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2012年9月10日 (月)

仁木稔「グアルディア」ハヤカワSFシリーズJコレクション

 「過去がない俺は、空っぽだ。旨に穴が開いている。カルラはその穴を埋めてくれた。だけど、どうしても全部は……」

【どんな本?】

 期待の新鋭仁木稔のデビュー長編。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2005年版」でもベストSF2004国内編で新人ながら9位にランクイン。現代文明が滅亡した後、27世紀の中南米を舞台に、過去の文明の遺産を背景に戦乱を巻き起こす解放者たち・失った己の記憶をも求める若者と娘・二人に付き添う幼い兄妹などの群像劇と、荒廃し変容した世界の中でも迷信と差別を脱せない人間の社会を描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2004年8月31日発行。今はハヤカワ文庫JAから上下巻で文庫版が出ている。ソフトカバー縦二段組で本文約460頁。8.5ポイント25字×19行×2段×460頁=約437,000字、400字詰め原稿用紙で約1093枚。そこらの長編小説2冊分。

 普通の人には不慣れなSFガジェットが出てくる点を差し引いても、日本の小説としては難渋する方。新人のデビュー作らしく文章がやや堅い上に、馴染みのないスペイン語が頻出する。とはいえ、スペイン語がこの作品に独特の味わいを与えている上に、背景となる社会の様子を伝える重要な要素になっているので、要注意。

【どんな話?】

 22世紀の末に、暴走するウイルスで人類文明は崩壊した。時は27世紀、荒廃した北米大陸と汚染された赤道に挟まれた中米は、現在のメキシコに位置するエスパニャ・南米大陸北端の西に君臨するグラナダ・東に位置するグヤナ、そしてアンティル海の諸国からなる。

 12個の知性機械(インテリヘンシア)の一つサンティアゴの生態端末アンヘルを擁するエスパニャは、アンヘルの指導の下にレコンキスタ軍を組織してグラナダを侵略、グヤナも支配下に置くために、政軍両面から圧力をかける。

 サンティアゴの噂は庶民の間に伝説として流布していた。盲目の少女トリニとダニエルの幼い兄妹は、トリニの治癒を願いサンティアゴが降臨する地、グヤナのコンポステーラを目指し旅をしている。兄妹に出会った青年JDとその幼い娘カルラは、JDの記憶を取り戻すためもあり、二人に同行を申し出る。

 だが、JDとカルラには秘密があった。山賊に襲われながら無傷で切り抜けた両名を、レコンキスタ軍が指名手配していたのだ。二人を追うアンヘルの真意は…

【感想は?】

 浅黒いイケメン青年JDと美幼女カルラ、性別不明で怜悧な美形アンヘルと誠実に付き従う少年ホアキン。美形カップルが激突する耽美な話…かと思ったら、全然違った。

 いや話の筋は両カップルを中心として進むのだが、いずれの運命も複雑で過酷な上に、他の仕掛けも盛りだくさん。中米を舞台としていることでわかるように、世界観も独特で、全体を把握するにはけっこう骨が折れる。

 書名のグアルディアとは、庇護者の意味。自分の記憶を持たない、しかし様々なきっかけで豊富な知識を思い出し、超人的な身体能力を持つ青年JDと、彼が護る幼女カルラの関係から、「つまりJDが主人公なのね」と思いながら読むと、「あれ?」ってな感じになって…

 こういう仕掛けが随所に仕掛けられていて、前半はかなり注意して読まないと後半はワが分からなくなるので要注意。まあJDとカルラは、冒頭から「仕掛けがありますよ」と予告してるんだけど。

 デビュー作のせいか、イマイチ魅力的な要素を活かしきれてない部分もある。私が悔しいのは、伝道師ホセ・ルイス・バスコンセロスと、彼に心酔するアルフォンソ・デ・ヒホン。この二人の登場場面をもっと増やして欲しかった。

 伝道師ホセ・ルイス・バスコンセロス。狂信的でありながら善意の塊。JDやダニエルに同行する旅の途中で、彼を中心に巻き起こる騒動は、それだけで長編一つが書けるぐらい魅力的な素材。この地に残るキリスト教の残滓と、「巡礼」の旅で見聞きした流言を元に、つぎはぎだらけの教義体系を作り上げ、大きなうねりを生み出していく。

 彼に従うアルフォンソ・デ・ヒホンも、単純そうで複雑な人間。野卑な愚連隊のボスで、無頼者をまとめあげる手腕と、戦闘指揮には優れた手腕を発揮するが、基本的には残忍なヤクザ者。そのくせ、バスコンセロスには心酔してて、巡礼団の庇護に活躍する。

 そう、新興宗教の教祖と、その手足となって汚い仕事を引き受ける武闘派のボスって関係。「おお、これは面白いドラマが展開するぞ~」と思ったら…まあ、これが、この人の味なのかも。しかし勿体無い。どっかで続きを書いてくれないかなあ。

 スペイン語が頻出するのも、この人の特徴。よっぽど中南米が好きなんだなあ。好きでありながら影の部分もちゃんと見てて、スペイン語と英語の対立で巧く浮き上がらせている。デ・ヒホンに代表される野卑な荒っぽさや、ダニエルの目を通してみた彼らの姿は、実に容赦ない。苛烈な世界で幼いながら狡猾に立ち回ろうとするダニエル君の奮闘も、なかなか切ないものがある。

 「勿体無いなあ」と思う所は他にもあって、それはJDが超人的な能力を発揮する場面。全般的に抑圧的な雰囲気のこの作品の中で、彼のアクションは残酷ながら実は爽快。終盤でも「待ってました!」な場面があるんだが、思ったよりあっさり。まあ、これをあまり強調すると作品の色が変わっちゃうかもだけど、やっぱり勿体ないなあ。

 終盤の舞台になるグヤナ高地、日本ではギアナ高地(→Wikipedia)という名前で有名。あの独特の地形を、こう使うか~。

 新人ながら、壮大な構想を元に書かれた年代史の一幕。かなり暗く壮絶な話だけど、終盤の展開は驚愕の連続。時間をかけてじっくり読もう。

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