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2012年10月 7日 (日)

SFマガジン2012年11月号

「わたしはもう一度、天に向かって飛ぶ。だからといって天使なんかじゃない。ただ、意思の強い女なだけよ」
「天に飛び込むことは、天使になる条件として十分だと思うよ。少なくとも、大多数の人にとっては」
「院主は翼を信頼しすぎだわ」
「あなたは信頼しなさすぎだ。翼をつくっている本人だというのに」
  ――ジェイ・レイク「星の鎖」志村未帆訳

 280頁の標準サイズ。今月の特集は「日本SFの夏」として、インタビュウ5本(円城塔・沖方丁・月村了衛・長谷敏司・高野史緒)・夢枕獏×寺田克也トークイベント・宮内悠介の短編「ジャララバードの兵士たち」、そして沖方丁原作&大今良時絵の漫画「マルドゥック・スクランブル 手紙」など。こうして見ると、今の日本SFって、確かに元気そうだなあ。小説は他にジェイ・レイク「星の鎖」,梶尾真治の怨讐星域シリーズ「闇の起源」を収録。

 宮内悠介「ジャララバードの兵士たち」。「ヨハネスブルグの天使たち」「ロワーサイドの幽霊たち」に続く、DX9シリーズ。タリバンは崩壊したが、雑多な勢力が入り乱れ乱戦状態になった近未来のアグガニスタンが舞台。記者のルイは、案内兼護衛の米兵のザカリーと共に、パキスタン国境の部族地帯からカブールに向かっていたが…
 勝手にアフガニスタンの歴史を想像すると、ISAFがタリバンを倒したがカルザイ政権も崩壊して民族部族バトルロイヤル状態になり、辛うじて米軍が踏ん張っているが、地元の民衆から米軍は嫌われまくっている。人数的にパシュトゥンが優勢だが、タジク人やハザラ人も迫害にめげず生き残り戦い続けている。しかしDX9の使い方が酷いw

 梶尾真治「闇の起源」、今回はニューエデンが舞台。絶対権力者アンデルス・ワルゲンツィン誕生の記録。やがて来るアメリカ大統領アジソン一党を乗せた宇宙船ノアズ・アーク。地球に置き去りにされた恨みを晴らすべく、ワルゲンツィン率いる正義の人類党は防衛力強化に努める。折りしもテンゲン山中腹で、アジソンの末裔が放ったと思われる探査機が発見され…
 今までの物語が収束し、いよいよファースト?コンタクトが迫って来た感がある。幼くして父を亡くした少年時代のワルゲンツィン君は、ききわけの良い「いい子」。ニューエデンの人々の間で、地球の記憶が失われている様子を巧く表している。

 ジェイ・レイク「星の鎖」、解説を読んでもイマイチ世界観がつかめない。地球を含め天体が歯車で動いている世界。なんと異様な。もはやSFというよりファンタジーだ。<壁>の頂上をさすらう女、ザライ。かつて愛した男マニックスは、天へ向かうため歩み去った。果樹園で院主に出会ったザライは、マニックス同様に天へ向かおうとするが…
 マニックスの表記がマニックスだったりニックスだったりでややこしい。世界観がよくわからん。たぶん地球の赤道上に大きな歯車があって、天から降りてくる巨大歯車と噛み合っているんだと思うが。それでもザライの元に人々が集まってくる様子は、なかなか燃える。ファンタジーかSFか判然としないので、工学的な部分は甘いのかそーゆーモンなのか、どうも判断に苦しむ。

 円城塔インタビュウは、伊藤計劃の遺稿を引きついだ「屍者の帝国」について。確かもう書店には並んでるはず。もしかしたら今までの円城塔の作品の中では、最もわかりやすい作品なのかも。彼らしく全体の長さを計算した上で、構成から考えたとか。というか、彼の場合は「設計した」って表現の方が適してるかも。執筆速度が「自分の小説を書く場合と変わりませんでした」ってのは意外。実は器用な人なのかも。書評にも何度か黒丸尚の名前が出てきたり、やっぱり影響力が大きいんだなあ。

 沖方丁インタビュウは、「光圀伝」が中心。「容赦なく書けるようになった」ってのが怖い。今後バロットとウフコックは更に苛められるんだろうか。

 月村了衛インタビュウは、やっぱり機龍警察がテーマ。よく調べてあるなと思ってたら、「国際政治・国際軍事について得に明るいというほどではありません。執筆と並行して泥縄式に勉強する」って、それはそれで凄い。北アイルランドなんてやたらゴチャゴチャしてるのに。

 高野史緒インタビュウは「カラマーゾフの妹」をメインに。新潮のファンタジーノベル大賞について「山之内洋さんとお話していたんですが、あの章は当時、駆け込み寺みたいなものだったんです」ってのが笑った。確かに「なんでもあり」な感じがあるよね。今ならライトノベルにアレンジするか、メフィスト賞あたりかな?

 READER'S STORYはTAKEHIKO「食事の記憶」。味覚データを収集するため、頭に測定器をつけたままフルコースを味わう被験者。取ったデータは、仮想空間の食事用として使うらしいが…
 いやこのデータ欲しいわ切実に。私としてはそれほど高級なシロモノじゃなくて、某定食屋のトンカツ定食とか生姜焼き定食とか天麩羅定食とかカツカレーとか…って庶民的なモノしか浮かんでこないのが情けない。いやほら下腹部の発達が気になるし、嬉しいでしょ、こーゆーのあると。

 最後はサンディエゴ・コミック・コンベンション・インターナショナル2012レポート。会場が手狭になってきたため、大手ゲームメーカー・映画・TV業界は会場近郊のホテルの一部を借り切ってテストプレイ場や屋台を出している、とのこと。ワーナーは屋外ステージでライブもやっちゃってる。いずれコミックマーケットも、そうなるのかなあ。

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