなれていない。多分、監修作業は科学面の正誤チェックに留めたんだろう。それ以上に、内容が難しい。まあ予想通りなんだけど。

 この本の特徴は、なるべく数式を使わず、巧みな比喩で読者にイメージさせようと努力している点。しかも、冒頭で、読み方を指示している。

  • 地の文はなるべく読んで欲しい。
  • 上下を罫線で囲った部分は難しいので飛ばしてもいい。
  • 本格的な数式は巻末の注につけたので数学が得意な人は試してみよう。

 ってんで、指示を頭に入れて読んでるんだが、それでも結構しんどい。まして巻末の注はになると完全にお手上げだった。地の文だけなら、高校生でも読みこなせるだろう。恐らく最大の障壁は、数学の「次元」の概念。

【構成は?】

上巻
  はじめに
 第1章 現実の境界――並行宇宙について
 第2章 終わりのないドッペルゲンガー――パッチワークキルト宇宙
 第3章 永遠と無限――インフレーション多宇宙
 第4章 自然法則の統一――ひも理論への道
 第5章 近所をうろつく宇宙――ブレーン多宇宙とサイクリック多宇宙
 第6章 古い定数についての新しい考え――ランドスケープ多宇宙
  原注/事項索引/人名索引
下巻
 第7章 科学と多宇宙――推論、説明、予測
 第8章 量子測定の多世界――量子多宇宙
 第9章 ブラックホールとホログラム――ホログラフック多宇宙
 第10章 宇宙とコンピュータと数学の実在性――シミュレーション多宇宙と究極の多宇宙
 第11章 探求の限界――多宇宙と未来
  監修者あとがき/参考文献/原注/事項索引/人名索引

【感想は?】

 今の所、上巻しか読み終えていないのだが。SF者、特にスティ-ヴン・バクスターやグレッグ・イーガンが好きな人なら、なるべく早く読んでおいた方がいい。私は今になって「虚空のリング」の仕掛けがわかり、唖然としている。

 いや「なんか変だよなあ」とは思っていたんだ。超ひも理論のひもって、量子力学で言う量子みたいな「宇宙の基本的な構成要素」だとい思ってたから、それが銀河サイズにまで伸びるのは変だよなあ、と。でも、この本によると、あり得るんだよね。

正しくは、ひもの長さはそのエネルギーで決まる。電子、クォーク、その他既知の粒子の場合、質量と等価のエネルギーは非常に小さいので、それに相当するひもは本当にごく小さい。しかしひもに十分なエネルギーを注入すれば、長く伸ばすことができる。

 他にも「カラビ=ヤウ多様体(→Wikipedia)」なんて言葉が出てきて、「あ、これ、ロバート・チャールズ・ウィルスンの連環宇宙に出てきたな」とか。冒頭のパッチワークキルト宇宙が提示する世界は、グレッグ・イーガンの塵理論の空間版かい、ってな感じで。

 SFを例に出したけど、この本で提示される宇宙の姿は、そこらのSFを完全に超えている。私が今まで読んだ中で、スケールの大きさで思いつくのはポール・アンダースンの「タウ・ゼロ」だけど、出だしの「パッチワークキルト宇宙」からして、フィクションを軽く越えている。無限の大きさの空間(?)の中に無限の数の宇宙があって、それぞれの距離は無限に近く離れてて、だから互いに他の宇宙に気がつかない。無限の数の宇宙があるんだから、中にはこの宇宙とソックリなのもあって…

 次の「インフレーション多宇宙」では、思い違いを正された。「ビッグバンの直後に急激に膨張した」って理屈だtろ思ってたんだが、これはまちがい。初期の膨張はゆっくりで、その後、「とてつもなく高速でしかも加速する一方の膨張――インフレーション膨張と呼ばれる――が、ごく短いあいだ爆発的に起こった」って理屈。この原因が、「斥力的重力」ってのが、ワクワクする。いわゆる反重力ですぜ。

 この反重力、実はアインシュタインも提案していた、というから面白い。スキモノには有名な宇宙定数(→Wikipedia)。この宇宙定数の運命も数奇で、アインシュタインは必死の研究の末に「やっぱ間違ってました」と降参したんだけど、最近になって「やっぱあるんじゃね?」となって復活してきてる。70億年前から、宇宙の「空間膨張の加速が始まった」。

斥力的重力は、空間に固有の属性である――空間一立方メートルはみな同じ外向きの押しを生むのだ。その強さは宇宙定数の値で決まる。したがって、宇宙の膨張によって二つの天体のあいだの空間が増えれば増えるほど、その二つの引き離す力は強くなる。約70億年前までに、宇宙定数の斥力的重力が勝利を収めたのだろう。

 …あれ?とすっと、宇宙が膨張するに従って空間が広がる=斥力的重力が生まれる、とゆー事になって、そのエネルギーはどこから調達してるんだろう?何か根本的な勘違いをしているような気もするが。

 まあいい。ここでは、むしろその測定方法が面白かった。要は遠くの星の遠ざかる速さを調べるんだが、問題は「その星までの距離」を、どうやって測るか、って点(速さは赤方偏移の量でわかる)。これに白色矮星の崩壊時の光を使った。白色矮星は太陽の1.4倍の質量になった時に崩壊・爆発する(超新星→Wikipedia)のがわかってるんで、爆発時の光の明るさがわかる。観測できた明るさで、距離がわかる。すげえ。

 けど超新星は銀河で「200~300年に一度しか起こらない」ので、数千の銀河をじっと観測してました、とさ。

 さて、お話は10次元または11次元の空間を必要とするひも理論を通し、「人間原理」や「選択バイアス」などの哲学的な問題を提示しつつ、物理学の危機とすら思える現在の状況を述べる下巻へと続く。

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