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2012年10月25日 (木)

八杉将司「Delivery」ハヤカワSFシリーズJコレクション

「たぶんね、ヒトの家族というのはこんな絆で繋ぎとめられた関係なのよ。グランツと一緒にここを出ない?出て、家族を増やすの。子供を作ってね。そうやって系統を伸ばして世界を大きくするのよ。わたしとアーウッドを起源(オリジン)にした世界をね」

【どんな本?】

 「夢見る猫は、宇宙に眠る」で第5回日本SF新人賞を受賞しデビューした新鋭SF作家・八杉将司による、長編SF小説。月への大量移住が始まっている未来を舞台に、寄宿舎制の予科学校で育った少年アーウィンが、激動する世界の中で、人類の命運をかけた陰謀を巡る冒険へと巻き込まれていく。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年5月25日初版発行。ソフトカバー縦二段組で本文約319頁。8.5ポイント25字×19行×2段×319頁=約303,050字、400字詰め原稿用紙で約758枚。長編小説としてはやや長め。

 文章そのものは読みやすいし、内容もアクションの連続で娯楽度は充実しているが、話が進むにしたがってSF分が濃くなり、メカやガジェットや大仕掛けがポンポン出てくる。そーゆーのが好きな人にはたまらない作品だが、苦手な人には辛いかも。

【どんな話?】

 ルームメイトのジェイドが、天に召された。五つ上で、予科学校の優等生だった。優しくて仲間からも人気があり、ぼくにも根気よく勉強を教えてくれた。置手紙がひとつ「天国で待っている」。今夜は半月。月は青く輝いている。海も雲も、緑の大地もある。ジェイドはあそこに行った。ぼくもいつかは行くだろう。

 その時、月が眩しく輝いた。

 空気が震え、地面が激しく揺れた。寄宿舎の建物が崩れてゆく。テムズ川の向うの超高層ビル群が倒れ、大地に沈んでいく。世界各地でマグニチュード7~9の大地震が起き、津波が街をさらった。この大災害は、「スーパーディザスター」と呼ばれる。

【感想は?】

 これだよ、これ。こーゆーSFが読みたかった。

 実は先の【どんな話?】、冒頭の4頁ほどしか紹介してない。お話の本体は、この次から始まるんだけど、この場面転換からして、やたら面白い。「…え?」となることうけあい。ロンドンの寄宿舎学校といえば「ええとこのお坊ちゃん」を想像するし、「天に召される」とかが少々不気味ではあるものの、なんか上品な雰囲気があるけど…

 この後、お話は荒っぽいアクションが連続する大活劇になる。きっと映像化したら映えるだろうなあ。いやもう、「これでもか」ってぐらいのサービスっぷり。近未来のSFアクションだし、無駄に火薬量の多いガン・アクションや爆発・炎上・建物倒壊シーンが続々。主人公をイケメンにすれば女性にもウケる…かなあ?アーウィンとジェイドの関係を少しいじれば、腐った人にはウケるかも。どころか、ラストの仕掛けは、腐った人こそ感激するはず。

 疑問形にしたのにはワケがあって。序盤こそ「今の世界が災厄で崩壊した世界」で、それなりに馴染みのある社会ではあるものの、次第にSF的なガジェットが氾濫してきて…

 このガジェットがまた、魅力的。ポーター欲しいよポーター。いや使用者はかな~り悲惨な状況なんだけど。とりあえずひとりに一台。ちょっと寒い日にタバコ買ってくる時とか←つまんねえ事に使うな。これの中心をなすシステムの名前がまた、古いSF者の心をくすぐるというか。こういうくすぐりが随所に仕掛けられていて、若いながらもオヂサン殺しの著者だなあ、などと思ったり。

 アクションはバトルが中心で、出てくる兵器がまたカッコよさそうで困る。現在のロボット兵器が進化したっぽい各種ウォードローンはもちろん、対ウォードローン用の火器もまた進歩してて。そういう直接的なブツはもちろん、索敵技術も進歩するし、対索敵のステルス技術もいろいろ。今は戦場の動画を中継すれば、どこに何があるかわかるけど、未来は果たして…

 ってな物騒な部分も魅力たっぷりながら、ポーターに始まる仕掛けもワクワク。もうね、これがディック的というか。つまり「自分って何だろうね」という問題が、身体感覚で伝わってきて。ポーターの運用にバリエーションが増えるにつれ、どんどんエスカレートしていく。

 終盤になると、仕掛けはどんどん大掛かりになり、表紙の風景の意味が見えてくるあたりは、「おお、なるほど」と。そもそも重力が小さい月のテラフォーミングなんてどうやるんだ、という疑問にも、ちゃんと解を出してたり。

 この辺になってくると、もう相当に鍛えたSF者でないとついていけない濃度でガジェットが満ち溢れ、スーパーディザスターの謎へと迫っていく。いやあ、ソッチへ持っていくかあ。

 人物としては、やっぱりエレクトラさんがいい。つまりはマッド・サイエンティストなんだが、どうしようもなく無責任で好奇心旺盛。ヒトとしての全ての感情を好奇心だけに集中しちゃったような困った人なんだけど、こういう人がいると物語りは俄然面白くなる。類型的といえば類型的だけど、SFにはやっぱりこういう人が出てこないと。アーウィンで実験する場面は、やっぱり笑い転げてしまった。いや酷い場面なんだけど。近所にいたら迷惑極まりないけど、物語中にいる限りはひたすら魅力的。

 などと、少々お馬鹿な雰囲気もあって、風呂敷はドンドン広がっていく。発想そのものは無茶っぽい所もあるけど、それまでの「いかにもソレっぽい」細かい武器などが功を奏してか、読んでて「フムフム、よーわからん」ってな感じに納得してしまう。いいのだ、わかんなくても、たぶん。

 広がっていくスケールと、ヒトの命。これぞSFの王道。溢れるガジェットと大風呂敷。エンタテイメントと思索を両立させた、SFらしいSFだった。

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