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2013年1月13日 (日)

ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ「おおエルサレム! 上・下」ハヤカワ文庫NF 村松剛訳 4

 ドヴ・ヨセフ(ユダヤのエルサレム補給/配給担当)が市の婦女子の運命を決定していたとき、ニューヨークの国際連合のこれらの構成員はには、まったく別の課題が提起されていたのである。彼らは暦を、計算してみた。エルサレムにある全宗教と全国家機関のお祭りにそれぞれ一日をあてていたら、一年では日が足りない、ということがわかった。

 ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ「おおエルサレム! 上・下」ハヤカワ文庫NF 村松剛訳 3 から続く。

【どんな本?】

 副題は「アラブ=イスラエル紛争の源流」。アラブとイスラエルの武力衝突の原点となった第一次中東戦争を、1947年11月29日の国連パレスチナ分割案決議から1948年5月14日のイスラエル建国を経て1948年7月17日の第二次停戦案までを中心に、主にエルサレムの奪い合いに焦点を充てて描く迫真のドキュメンタリー。

 著者はアメリカとフランスのジャーナリストで、他にドキュメンタリー「パリは燃えているか?」「さもなくば喪服を」「今夜、自由を」、小説「第五の騎手」がある。いずれも膨大な取材を元に大量のエピソードを積み重ね、モザイクのように事件を浮き上がらせる手法が特徴。

 ここでは、エピソードをいくつか紹介する。本の概要などは ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ「おおエルサレム! 上・下」ハヤカワ文庫NF 村松剛訳 1 をご覧いただきたい。

【エピソード集】

●聖ジョージ通りの戦闘の後、真夜中

 撤退したアラブ軍団が遺棄した三両の自走砲を回収しようと、ヨセフ・ネヴォとミシュカ・ラビノヴィッチとヤコブ・ベン・ウルの三人は車両に近づく。成功すれば彼らの装甲部隊の戦力は倍になる。三人が二台目を牽引し始めたとき、最後の自走砲が反対方向に動き出した。アラブ軍団のザール・エルハヴェル中尉も、彼らと同じ事を目論んでいたのだ。

●敬虔

 エルサレム旧市街のユダヤ人地区はアラブ軍団の手に落ち、市民は新市街へと避難する。彼らは打ちひしがれていた。だが、エルサレム防衛副官ハイーム・ハレルが驚いたのは、彼らの失意の理由を知った時だ。

 それは辛うじて死をまぬがれたためではなく、一切の財産を失ったためでもなかった。シオンの門からカタモンの地区に来たとき、この金曜日の夕昏に、彼らの生涯ではじめて安息日を瀆したことのためだった。

 ハレルは、彼らに蝋燭を一本ずつわたした。「一本ずつ火が点じられていくと、まわりの人びとの顔が、歓喜に輝くのをハレルは見た」。

●音楽

 包囲され飢えたエルサレム。市民は臨時放送局「コル・エルシャライム(エルサレムの声)」を楽しみにしていた。最も人気が高いのは、オーケストラの30人の楽団員だ。

彼らの演奏をラジオで聞くには、電力がなかったので、彼らは毎週火曜日に街頭に現われ、アラブ軍の砲撃をものともしない勇敢な聴衆のまえで、そのレパートリーを疲労した。砲撃が本当にひどくなると、音楽家たちは急場しのぎのスタジオに避難し、平然として演奏をつづけた。

●将校教育

 イスラエル独立前は地価軍事組織であり、駐屯する英軍に監視されていたハガナだが。

英軍の監視の目を巧みにのがれて、ハガナはエズレルの谷の実験農場の中に、将校課程をまでつくり上げることに成功し、二箇月間に150人を昇進、任官させた。教育内容は、委任統治政府の兵舎から苦心して盗み出してきた何冊かの赤い小冊子である。それらは英軍の、教育用マニュアルだった。

●情報戦

 エルサレムを確保するには、駐屯中の英軍が確保している建物を奪取した側が有利になる。ユダヤはスパイや賄賂など様々な手口で各部隊の正確な撤退日時を手に入れ、英軍とほぼ入れ替わりで庁舎などを確保したのだが…

旧市街のアラブ人指導者のひとりで、元警視ムニール・アブ・ファデルは、旧市街の城壁に沿ってブルドッグの「ウォルフ」を散歩させながら、輸送隊の行進を目にした。この時はじめて、彼はイギリス軍の撤退を知ったのである。

●助力

 戦争にあたり、アラブ諸国の指導者の言葉は勇ましい。サウジアラビアのイブン・サウド王曰く「自分の最後のねがいは軍の先頭にたってパレスチナで死ぬことである」。イスラエル独立を待たず義勇兵によるエルサレム奪取を目指し戦闘を始めるハジ・アミンと前線で指揮を取るアブデル・カデルに、イブン・サウドから支援の積荷が届いた。

しかし箱を開いたアブデル・カデルは、怒りで蒼白になった。イブン・サウドが送ってきたのは第一次世界大戦当事の小銃の一山で、サウドはこれをつかってアラビアの砂漠を征服したのである。アブデル・カデルはその一挺一挺を、膝でへし折った。

●工夫

 15歳でユダヤ人との戦いに身を投じたエル・クトゥブは、発明と工作の才にも恵まれていた。

彼がつくった投擲器は、手榴弾に数百メートルの射程距離を与えた。暴発をふせぐためにガラスの環を手榴弾にとおし、撃針を留めておくことも考案した。手榴弾が目標に命中するとガラスの環は砕け散り、撃針が作動するのである。

●国連

 国際連合初代パレスチナ代表としてエルサレムに赴いたスペイン人のパブロ・デ・アスカラーテだが、歓迎は冷ややかだった。それでも国際連合の存在を都市に誇示すべく、彼は事務所の外に国際連合の旗を掲げ敬礼した。その直後、一斉射撃が建物を襲った。困ったことに、国際連合の青と白の旗の色は、シオニスムのそれと同じだったのだ。

●勇者

 独走ちがちなアラブの義勇兵を卓越した指導力でまとめあげ、カステルを占領したアブデル・カデル。だが、乱戦の最中に彼は戦死する。「カステルを再占領した何百人のアラブ人は、彼の葬儀に列席するために、その朝のうちに大挙してエルサレムにもどってしまったのである」。ユダヤ人はカステルを奪還した。

●翼よ、あれが…

 ユダヤは合衆国の余剰物資として買い込んだものの中に、三機のB17空の要塞がある。操縦士ロイ・クルツは過去に年間、TWAの機関士として地中海を飛んでいた。午後9時40分、彼は馴染みのカイロのアル・マザハ空港に無電を入れる。「こちらTWA航空924便。着陸よろしいですか?」カイロ管制官がこたえる。「TWA航空924便、了解」「第四滑走路に着地どうぞ」。

 着陸し慣れた舗装路にまっすぐに機首を向けるクルツ。そして爆撃手ジョニー・アディールが空港を高性能爆弾で覆う。クルツは別れの挨拶を送る。「カイロ管制塔へ」「まだ第四滑走路への着地、了解ですか?」

●包囲

 アラブの包囲により飢えるエルサレムのユダヤ人だが…

ある晩ハイーム・ハレルは、カタモンにある彼の家で、鉄条網の向うからきこえてくるひそやかな口笛の音をきいた。暗がりのなかを音に向かって這ってゆくと、そこにいたのは何年も彼の家で女中として働いていた初老のアラブ女のサロメだった。鉄条網ごしにトマトをいくつか渡してくれたながら彼女は囁いた。「わかってますよ。何もないんでしょう」

●略奪

 アルメニア人の食料品店から略奪して来た炭酸飲料水の入った瓶を全部呑みほしたガドナ(ハガナの少年兵部隊)の隊員たちは、はげしい不快感に襲われた。(略)「早く医者を呼んで下さい。アラブ人に毒薬を呑まされました」。(略)彼らは生まれてはじめて、シャンパンを呑んだのだった。

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