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2012年12月31日 (月)

SFマガジン2013年2月号

いちばんの難関は“スレーブ・モションコントロールカメラ”だった。身長差のあるホビットやドワーフ、魔法使いをワンフレームに違和感なく収めるときに使った新技術なんだ。
  ――映画「ホビット 思いがけない冒険」監督 ピーター・ジャクソンのインタビュウ

 280頁の標準サイズ。今回は日本作家特集として、樺山三英・宮内悠介・藤井大洋・オキシタケヒコの短編の他、梶尾真治の怨讐星域25話「星条旗よ永遠なれ」とシオドラ・ゴスの短編「クリストファー・レイヴン」を収録。

 特集のトップバッターは藤井大洋「コラボレーション」。検索エンジンの暴走によりインターネットが崩壊し、完全な認証型ネットワークトゥルーネットに置き換わり20年がたった未来。だが日本では、管理責任の押し付け合いなどで宙に浮いた旧型サーバーがゾンビのように生き延び、宛てのないメッセージを送り続けている。旧型サービスの痕跡を履歴から拾い上げてサーバー運営者に連絡する仕事に携わる高沢は、懐かしいURLを目に留めた…
 多くの老いたプログラマにとっては、若い頃に自分が書いたコードなんて活火山の火口に放り込みたいシロモノだったりするが、多少でも利用者がいると、そういうワケにもいかなくて苦悶したりする。「指がコマンドを覚えていた」ってのは、あるなあ。curl はよく使います、アレな画像をまとめて(以下自粛)。そんあこんなでプログラマ諸氏には身に染みる作品。

 樺山三英「無政府主義者の帰還」は新シリーズの第一回。時は昭和初期、震災から復興しつつある東京。アナキストとして反体制運動に携わっていたOは、出獄して転向し、今は政府の密偵として働いている。今日のOの目的地は鳥有亭、それは瓦礫の山ともみまごう奇妙な建築物で…
 Oのモデルは彼(→Wikipedia)かな?ドクトル・クラウスの運命と、彼を招聘した日本の思惑のズレ方が皮肉が効いてる。この著者、「狂った建築物」が好きだなあ。

 オキシタケヒコ「エコーの中でもう一度」。佐敷裕一郎・武藤富士伸・カリンの所員三人の零細研究所「武佐音響研究所」が受けた仕事は、テープのクリーニング作業だった。依頼主は盲目の女性・花倉加世子。彼女が生まれ育った地方都市のアーケード街の雑踏を録音したもの。区画整理で商店街が取り壊される事になり、テープは彼女のせめてもの思い出の品となる。もう一つの依頼は…
 これはオーディオ・マニア感涙の一編。人間が聞いている音とは、どういうものか。音源から出た音は、どうやって我々の耳に届き、人間はどうやってソレを聞き分けているのか。例えば Windows のコントロールパネルのサウンドエフェクトでも様々なエフェクト(効果)がつけられるけど、アレはどうやっているのか。フーリエ変換がわからなくても、直感的にわかる説明がとても嬉しい。

 宮内悠介「ハドラマウトの道化たち」は、「ヨハセスブルグの天使たち」「ロワーサイドの幽霊たち」「ジャララバードの兵士たち」に続くDXシリーズ。アフガンで細菌兵器を流出させてしまったアキト、今度の任地はイエメンだった。日干し煉瓦の高層建築が入れ組んだ街シバームは、様々な部族・宗教の者が集まっていた。混沌とした彼らを、一人の者がまとめ上げた。ジャリア・ウンム・サイード。彼女の教義は…
 アキトと共闘するタヒルの人物設定がヒドいw。ジャリアが志向する政治形態は、SFならではのもの。似たようなアイデアをアイザック・アシモフが書いていたような気がするが、現実にやろうとしたら、職を奪われちゃう人があらゆる手段で潰しにくるだろうなあ。

 梶尾真治「星条旗よ永遠なれ」。今回はノアズ・アーク号の視点。惑星<約束の地>の衛星軌道に到達したノアズ・アーク号は周回軌道に入った。第一次移住計画は開発員の選定も終わっていたが、ここへきて中断する羽目になった。惑星の観測で、たった一つの陸地に小さな多数の光点が見つかったのだ。知性を持つ生物がいるのか?意外な状況で難しい選択を迫られたキース大統領は…
 今回は、いよいよ迫るファースト?・コンタクトに向け、緊張感を高める回。タイトルが示すように、アメリカの歴史を引用しつつ、適切な移民方法を模索するノアズ・アークの面々。エンディングが不吉だ。

 シオドラ・ゴス「クリストファー・レイヴン」。学園で開かれる同窓会で再開した元ルームメイトの四人。高慢なエレノア・プレスコット、おどおどしたメアリ・ダヴェンボート、エレノアの取り巻きミリセント・トリヴァー、優等生のわたしルーシー。天敵同士だったわたしたちだが、ひとつの秘密を機に絆ができた。そう、クリストファー・レイヴンの。
 女学生のちょっとイケナイひ・み・つ♪な話。いや実際の語り手はオバサンなんだけど、まあお話の中心は女学生時代だからいいじゃないですか。物語は、レイヴンの謎を巡る女学生の探索と冒険のお話で、ホラー風味に話は進む。

 もうひとつ、READER'S STORYの田辺ふみ「運動会」が秀逸。アンドロイドのアイドル、ホロウ・エンジェル。従来機とは異なり、出荷時のAIはまっさらで、教育やボディ動作のチューニングは購入者がする必要がある。無料貸与の抽選に当たったハヤタは全力でチューニングを施し、全て同じ容姿のホロウ・エンジェルだけで開かれる運動会への出場へ漕ぎつけた…
 いやはや、やられた。この文字数(二千字以内)で、これだけ見事な展開に持ち込むとは。これはもう完全にプロのレベルでしょ。SFバカ本あたりに収録されても他作品に見劣りしないできばえ。

 丸屋九兵衛 (THEY CALL ME)TREK DADDY、今回は共生体のお話でスポーンとトリルを対比させてる。私が思い浮かべた共生体は、「宇宙飛行士グレンジャーの冒険」のグレンジャーと「風」…って、誰も知らんがな。有名な所では「たったひとつの冴えたやりかた」とか。

 椎名誠のニュートラル・コーナー、「北極圏のフルカケはどうしてみんなピチピチ跳ねるのか」って、そりゃ跳ねますがなw。さすがにカリブーは滅多に食べられないよねえ。羊が流行らないのは…やっぱり、飼育費用と収入の問題かしらん。日本の多湿な気候だと羊毛の品質が難しい、とか?

 大橋博之「SF挿絵画家の系譜」は鰭崎英朋。「小説は後に単行本化され形として残り、人々に読み継がれることはあっても挿絵はその場限り」に唸らされる。それ考えると、漫画家はまだ恵まれてるのかも。

 ピーター・ジャクソンのインタビュウはスレーブ・モションコントロールカメラの話が面白かった。もう一つ、トールキンの引用もいい。

神話が神話になるためには、その時代から次の時代へと語り継がれなければいけない。
人から人へと伝えられ、その間に新しいクリエーションが付け加えられ、その物語はもっと大きな神話となる。

 時代結社<カンパニー>シリーズの刊行が始まったケイジ・ベイカーのインタビュウ、「エリザベス時代の英語を教えてきた」経歴を持つ彼女が語る、言語の変化速度の話が興味深い。

変化の速度は、徐々に遅くなってきています――人間がなんらかの記録手段を発明するたびに、変化の速度が落ちるのです。チョーサーの著作を翻訳なしで理解することはほぼ不可能です。(略)しかしながら、シェークスピアの作品を原文のまま読むことならできます。チョーサーの時代からシェークスピアの時代までのあいだに、印刷が産業として確立されたからです。

 今は2ちゃん語とかあるけど、寿命が短いから、本来の日本語に影響を与えないんだろうなあ。「オマエモナー」とか今は死語だし。

 なんと1月には神林長平の「敵は海賊・海賊の敵」が出る。今回の語り手はラジェンドラらしい。宇宙一不幸なAI、果たしてアプロに邪魔されずに語れるのか。

 

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