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2013年1月28日 (月)

SFマガジン2013年3月号

「いいですか?SFとは初音ミクであり!まどか☆マギカであり!ももいろクローバーZなンですよッ!」
  ――ゆずはらとしゆきインタビュウより某営業氏のお言葉

 280頁の標準サイズ。今回の特集は「2012年度英米SF受賞作特集」として、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス賞/ブラム・ストーカー賞/世界幻想文学大賞/フィリップ・K・ディック賞/ジョン・W・キャンベル記念賞/シオドア・スタージョン記念賞/ジョン・W・キャンベル新人賞/アシモフ誌読者賞/アナログ誌読者賞/英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞/英国幻想文学賞の発表に加え、SFマガジン読者賞海外部門・国内部門を発表。

 特集の小説はポール・J・マコーリイの「選択」,ケン・リュウの「紙の動物園」,ジョン・G・ヘムリイ(ジャック・キャンベル)「ベティ・ノックスとディクショナリ・ジョーンズ、過ぎ去りしティーンエイジに立ち返っての奇譚」、キジ・ジョンスン「霧に橋を架けた男」。加え国内作家の小説が二編、樺山三英「無政府主義者の帰還」第二回と夢枕獏「小角の城」。

 ポール・J・マコーリイの「選択」はシオドア・スタージョン記念賞受賞作。舞台は異星人との交流が始まり、海面が上昇して多くの陸地が水没した未来の地球。「ドラゴンがマーサムの近くで浜に乗りあげたんだ」。16歳の少年ルーカスが早朝の畑仕事で一息ついたとき、友達のダミアンが誘いに来た。ルーカスが作ったヨットに乗って、ドラゴンを見に行こう、と。
 舞台は未来で異星人の変なテクノロジーは出て来るんだが、読了後はむしろルーカスとかあちゃんジュリア・ダミアンととーちゃんジェイスンの関係の対比が心に残る。環境保護というかララダイトっぽい運動に熱心で実際的な事には無関心な元哲学教授の引きこもりなジュリア、支配的で暴力的なジェイスン…って、単にダメなオトナじゃねーかw

 ケン・リュウ「紙の動物園」はヒューゴー賞ショートストーリー部門/ネビュラ賞ショート・ストーリー部門受賞作。父さんはカタログで母さんを選んだ。カタログには「香港出身で英語が堪能」とあったが、事実じゃなかった。ぼくが幼い頃、母さんは折紙で虎を折ってくれた。母さんが折って息を吹き込んだ虎は、命を得て動き回った。
 しんみりするファンタジイ。似たような事例は今の日本にもあるわけで、ヒトゴトではない…などと難しく考えてもいいけど、とりあえず素直に感動しておこう。

 ジョン・G・ヘムリイことジャック・キャンベル「ベティ・ノックスとディクショナリ・ジョーンズ、過ぎ去りしティーンエイジに立ち返っての奇譚」はアナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作。過去への時間旅行は実現されたが、大きな制限があった。できるのは過去の本人に意識を飛ばすことだけ。2039年、危機を回避するために高齢者から選ばれ1965年に飛び、15歳になったベティ・ノックス。彼女に話しかけたディクショナリ・ジョーンズは彼女を追いかけ飛んできた。「第一陣の痕跡が消えちゃったんでね」
 器用だなあ、この人。売れる作品の書き方を心得てる。「体は子供、心は老人」って、名探偵コナ…いえ忘れてください。とはいえ、いかにもライトノベルっぽいシチュエーションは効果抜群。時は激動の60年代、アメリカが激変する直前。中身は年寄りだが体は高校生、ヴィジュアルだけならモロにボーイ・ミーツ・ガールそのもの。ヒキも連続TVドラマっぽい形だし、評判によってはシリーズ化できる構成になってる。人気が出るのもわかるなあ。

 キジ・ジョンスン「霧に橋を架けた男」はヒューゴー賞ノヴェラ部門/ネビュラ賞ノヴェラ部門/アシモフ誌読者賞ノヴェラ部門受賞作、今回は前後編の前編。建築家のキット・マイネンは、霧の川に橋を架けるため、帝国の都アトヤールから左岸町に来た。帝国は霧で分断されている。右岸町へ渡る船を捜すキットは、渡し舟を操るラサリ・フェリーを訪ねるが、数日待てと言われる。
 「へ?霧の川?なにそれ?」と思ったら、つかみはオーケー。見た目は霧だけど、中身はだいぶ違う。川幅は1/4マイルだから、約400メートル。舞台のテクノロジーは産業革命以前っぽくて、このレベルの技術じゃかなりの難事業になりそう。霧の性質もアレで、これまた架橋を難しくしてる。お話の展開、今のところは田舎の町で大型プロジェクトをどう進めるか、みたいな話になってる。橋を架けるキットと、橋によって職を失いかねないラサリの交流を中心にしずしずと話は進む。

 特集もあって SF SCANNER は特別版として4編紹介。
 ファージングで話題をさらったジョー・ウォルトン「見知らぬ者たちのなかで」を紹介するのは中野善夫。SFファンの若き頃の日常が楽しいファンタジイ。「ディレイニーやゼラズニイ、ル・グインが梳きなのに、ハインラインも好きってどういうことだ?」にはこう答えよう。「辛口のカレーも好きだし甘いケーキも好きなんじゃい、文句あるか」と。
 小川隆が紹介するのはラヴィ・ティドハー「オサマ」。イスラエルの作家による歴史改変もので、ネタは当然彼だろう。なんか最近、日本でも仁木稔や宮内悠介が活発だし、最近の流行なのかしらん。まあ昔はソ連を悪役にしとけば済んだけど、今はアレだから、そういうのもあるのかしらん。

 東茅子の MAGAZINE REVIEW はアナログ誌2012.7/8~2012.11。なんとラリイ・ニーヴンのショート・ショート「ピンクのシャツを着た男」が出てる。<アスタウンディング>誌の編集長ジョン・W・キャンベルは政府から圧力を受ける。「原子力関係の記事を載せるな」。そこに現れたピンクのシャツの男は、キャンベルにアドバイスを…。キャンベルが原爆関係で政府にケチつけられたのは事実らしいし(→アーサー・C・クラーク「楽園の日々」)、ピンクのシャツの男にもモデルがいるんだろうなあ。是非読みたい。お願いします編集長。

 巽孝之「真夏の夢のミッドウェスト」は世界SF大会チャイコン7レポート。「宇宙飛行士主賓」なんてのがあるあたりは、さすがアメリカ。ちなみに招待されたのはストーリー・マスグレイヴ。

 鳴庭真人「英米SF注目作カレンダー2011」は2011年の注目作を総ざらい。気になるのはグレッグ・イーガン「時計じかけのロケット」は三部作のの開幕編。チャールズ・ストロスも新作「ルール34」を出してる。なんと警察小説。ヴァーナー・ヴィンジの「空の子供たち」は「遠き神々の炎」の続編。銀河の端っこほど人も機械もおバカになる、みたいな設定だっけ?NetNews を小道具に使ってたような。

 池澤春菜「SFのSは、ステキのS」、今回は整理と清掃の話。本に限らず溜まっていくモノを整理するコツはですねえ、「捨てるモノ」を選ぶのではなく、「残すもの」を選ぶことです。原則、全部捨てるって発想。でもって、三日後には後悔するんだな、「アレ取っとけばよかった」と。あと、季節モノの衣装は質屋に出すって手も。季節になったら受け出せばいい。そう簡単には流れないし、質屋の倉はしっかりしてます。やった事ないけど←無責任な

 SF BOOK SCOPE、森山和道の NONFICTION 「知の逆転」はインタビュー集。ジャレド・ダイアモンド/ノーム・チョムスキー/オリバー・サックス/マービン・ミンスキー/トム・レイトン/ジェームズ・ワトソンというそうそうたる顔ぶれ。ミンスキーの「SFしか読まない」って、偏ってるなあ。いや人の事はいえないけど。

 長山靖生「SFのある文学誌」、今回は「世界をいかに旅するか 明治のヴェルヌ・ブーム」として、ジュール・ヴェルヌと、彼が日本に紹介された経緯の話。ウェルズは「時の旅人」が出てるけど、ヴェルヌは見つからないんだよなあ。私はヴェルヌの方が好きです。バック・トゥ・ザ・フューチャー第三部の結末は最高に気持ちよかった。「80日間世界一周」、前編は明治11年6月に川島忠之助が訳し自費出版し、評判が良かったので後編は慶応義塾出版社から出たとか。ヴェルヌの受け取られ方から、明治の考え方を探る論評が鋭い。ヴェルヌについても、単なる空想物と思われがちだが、実はしっかりと考証していたとか、「80日間世界一周」の好評で連載中にタイアップの打診があったけど断ったとか、ヴェルヌのファンは必読。また、挿絵を担当した山下りんの略伝も意外性に富んで面白い。

 「咎人の星」刊行記念の「ゆずはらとしゆきインタビュウ」。自らを「ライトノベル作家」といい、二言目には「○○なひとは、ぼくの小説は読まない方が良い」って、やたらダウナーなテンションが、ある意味斬新。ここまで商売っ気のない相手だと、インタビュウ、やりにくかったろうなあw

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