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2012年10月 9日 (火)

アーネスト・ヴォルクマン「戦争の科学 古代投石器からハイテク・軍事革命にいたる兵器と戦争の歴史」主婦の友社 茂木健訳 神浦元彰監修

第三次世界大戦でどのような兵器が使われるのか、わたしには予想できない。断言できるのは、第四次世界大戦が石と棍棒で闘われることだ  ――アルベルト・アインシュタイン

【どんな本?】

 古代の棍棒や石槍からチャリオットと合成弓,カタパルトと攻城機,鞍と鐙,イングランドの長弓,大砲から銃,そして原子爆弾から最新のステルス機へと兵器は進歩してきたが、その裏には政治・軍事と密着した科学者たちの献身があった。科学は人の生活を豊かにすると同時に、人殺しの技術も支える。

 兵器・戦争技術の進歩と科学の歴史を豊富なエピソードで辿り、科学のあるべき姿を問う歴史ノンフィクション。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Science Goes to War : The Search for Ultimate Weapon, from Greek Fire to StarWars, By Ernest Volkman, 2002。日本語版は2003年9月10日第1刷。単行本縦一段組みで本文約432頁+監修者解説10頁。読みやすい10ポイントの文字で40字×17行×432頁=約293,760字、400字詰め原稿用紙で約735頁。長めの長編小説の分量。

 翻訳物の軍事&科学という、お堅く小難しい話になりがちなテーマにしては、拍子抜けするほど読みやすい。科学・歴史ともに多くの前提知識も不要で、中学卒業レベルの常識があれば充分に読みこなせる。同様の傾向の本としてはウイリアム・マクニールの「戦争の世界史」,アルフレッド・W・クロスビー「飛び道具の人類史」,創元社の「戦闘技術の歴史」シリーズがあるが、とっつきやすさはこの本が一番。

【構成は?】

 イントロダクション 機械に閉じ込められた亡霊たち
第一章 いかに勇猛な戦士も、もはや無力だ!
第二章 信仰の花嫁
第三章 龍の顎
第四章 素晴らしき新世界
第五章 王たちの最後の手段
第六章 鎖を解かれたプロメテウス
第七章 魔法使いの弟子
第八章 一千個の太陽
第九章 亡びの時代
 エピローグ 微生物と雷光
  解説( 神浦元彰)/参考文献一覧

 原則として古代から現代まで素直に時系列順に並ぶ構成。地理的には地中海周辺と欧州が多いが、少しだけ中国と日本も出てくる。

【感想は?】

 「権力者は戦争のために科学に力を入れてきたし、一見、政治と無縁に思える科学者も、実はこんなに戦争に協力してきたんですよ、これでいいんですか?」として科学者の戦争責任を問う、そいうのが著者の姿勢。私はこの意見に同意しないので、そういう政治・倫理主張の部分は辟易したものの、本書の大半を占める「科学・技術の進歩と兵器・戦争の進化」を綴る部分は楽しく読めた。

 やはり紀元前1800年のチャリオットから、次々と登場しては他の兵器・戦術に破られていく兵器・戦術の数々は素直に面白い。男の子の血が騒ぐというか。

 牛車を元に改造したチャリオット、実用上は操縦手と戦士の二人乗り。両輪が独立して回転する構造なので、意外と小回りが効いた模様。戦士の武装は最大射程180mの合成弓。しかし無敵を誇るチャリオットも、鉄器と騎兵に粉砕される。紀元前1000年ごろのアッシリアは三万人の常備軍を擁していた、というから凄い。

 ギリシアは大物が好きらしく、登場するのはカタパルトと破壊槌を備えた攻城機。だが攻城機の末路は哀れ。なんと落とし穴に嵌って退場してしまう。

 科学者を積極的に軍事活用したギリシアと違い、ローマは「技術者たちを使ってその模倣をするだけだった」。密集方陣(ファランクス)で無敵を誇ったローマも、鞍と鐙を装備した蛮族に蹂躙される。機動力の差は大きいねえ。

 次に登場する新兵器は1415年、フランスvsイングランドのアジャンクールの戦いで活躍する長弓。一万五千のフランス軍を五千~千のイングランド軍が蹂躙する。12世紀のウエールズで生まれた長弓、これに苦戦したエドワード一世がイングランド軍に取り込む。その理由が笑える。「貧乏で騎士を雇えないから」。農民が狩猟に使ってたので組織化されていなかったのを、エドワードは部隊として組織、また弓術大会を開催する。ただし訓練期間は10~20年必要で、これが他国が長弓を採用する難関となる。

 その長弓兵もフランスの大砲に虐殺される。大砲に対抗するためイタリアでは築城術が発達した。ここで登場するのがレオナルド・ダ・ヴィンチ。ミラノに新兵器開発者として求職にきたが失敗、この時の名言が「自分は……ほかのあらゆる仕事と同じくらい……絵も巧みに書ける」。暫くミラノに留まった彼は幾つかの傑作絵画を残しましたとさ。就職活動に成功していたら、美術史は変わっていたのかも。

 長弓の脅威に瀕したフランスのシャルル七世は科学者を組織して研究機関を設立、以後欧州では新兵器の開発競争が始まる。香辛料を求めるポルトガルのエンリケ王子に始まる造船競争は地図学と羅針盤を生み、やがて正確な時計ウロノメーターへと発展する。ルイ14世は流れ作業による大量生産を始め、イングランドでは円錐形の砲弾とライフリングを発見する。

 兵器ばかりではない。ナポレオンの大遠征を可能にしたのは殺菌済みの携行食料、瓶詰めだった。これに対抗してイングランドは缶詰を開発する。

 もっと徹底したのがプロイセン。教育改革でベルリン大学を頂点とする科学研究ネットワークを組織し、博士号や国定教科書など現代の教育制度の基本を整備する。「ドイツの科学は世界一」の秘訣は、ここにあったのね。それを速攻で取り入れたのが日本、対馬で科学技術の重要性を鮮烈に世界にアピールする。

 科学と軍事の関係は第一次世界大戦で更に深まり、Uボート・戦車・毒ガス・船団方式を生む。無限軌道の起源が意外。

ぬかるんだ農地での仕事ができずに困っていたその農民は、鉄片をつなぎあわせて無限軌道を作り、その上に農具をセットするという素晴らしいアイデアを思いついた。

 なんと農民の智恵だったとは。
 以後、航空機・エニグマ暗号機とコンピュータ・B29とトランジスタなどが続々と登場し、ついにマンハッタン計画の原爆へと発展していく。

 少々、著者のメッセージが鼻につく部分もあるが、中心を占めるエピソードは意外なトリビアが満載。文章も読みやすく、新兵器大好きな「男の子」には興奮に満ちた一冊。

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