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2012年11月23日 (金)

大島真生「公安は誰をマークしているか」新潮新書433

 公安警察は暴力革命やテロ、ゲリラを企てる組織を壊滅させ、外国からのスパイ(工作員又は諜報員)を摘発するのが具体的な仕事である。外国のスパイなどを担当する公安警察内部の部門を、さらに細分化して外事警察ともいう。そして人員、経験、ノウハウ、あらゆる点からも公安警察最強の組織が警視庁公安部なのだ。

【どんな本?】

 著者は産経新聞に勤め、2003年~2006年まで警視庁公安部・警備部を担当した。警視庁公安部を中心とした警察の公安部隊について、その歴史・組織編成と実情・主な職務・性格・能力・実績などを解説すると共に、彼らの捜査対象である国内の過激派・右翼・ロシアや北朝鮮の工作員が起こした事件や、その特徴などを明らかにする。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年8月20日発行。ソフトカバーの新書で縦一段組み本文約218頁。9.5ポイント39字×15行×218頁=約127,530字、400字詰め原稿用紙で約319枚。小説なら長めの中篇~短めの長編の分量。ブンヤさんが書いた本らしく、文章は素直で読みやすく、また各エピソードも衝撃的な場面を冒頭に持ってくるなど、読者が楽しんで読めるように工夫している。

【構成は?】

 はじめに
序章 公安とは何か
第1章 警視庁公安部 公安総務課vs共産党
第2章 公安一課vs過激派
第3章 公安二課vs革マル
第4章 公安三課vs右翼
第5章 外事一課vsロシアスパイ
第6章 外事二課vs北朝鮮工作員
第7章 外事三課vsアルカーイダ
第8章 事件現場に臨む公安機動捜査隊
終章 公安調査庁の実力は
 おわりに
 参考文献

【感想は?】

 書名のつけ方が、巧い。というのも、本書の主人公は公安のはずだが、読み終えてみると、公安がマークしている過激派や工作員ばかりが印象に残っているからだ。

 一口に「公安」といっても、本書によれば大きく二つの組織がある。一つは法務省下の公安調査庁など、もうひとつは警察庁警備局公安課&自治体警察の公安部・公安課。本書では主に後者、つまり警察の公安を扱う。両者の職務はカブる所が多く、「公安調査庁は近年、リストラ対象として度々狙われてきた」。

 冒頭に日本の公安関係の組織図があって、実にわかりやすい。ミステリ好きな人は警察の組織に詳しいんだろうけど、素人の私にはかなりありがたかった。指揮系統については結構ぶっちゃけてて、本来なら自治体警察の指揮下にあるはずの県警公安課が、事実上は警察庁公安課の指示にしたがっている、などとアッサリ書いてある。その為か、刑事警察との「不仲は相当根深いものなのだ」。

 一般的に捜査機関は縄張り意識が強いものだけど、刑事さんと公安の不仲については、その根をGHQの時代に遡って紐解いている。

 公安警察の活動を全般的に扱う本書だが、基本的に警視庁の公安部を中心に据えている。これには著者の経歴も関係あるのだろうけれど、ちゃんとした理由があるのだ。なんたって、各国の大使館は東京に集中しているため、他国のスパイも東京を中心に活動しているのだから。

 構成を見ればわかるように、前半は過激派など国内の組織の話題を扱っている。今でも総務課は共産党を監視しているようだが、最近は「共産党情報のニーズが減ってきた」。ためか、統一協会・グリーンピース・シーシェパード・オウム真理教関係なども担当しているが、「(公安)組織を維持するために対象範囲を広げざるを得ないという内向きな事情が背景にある」。

 こういう、対象組織が衰えたため存在意義が問われているのは公安一課も同じで、「極左暴力集団は昭和44年(1969年)の約5万3500をピークに減少しており」「平成22(2010)年の全体の人数は約1万3200人」、しかも高齢化してて「縮小傾向に歯止めがかからない」。おまけに対立するグループやグループ内の内輪もめ(内ゲバ)で消耗してるんだから世話ない。

 どうでもいいが、極左の組織名って、なんで漢字が沢山続く長い名前が多いんだろ。「日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派」とか、革命が二回出てくる。

 極左の共通点のもう一つは、大学を重要な拠点としている点。革労協は明治大学・革マルは早稲田大学に巣くい、学園祭を資金源にしていたため、大学は学園祭を中止した。普通の学生さんこそいい迷惑だよなあ。

 極左は組織的なテロ・ゲリラを繰り広げるのに対し、右翼は個人の犯罪が多い模様。また、暴力団との境目があいまいで、警視庁で暴力団を取り締まる組織犯罪対策四課とカブる部分があるんだが、こっちは意外と仲良くなってる様子。だけならいいが、捜査員が極右組織の内部に浸透するため、癒着しがちな部分もあるとか。

 後半は外国関係で、こっちはモロにスパイの世界。「在日ロシア大使館員は、三分の二がSVRやGRUのスパイとされ」ってんだからお盛んだ。表向きの肩書きと実際の指揮系統は別で…

 冷戦時代、東京・晴海にあった国際貿易センターで行われたソ連見本市の会場で、ソビエト本国から来ていた係員が公使や参事官、一等書記官など在日ソ連大使館の幹部が会場を訪れても全く挨拶をしなかったにもかかわらず、大使の運転手が現れると、直立不動で挨拶したことから、この運転手が諜報機関の幹部であることがわかった

 とか、抜け目なく見えるロシア人も意外とアレだなあ。でも最大の難関は「日本ではどうしても白人は目立ってしま」う事だとか。

 対照的に目立たないのが中国。真空掃除機と言われ、多くの民間の在日中国人を介在させ、得られる情報は広範囲に全てかき集める。

 最近になって忙しくなったのが、アルカーイダなどイスラム関係。サッカーのワールドカップも狙われたが、「日本にはイスラム教徒が少なく、支援体制(インフラ)の構築が困難だったため断念した」。アメリカのCIAともタテマエ上は協力関係にあるが、「米国当局から提供される情報は一方通行で、頭ごなしのものが多い」。あの国らしいねえ。

 全般的に、極左関係は先細りだが、外国関係はアルカーイダなど仕事が増えている模様。公安の存在価値は変わらないけれど、組織形態や職務内容は大きく変わりそうな予感がする。

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