山本弘「MM9 invation」東京創元社
「六・年ま・え・君た・ちはこ・の国に・大きな・怪獣災が・いを起こ・そうっとs-たー・しかっ・し・失敗した・われわっ・れは・君たっちに・手・を貸したーいー・そのた・めに・強い怪獣を・何び・きも・つれ・てきた」
【どんな本?】
噂の怪獣SF小説であり、ドラマ化もされた「MM9」の続編、ついに登場。自然災害の一種として怪獣災害が存在する現在。舞台は前作より6年後。地球侵略を企てる何者かが、怪獣災害を引き起こそうとする者たちと手を組み、宇宙から怪獣を地上に送り込む。気特対こと気象庁特異生物対策部は、どのように宇宙怪獣に立ち向かうのか。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2011年7月25日初版。単行本ソフトカバー縦一段組み、本文約291頁。9ポイント43字×20行×291頁=約250,260字、400字詰め原稿用紙で約626枚。長編小説としてはやや長め。
文章は抜群の読みやすさ。山本弘の文体は独特のアクがあって、特に最近の「去年はいい年になるだろう」や「アリスへの伝言」はかなり山本色が濃く、慣れない人には鼻につく心配があったのだが、この作品では山本色が薄めで、一見さんでも大丈夫。
前作の続編いう位置づけのため、出来れば前作を読んでおいた方が楽しめる。が、この作品では主人公が変わっている上に、重要な設定は随所で説明されているため、この作品から入っても大きな問題はない。
巻末の地図、出来れば巻頭につけて欲しかった。
【どんな話?】
現代の日本。ときおり怪獣が出現し、その対応には気特対こと気象庁特異生物対策部があたる。前作より6年後、地球侵略を目論む何者かが、怪獣災害を目論む地上の組織と結託し、宇宙から怪獣を送り込む計画を立てる。
気特対の管理化にあった「怪獣」ヒメは、体のサイズを自由に変えられ、出現時は身長20mほどだったが、今は十五歳ぐらいの人間の少女にそっくりの姿で、仮死状態となり眠っている。現在は気特対の管理下にあるが、自衛隊に移管されることとなった。だが、その輸送中、ヒメを乗せたCH-47Jチヌークが火球と接触して墜落し…
【感想は?】
怪獣?いくらSFったって、んなモンを成立させるのは無茶だ。だいたい、生物としておかしいだろ。どうやって繁殖してるんだ。あんなデカい体、どんな骨格で支えるのさ。代謝系は…などと、突っ込み始めたらキリがない。が、そこを敢えて成立させ、無理矢理にでも理屈をこじつけたのが、このシリーズ。
その理屈のこじつけが、この作品の面白さのひとつ。お馬鹿なものをお馬鹿と片付けず、豊富な科学&オカルト知識を無駄遣いして、誠実かつ大真面目に裏設定を創り上げていく。いかにして怪獣の存在を理論付け、それを歴史に組み込むか。この巻では、過去の怪獣災害にも言及し、かの名作まで引き合いに出して歴史を創造していく。おじさんは思わずニンマリだ。
怪獣は、色んなものを吐く。高熱のビームだったり、毒だったり。ただ、「アレは無茶だよなあ」と、私は子供心にも思っていた。だが、この作品では、キチンとその無茶に理論付けしている。ここは読んで思わず感動してしまった。うん、それならアリだ。そうか、そんな手があったのか。すげえ。
理論付けするだけじゃない。怪獣が地上で動き回る際、SF者は細かい突込みを入れたくなる部分があるんだが、その辺もキッチリ処理してるあたり、芸が細かい。
怪獣モノのお約束は幾つかあるが、その一つは自衛隊。大抵はやられ役で、「何のために出てきたんだ」的な扱いなのだが、ここではちゃんと活躍するのが嬉しい。しかも、活躍する兵器がマニアックというか、充分に調べてあって、「なんで戦車ばっかり映すんだ」と不満を溜めている方々も、満足できる仕上がり。
もう一つのお約束は、象徴的な建物を破壊すること。この作品で獲物になるのは、東京スカイツリー。ここでも無駄に凝り性を発揮して、なぜスカイツリーが目標となるのか、キチンと理屈をつけてるのが楽しい。うんうん、そういう理由ならスカイツリーっきゃないよね、確かに。
ばかりでなく、怪獣が暴れまわる千代田区・台東区・墨田区あたりに詳しい人は、思わず「うんうん、あの辺かあ」と頷いてしまう描写がギッシリ。ええ、当然、我らが聖地・秋葉原も犠牲になります。この「好きな街や建物が怪獣に蹂躙されると喜ぶ」という倒錯した心理って、何なんだろう。
などといいう怪獣物のお約束な展開は、後半の話。前半は、まさしくライトノベルの王道、「落ちモノ」のノリ。つまり、煩悩渦巻く思春期の少年の前に、あらわな姿の美少女が現れて…という展開。
この辺、最近の山本節のアクの強い文体ではなく、やたらテンポがいい。この作品の主人公は案野一騎、高校一年生。彼が「ヒメ」を匿う事になり、幼馴染の酒井田亜紀子とのトタバタが始まる。この一騎君、ありがちにヘタレで、ありがちにスケベ。ヒメのボケと一騎の突っ込みのリズムは、まさしく浅草の漫才のノリ。文章はこなれててサクサク読めるんだが、腹抱えて笑っちゃうから、なかなかページがめくれない。こういうのを読みやすいと言っていいのかどうか、悩むところ。
怪獣モノというコンセプトなだけに、当然ながら過去の名作へのオマージュもたっぷり詰まってる。中でもハッキリとわかるのが、ウルトラマン・シリーズ。物理法則を無視して巨大化するヒメの設定は、まさしくウルトラマンそのもの。姿が美少女ってのが、著者の趣味まるだしで潔い。ヒメの写真が出回る騒ぎには大笑いした。そりゃそうだ、規制できないよなあ。わはは。怪獣とのバトルは、ウルトラ・シリーズのファンなら感涙もののシーンの連続。おじさんは充分に堪能したぞ。
怪獣+本格SF+美少女という、著者の趣味丸出しの作品ながら、快調なテンポの文章と無駄に真面目な設定で上質の娯楽作に仕上がったSF長編。かつてウルトラ・シリーズに熱狂したオヂサンにも、煩悩に悩む青少年にも、そして本格SFに飢えたSF者にも楽しめる、現代日本ならではの爽快なエンターテイメント小説。
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