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2013年1月31日 (木)

神林長平「敵は海賊・海賊の敵 RAJENDRA REPORT」ハヤカワ文庫JA

「…匋冥は必ず、やってくる。降臨、というわけだ。来ないなら、おびき寄せてやる。われわれ海賊課は、それを、叩く。敵は、海賊だ」

【どんな本?】

 雪風シリーズで有名なSF作家・神林長平の、もう一つの看板シリーズ「敵は海賊」の最新長編。未来の宇宙を舞台に、圧倒的な力で君臨する海賊・匋冥と、それを追う広域宇宙警察・対海賊課の刑事チームの三人?ラテル・アプロ・ラジェンドラの活躍を描くスペースオペラ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年1月25日発行。文庫本縦一段組みで本文約299頁。9ポイント40字×17行×299頁=約203,320字、400字詰め原稿用紙で約509枚。長編小説としては標準的な長さ。ベテランに相応しく、文章の読みやすさは抜群。スペース・オペラだけあって、得体の知れないガジェットも沢山出てくるけど、あまし気にする必要はない。

 特筆すべきは、長いシリーズ物であるにも関わらず、この巻から読み始めても充分に物語世界に入り込める形になっている点。今までのお話が伏線になっている記述は多々あるが、わからなきゃわからないで、ちゃんと楽しめる。また、このシリーズはコミカルな場面が多いため、雪風シリーズよりとっつきやすい。

【どんな話?】

 民間からは「海賊と似たようなもの」と認識されている広域宇宙警察・対海賊課。その中でもコキ使われているのが、ラテル・アプロ・ラジェンドラの三人?のチーム。徹底して海賊を憎むラテル、見た目は黒猫の異星人で食欲魔人のアプロ、そしてフリゲート艦に搭載された人口知性体ラジェンドラ。

 いつものようにじゃれあうラテルとアプロにラジェンドラが容赦ない突込みを入れていたその日、現れた依頼人は若く美しいフィラールの女性シャフュラン・メートツ。一目惚れしたラテルは、覚えたてのフィラール語で、たったひとつだけマスターした言葉を呟く。

「シャフュラーナシェリフィリアラナ」

 海賊がたむろする街、火星のサベイジ。遠方からそこになんとかたどり着いた青年ポワナ・メートフは、ホテルの部屋で行列を作る蟻に悩まされ、殺蟻剤を買いに街に出た。早朝で大半の店は閉まっている。やっと見つけた店に入ると、店主は一人の客を相手にしている。

「骨抜き銃です。ま、旦那にとっては玩具でしょうが、面白がってもらえるかと」

【感想は?】

 待ってました!ロングピース印の看板シリーズ、待望の新作。そりゃもう、むさぼるように読んださ。

 今までもワープロの自動記述などメタフィクション的な仕掛けが多いこのシリーズ、今回はフリゲート艦搭載の人口知性体ラジェンドラによる報告書、という形だ。

 メタフィイクションなどと小難しい言葉を使ったけど、内容の親しみやすさは抜群。特に、ラテル・アプロ・ラジェンドラの会話は、まさしく漫才そのもので笑いっぱなし。ライトノベルとラベルをつけても充分に通用する読みやすさだし、物語世界にもすんなり入って行ける。

 今まではラテルとアプロのドツキ漫才への突っ込み訳として、一歩退いた位置にいたラジェンドラが、この巻では毒舌をいかんなく発揮して、漫才を更に盛り上げてくれるから嬉しい。特に、ラジェンドラの一人称という仕掛けのため、彼が考えている事が細かく記述され、ラジェンドラのナチュラルに嫌味な性格が否応なしに伝わってくるのが嬉しい。嫌味ったって、屈折して嫌味なんじゃなくて、天然で嫌味なんだよな、このマシン(?)。もう、冒頭から、彼のラテルに対する評価が酷いったらないw

 そして猫型異星人のアプロ。見た目は黒猫だが、圧倒的な戦闘能力に加え、実に困った能力も持っている。大食らいで、頭の中は食うことだけ。彼の世界は「うまいもの」と「うまくないもの」でできている。そのくせ女性職員の前では猫をかぶり可愛い子ぶっているので、女性にはウケがいい。

 そんなアプロに齧りつかれ、殴り返せば女性職員から「いじめっこ」と思われてしまう哀れなラテル君。口を開けば互いに嫌味ばかりの三人?なのに、海賊相手では優秀なチームだから不思議。

 にも関わらず、その強引な捜査がたたり、民間人はおろか他の警察からも「海賊よりも海賊らしい」「どのみち似たようなものだ」と評価されてしまう海賊課。そりゃそうだ、実際、武装もやたらと強力だし。

 彼らが追うのは海賊。海賊はみんな敵で、中でも最重要な標的が匋冥・ツザッキイ。正体不明で多数の表の顔を持ち、海賊を仕切っていると思われているが、その実態は…。彼のハードボイルドな人物像も、この物語の大きな魅力の一つ。人が徹底して束縛を嫌い、自由を求めたら、どこにたどり着くか。

 今までも黒猫アプロの対比として白猫を連れ、ラテルのレイガンの対比としてフリーザーを持つ匋冥、この巻では徹底したリアリストとして描かれ、その対比物となるのは宗教。

「おれは、自分を操ろうとしたり縛ろうとする者を、叩く。宗教は最も強力な、縛りだ。そこでおれの虚像が創られるのを放置しておくわけにはいかない」

 この宗教と匋冥の対決が、これまた大笑いの展開になる。いや役者はみんな大真面目なんだが、あまりにブッ飛んだ話が出てくるんで、もはや笑うしかない。案外と、現実も似たようなものかもしれない。

 ロングピース印に欠かせないのが、意味不明な禅問答。ここでも活躍するのが匋冥。彼と家出青年ポワナのやりとりは、相変わらず意味深っぽくて、けど実はラテル・チームの漫才と同次元なんじゃないか、などと悩み始めるとキリがない。たかが蟻の駆除で、なんでそこまで深く考えねばならんのだw

 小難しい屁理屈が多いと思われがちな神林長平だが、このシリーズは読者サービス満点の娯楽作。ギャグあり、アクションあり、因縁の対決あり、得体の知れないガジェットもわさわさ、そして神林特製の屁理屈もあり。親しみやすく面白く独自カラーもある、神林長平入門用としては最適な一冊。

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