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2012年10月 4日 (木)

サイモン・シン「フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで」新潮社 青木薫訳

xn + yn = zn
 この方程式はnが2より大きい場合には整数解をもたない。

【どんな本?】

 誰にも理解できるほどシンプルな問題であるにも関わらず、358年もの期間に渡り誰にも解けなかったパズル、フェルマーの最終定理。この定理を縦軸に、ピュタゴラスから現代に至る数学の歴史・フェルマーの定理への挑戦が生み出した様々な数学の分野・この難問に挑んだ数学者たちを描くと共に、アンドリュー・ワイルズが成し遂げた偉業の意味を解説するドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は FERMAT'S LAST THEOREM : The Story of a riddle that confounded the world's greatest minds for 358 years, by Simon Singh, 1997。日本語版は2000年1月30日発行、私が読んだのは2003年12月15日の21刷。バカ売れだなあ。今は新潮文庫から文庫版が出ている。

 単行本縦一段組みで本文約361頁+補遺20頁+訳者あとがき7頁。9ポイント43字×20行×361頁=約310,460字、400字詰め原稿用紙で約777枚。長編小説としてはちょい長め。

 文章そのものは読みやすいのだが、なにせテーマが数学だけに、多少の数式は出てくるものの、冒頭に挙げた式の意味が分かれば充分に楽しめるレベルに押さえてある。ただし、パズルに熱中しがちな人は要注意。文中に幾つか数学の問題が出てきて、これに熱中するとなかなか前に進めない。

【構成は?】

  序 ジョン・リンチ
 はじめに サイモン・シン
第Ⅰ章 「ここで終わりにしたいと思います」
第Ⅱ章 謎をかける人
第Ⅲ章 数学の恥
第Ⅳ章 抽象のなかへ
第Ⅴ章 背理法
第Ⅵ章 秘密の計算
第Ⅶ章 小さな問題点
第Ⅷ章 数学の大統一
 補遺/訳者あとがき

【感想は?】

 埃が溜まりきって詰まってたのーみその溝を、一気にシャワーで洗い流された気分。

 数学そのものの面白さもさることながら、やはり奇人・変人揃いの数学者たちの列伝が楽しい。序ぶんからして、数学者の「変さ」が伝わってくる。

数学者と話をしていて驚かされたのは、彼らの話す内容の恐ろしく正確なことだった。質問をしても即座に答えが返ってくることはなく、彼らの頭の中で答えの構造が完全にできあがるまで待たされることもしばしばだった。

 そーゆー連中を集める目的で設立されたニュートン研究所、討論を活発にするため「人と会わずに引きこもっていられるような廊下の奥の部屋は一つもなく、すべての研究室は中央の広間に面している」。エレベーターどころか「トイレにまで黒板が置かれているのだ」。

 ピュタゴラスの時代には秘密主義だった数学者、プレトマイオス一世が「偉大な書物をすべてこの地に集める」という野望に取り憑かれ図書館を作りはじめて様子が変わってくる。本を持つ旅人から原本を没収し写本を返した、というから酷いw 苦労して集めた書物も、BC47年にカエサルに焼かれ384年にキリスト教徒の皇帝テオドシウスに破壊され642年にカリフ・ウマルの命で灰となる。それでもユークリッドの原論は聖書の次に売れてるそうな。

 肝心のフェルマー、案外と性格が悪くて「人を困らせて喜ぶようなところがあった」。3世紀以上も数学者をてんてこ舞いさせたんだから、さぞや本望だろう。確率論の創立にパスカルと共に携わり、微積分も彼が発案したんだとか。ニュートンだとばかり思っていた。

 定理の証明に賞金を出したパウル・ヴォルフスケールの物語は笑える。失恋したヴォルフスケール、自殺の日取りを決め深夜零時に拳銃で頭を打ち抜く計画を立てる。当日、やりかけの仕事や遺書を書くと時間が余った。オーギュスタン・リュ・コーシーとガブリエル・ラメによる最終定理の証明のミスを指摘するエルンスト・クンマーの著作を拾い読みしはじめたらギャップを見つける。これの修復に熱中してたら夜が明けてしまった。ヴォルフスケールおじさん、謎に感謝して遺産を懸賞金にあてましたとさ。遺族は遺書を見てガックリきたっぽいけど。

 ところがこれが人騒がせ、世界各国からアレな人たちから「証明」が送られてくる。「奇妙な論理」で有名なマーティン・ガードナー曰く。

 彼の友人の一人は、自分には証明を吟味するほどの力量はないと書き添えて送り返すそうである。ただしそのときい、その分野で助けになりそうな人物の名前と住所を教えてやる――すなわち、最近証明を送りつけてきたばかりのアマチュアを紹介してやるのだ。

 わはは。
 物語は谷山=志村予想を介し、エンディングへと向かう。谷山=志村予想とは、「ある楕円方程式のE系列は、おそらくどれかの保型形式のM系列になっているのではないか」って、なんのこっちゃ。文法や表現形式が違うだけで、同じコトガラを示しているって意味かしらん。電気と磁気は相互に変換可能、みたいな?

 これの嬉しいところは、楕円方程式で難しい部分は、モジュラー形式でやればいい、という点。それぞれ独自の発達を遂げた分野が、長所短所を補い合える。ワイルズの仕事は、この予想を証明することであり、これにより楕円方程式とモジュラーが互いに利益を得られる関係になれる、ということ。

 個々の問題を解決するためそれぞれ進化した数学が、再び統合に向け一歩を踏み出した。これが、ワイルズの証明の大きな意味である、と。

 自然数・整数・分数・少数・無理数など我々が当たり前に使ってる「数」が「発見」される過程など、初期の数学の歴史もなかなかエキサイティングだし、実数が複素数に広がる所は目が覚める想いがした。試しに "iの平方根" を Google で検索すると、ちゃんと解が出る。Googleすげえ。最後に、この本に出てた面白いパズルを出して終えよう。

天秤を使って1~40kgまで1kg単位で量るためには、最低何個の分銅が必要か。

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