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2013年1月13日 (日)

ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ「おおエルサレム! 上・下」ハヤカワ文庫NF 村松剛訳 3

ニサン・ベクのシナゴーグは、アラブ軍団の攻撃にたいする最初の重要拠点だった。この建物はユダヤ人がわの布陣の基本点であり、少数の守備隊が絶望的な頑強さで抵抗した。この混乱のなかでただ一度、場違いの光景が現出し、戦闘者たちは一瞬、熱をさまされた。トルコ帽をかぶったアラブ人の家賃集金人が、その同胞から家賃を徴収しようとして、ユダヤ人街の路を平然と駆け回っていたのである。

 ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ「おおエルサレム! 上・下」ハヤカワ文庫NF 村松剛訳 2 から続く。

【どんな本?】

 1947年11月29日の国連によるパレスチナ分割案決議から1948年7月17日の第二次停戦案受諾まで、パレスチナの地で続いた第一次中東戦争。古都エルサレムの奪い合いを軸に、アメリカとフランスのジャーナリスト・コンビが幅広く膨大な取材を元に描く、重量級の紛争ドキュメンタリー。

【感想は?】

 本書の最大の特徴は、膨大な取材に裏打ちされた大量のエピソードの奔流だ。あまりの量に圧倒され、読者は往々にして大筋を見失う。前回の記事で大雑把かつ不正確に概要をまとめたので、参考にして欲しい。更に簡単に背景を説明すると…

 ユダヤ側の周到かつ執拗な根回しの甲斐あってパレスチナ分割案は決議されたものの、アラブ・ユダヤ共に、これが実質的な効果を持つとは思っていない。現実の国境は武力で決まるだろう。

 エルサレムへの凱旋を夢見るハジ・アミンの命によりアラブ中から集まった義勇兵はイスラエルの建国宣言を待たずに戦闘を初めエルサレムを包囲、武器兵員全てが不足するハガナを圧倒する。飢餓に苦しむエルサレムだが、最大の危機はこれから。エジプトやトランス・ヨルダンを主力とするアラブ諸国は1948年5月14日のイスラエル建国および英軍の撤退を機に正規軍を進軍させる。

 ユダヤとアラブが、まるで漫画のように対照的に描かれている。世界中に張り巡らしたネットワークを駆使し、政治的にも軍事的にも一つの目的に向かい組織的に行動するユダヤ。同じアラブ内で全く統一が取れず、各自がバラバラに動くアラブ。武器・兵員ともに貧弱なユダヤと、湯水のごとく弾薬を浪費するアラブ。全てが計画的なユダヤと、ほとんど勢い任せのアラブ。武器調達のエピソードが、これまた凄い。

【武器調達】

 時期的に第二次世界大戦の直後で、世界中で武器は余っている。必要なのはカネとコネ。ユダヤ国家は決議案当時、未だ成立していないので、国家としての取引は出来ない弱みもある。おまけにパレスチナの治安維持を司る英軍は、完全にアラブびいき。

 欧州に武器調達に飛び立つユダヤのエフド・アヴリエルとシリア軍大尉アブダル・アジス・ケリーヌの話は、あまりに出来すぎている。両名は互いに知らぬまま同じスイス航空442便のDC4に乗り合わせる。両者は、共に同じビルにたどり着く。.プラハのベルクリド大通り20番、ズブロヨフカ・ブルノ社。「取引相手は国家のみ」と限定するズブロヨフカ・ブルノ社に対し、未だ国家を持たぬアヴリエルの切り札は…

 この両名の因縁は更に続く。運搬する船を三ヶ月かけて探し、やっとユーゴスラヴィアの港リエカで沿岸航行船ノラ号を見つけたアヴリエル、船会社の事務所に行くと社員曰く「船をもう一隻、お見つけになったのですね」。彼は他の船を雇っていないが、荷主には心当たりがある。ケリーヌだ。かくしてハガナの秘密工作員は、もう一つの船リノ号を目標に…

 このリノ号、もう二回ほど登場するのだが、まるで映画のように数奇な運命を辿る。

 ユダヤ人エフダ・アラジはワルシャワの工場で秘密裏に三千丁の小銃を作り、その仲間は「砂漠の戦場踏査に行き、壊走したドイツ・アフリカ軍団の遺棄した武器をもってくる」。薬莢の製造に行き詰ったヨセフ・アヴィダールは、「イギリスの化粧品工場に、口紅の容器を何十万個か注文した」。

 中でも卓越してるのが、ハイーム・スラヴィーヌ。彼はテル・アヴィヴのキャフェで新聞記事に目を留める。「合衆国の軍需工場の60万の製造機械が屑鉄として廃棄される」。ハガナを率いるダヴィッド・ベン・グリオンに宛てた手紙は、彼をアメリカ巡業へと送り出す。米国の法はある種の機械を廃棄する際、所有者が解体して使用不能にする義務を負う。多数の拾い屋を手配したスラヴィーヌは全部品をかき集め、自らの手で復元した。彼の機械は小銃の実包五万発を毎日生産する。

【輸送】

 武器はあるだけじゃ役に立たない。焦点となるエルサレムに届けなければ、ただの鉄屑だ。それはアラブも承知していて、テル・アヴィヴ=エルサレム間の街道で待ち伏せをかける。襲われた車列から…

最初に降りてくる人びとは、たいていが血にまみれていた。輸送隊の到着を待つ医療班に、彼らはほかの乗客に支えられてひきわたされる。最後に降りてくるのが、死者たちだった。

 街道中のラトゥルンをトランス・ユルダンのグラブ・パシャ率いるアラブ軍団に占領されたユダヤは何回か絶望的な奪回を試みるが、いずれも失敗に終わる。これを迂回してテル・アヴィヴからエルサレムへ向かったジープが、奇策を生む。「道路を作ってしまえ」。そのジープは「5月14日の戦闘のさいに捕獲された、アブデル・カデルのジープだったのである」。

 たった一台のブルドーサーで始まった道路建設工事、間に合わぬと見たユダヤ側はテル・アヴィヴで数百人の男を徴集する。「殆どの男たちが、二つの共通の特徴を見せていた。停年退職に近い年齢であることと、都会人で、歩くのに慣れていない」。彼らに荷物を背負わせ、エルサレムへ運ぶ計画だ。しり込みする中年男達に、責任者ヨセフ・アヴィタールは語る。

 ――諸君のひとりひとりの背負う荷物が、ユダヤ人百人の命を一日支えることになるのだ。
 このことばがまるで突然、彼らに新しい力を吹き込んだかのように、彼らは、最も重い荷物をかつぐ名誉を得ようとして争った。

 この路は、こう名づけられた。ビルマ・ルート。

【アラブ流】

 アラブに不利な面しか知らされるエルサレムのアラブ人を鼓舞しようと、アラディン・ナマリはビラを作る。アラブ諸国のラジオを聴いて筆写し、それをタイプライターで打ち、複写する。そのビラはラマラのラジオ・パレスチナで放送された。

  • 「イラク軍はパレスチナの大部分に電気を供給しているルーテンベルクの発電所を奪取した」
  • 「エジプト軍はカン・ユニを経てガザに達し、勝利の進撃を続行中」
  • 「レバノン軍は道路沿いの全ユダヤ開拓民村の陣地を掃討し、勝利の進撃をつづけている」

 ビラを読んだパレスチナ人、ジョージ・ディープは、エジプト軍のベルシェヴァ、ヘブロン、ベトレヘムでの「勝利」の発表を見て憤激した。「地図を送ってやったのに、あいつらには読めないのだろうか」と彼は嘆く。「彼らが征服したと嘘をついているその土地は、ぜんぶアラブ領内にあるのだ」

【シリアの核】

 シリアは、核兵器を持っている。少なくとも、当事の大統領シュクリ・エル・クワトリはそう主張している。1948年7月14日、レバノンの山の避暑地アレイで開かれた第二次停戦案を話し合うアラブ側の会議で、彼は同僚に向かい…

シリアはやがて新しい聖戦の主導権を握るであろうということを洩らした。シリアはいまや、自家製の原子爆弾を持っている。それはダマスカスのアルメニア人の鍛冶屋の手で製造された。

 すんません、引用したいエピソードが他にも山ほどあるんで、次回に続きます。

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