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2013年1月16日 (水)

松田道生「カラスはなぜ東京が好きなのか」平凡社

 カラスを観察していると、このバードウォッチングに大別して二つあることに気がついた。ひとつは、鳥の名前がわかったらおしまいのバードウォッチング。もうひとつは、鳥の名前がわかったところから始まるバードウォッチングである。

【どんな本?】

 都会で逞しく繁殖しているカラス。図体の大きさや煩い鳴き声、そして集団でゴミを漁る真っ黒い姿が気味悪がられ、テレビなどで話題になった。なぜカラスは東京で繁殖するのか、どんな生活をしているのか、巣は何処にあるのか、そして効果的な駆除法はあるのか。

 などといったカラスの生態と共に、バードウォッチャーである著者が、どのようにカラスを観察するのか、どんな所に注目するのか、人の多い東京でカラスを観察する苦労やトラブル、そしてカラスに関するよくある誤解など、カラス観察の実態や、人とカラスの関わりを綴った、都会での自然観察エッセイ集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2006年10月18日初版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約297頁+あとがき4頁+参考文献8頁。9.5ポイント44字×16行×297頁=約209,088字、400字詰め原稿用紙で約523枚。長編小説なら標準的な長さ。

 文章はエッセイ系の素直な文体で読みやすい。内容も、科学系の本ではあるが、特に小難しい前提知識は要らない。漢字さえ読めれば、小学生の高学年でも充分に読みこなせる。主な舞台が東京都文京区なので、都内の地理に詳しい人は、より楽しく身近に読めるだろう。

【構成は?】

第1章 カラスを調べる
第2章 巣作りは大変
第3章 子育ての季節
第4章 受難の日々
第5章 巣立ちへ
終章 カラスが教えてくれたこと
 あとがき/引用・参考文献

 各章は、2頁~10頁程度の半ば独立したエッセイからなっているので、気になった所だけを拾い読みできる。各章の末尾には、2~4頁の独立したコラムが付属している。

【感想は?】

 カラスの生態も楽しいが、それ以上に「カラスを観察する人」の生態が楽しい。

 著者は文京区の六義園を中心にカラスを観察している。都会の真ん中だけに、近所の住民や通勤してきた人とも否応なしに関係ができる。大きな双眼鏡を持ってアチコチ覗き見してはメモを取っているるわけで、見ようによっては想いっきり怪しい。時として警察から職務質問を受けたりする。ビビりながらも平静を装って対応する著者、ところが観察対象がカラスとわかると警官の態度が一変する。

面白いことに、傷ついたカラスが交番に持ち込まれたり、どこそのこ交番の○○がカラスに襲われたと、お巡りさんたちはけっこうカラスと関わっていることがわかった。

 この職務質問がきっかけになったのか、以降も巣落としや幼鳥の行方などで著者は警察と穏やかな協力関係を築き上げている。さすが。

 さて、日本のカラスで多いのはハスブトガラスとハシボソガラス。「ハシブトガラスは森林、ハシブトガラスは草原など開けた環境を好む」のだが、東京で多いのは意外な事にハシブトガラス。平野部なのに森林に住むハシブトガラスが栄えているのは意外。

 著者は巣に注目してカラスを観察する。カラスはかなり賢くて、著者を覚えてしまう。ただし、好意ではない。特に繁殖期である春先から初夏にかけて、卵や雛を守るため威嚇するのだ。他の人は無視して、著者だけを威嚇してくる。「私のように、巣を見上げたり巣立った幼鳥に関心を持つ人に対してはいたって攻撃的になる」。

 つまりカラスが人に攻撃的になるのは、巣を守るためだ。著者はこれを利用して、カラスの行動を見て巣のアタリをつける。さすが。これに関しては、とある老婦人とカラスの関係が面白い。

「このカラスは、私のことを慕ってあとをついてくる。そのため、カラスが自動車にぶつかってしまったことがある」などなど、いろいろなエピソードを楽しそうに語ってくれた。(略)「慕ってついてくるのではなく、警戒してあとをつけているのだ」とは、とてもいえる雰囲気ではなかった。

 そりゃそうだ。
 カラスが巣を作るのは、主にスダジイ(→Wikipedia)。巣の位置でもカラスの行動は違ってきて、一般に高い所に巣があるカラスは穏健で、低い所に巣があるカラスは攻撃的だとか。つまりは巣の危険度によってカラスの態度が変わるわけ。また、巣とねぐらが違ったりする。巣に関しては、試作巣など面白い話がいろいろ出てくる。

 やはりご婦人は優しい方が多いのか、カラスに巣財をプレゼントするため、針金のハンガーを敢えてベランダに吊るす奥様も出てくる。嫌われ者のカラスだけど、「カラスだって一生懸命生きてるんだ」と感じる人も居るんだよなあ。

 とはいえ、カラスはけっこう大きい。集団でゴミ集積場を漁っている場面などは、ちょっとした迫力がある。著者はカラスの死体が見つかる季節を元に、効果的な駆除法を提案している。三月中旬から四月中旬の一ヶ月が最も死体の発見が多い。「自然の中の食料がもっとも少ない時期」なので、「この季節に、ごみの量を減らしたり管理をしっかり」するのが効果的だろう、と。

 巣落としをするのは「5月15~25日の10日間」は著者のお薦め。なお、巣に卵や雛がいるなら、巣落としには(東京都の場合)鳥獣保護法に基づいた「有害鳥獣駆除」の申請が必要で、「30日以内に結果を報告する義務がある」。卵や雛は有害物質の検体などで回収している場合もあるので、自治体に問い合わせよう。

 実は毎年パートナーを変える鴛鴦と違いカラスは長く番を続けたり、若鳥は群で行動したり、巣とねぐらが違ったり、巣は毎年新築したり、危険人物を尾行したりと、意外なカラスの生態がわかるのも面白いところ。身近な野生動物でもあるし、誰にでも観察できるのも嬉しい。巣の見つけ方を覚えたら、近所の風景が違って見えるかもしれない。ただし、警官に職務質問される可能性があるので、身分証明書は持っていこう。

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