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2012年9月 8日 (土)

かのよしのり「銃の科学 知られざるファイア・アームズの秘密」ソフトバンク・クリエイティブ サイエンス・アイ新書

 また尖頭弾は、金属などの硬い目標に斜めに当たるとすべってしまいますが、平頭弾だと食い込むので、機関砲弾にも用いられます。なお、尖頭弾を水面に撃ち込むと直進せず、跳ね上がるか急沈下しますが、平頭弾は水中を直進します。そこで船を撃つ砲弾を平頭弾にすると、目標のやや手前に着弾しても砲弾が水中を直進してくれます。

【どんな本?】

 銃と砲の違いは?口径とは?自動拳銃の自動って何?銃にはどんな種類がある?それぞれどんな特徴がある?拳銃はどれぐらいの距離なら当たる?ターミネーターが一発撃つたびに銃をグルリと回す意味は?自動拳銃はなんでスライドが動くの?自動小銃の口径を小さくして何が嬉しいの?ボルトアクションって何?熊撃ちにはどれぐらいの弾丸が必要?

 自衛隊を定年退官した著者による、銃の定義・歴史・種類・機構の名前としくみと特徴・銃選びのコツなどを、豊富な写真やイラストを駆使してわかりやすく解説した、一般向けの銃の入門書。取り扱う銃も軍用の自動小銃から民生用の散弾銃までバランスよくバラエティ豊か。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年1月25日初版第1刷発行。新書版横一段組みで本文約227頁。8.5ポイント29字×24行×227頁=157,992字、400字詰め原稿用紙で約395枚。けど紙面の半分ぐらいはイラスト・写真の図版が締めており、実質的な文字数は半分程度。ただ、機構など動きのあるモノを理解するにはじっくり図を見る必要があるので、読むには頁数相応の時間が必要。

 読みやすさ、というか、入門書としての分かりやすさは抜群。一般に兵器系の本は「どんな種類があってドコが違うか」は詳しいが、「なぜ違うか、どんな長所短所があるか」はあまり詳しく説明していない。この本はその辺を充分に配慮してて、「その機構が要求された状況」「解決すべき問題」「解決方法」「その特徴・長所と短所」などを流れとして掴める形で効果的に説明している。

 書名に「科学」がつくだけあって、ごく一部に数式が出てくるが、掛け算と割り算だけなので、あまり構える必要はない。小難しい式が必要になりそうな弾丸の軌道などは、一目見て分かるグラフで説明している。

 編集・レイアウト面での配慮も行き届いていて、まずはフルカラーが嬉しい。原則的に各記事は見開きで完結し、横組み見開きの左頁に文章・右頁に写真やイラストを配する形。注も同じ頁の下に置き、頁をめくらずに参照できるのが嬉しい。実銃や弾帯の写真も豊富で、見た目の迫力を増している。イラストはCGを多用しているが、機能に振り回されていない。グラデーションなどでリアリティを出す箇所と、単色で塗りつぶし簡素化する箇所を巧妙に使い分け、綺麗で分かりやすい図に仕上げてある。

【構成は?】

 はじめに
第1章 銃とはなにか
第2章 銃の歴史
第3章 弾薬
第4章 拳銃とサブマシンガン
第5章 ライフル
第6章 機関銃
第7章 弾道
第8章 散弾銃
第9章 銃床
 参考文献/おわりに

 各章は原則として見開き2頁の短い記事が連続する形なので、気になった部分だけを拾い読みできる。章の合間に1頁のコラムがついて、最近の動向などを紹介している。

【感想は?】

 書名は「銃の科学」だけど、実質的には「よくわかる銃入門」。一般向けの銃の解説書として、面白さ・わかりやすさ・扱う範囲など、バランスもよく価格も相応なので初心者にうってつけ。軍用・民生用の双方を扱っており、狩猟やクレー射撃にも頁を割いている。銃に興味がある人に限らず、アクション映画やシューティング・ゲームが好きな人なら、役者の動作や使う銃の種類の意味が分かる楽しみも大きい。

 なんといっても、説明の仕方が秀逸。「第1章 銃とはなにか」で大雑把に銃の種類を説明し、「第2章 銃の歴史」で様々な銃の種類と、それが出現した背景事情を語る。単に種類と特徴を説明するだけだと、暗記物みたいで頭に入りにくいが、背景事情から物語風に語られるとスンナリ理解できる。

 特に「2-12 サブマシンガンの登場 拳銃弾を使うフルオート銃」の項は、この本の長所を凝縮したような記事。日清・日露戦争の遠距離射撃が中心の戦闘風景から機関銃の登場を介し、第一次世界大戦のサブマシンガンの登場まで、兵器と戦闘形態が互いに影響しあって変化し、サブマシンガンが登場した由を、頭に入りやすい「物語のあらすじ」風に、かつ短く端的に説明してある。

 堅苦しいお勉強な雰囲気になりがちな入門書だが、この著者は所々で著者本人のキャラを披露して人間味を感じさせ、適度な眠気覚ましの効果を発揮している。自分で組み上げた実包が暴発した経験を「小さな破片がいくつか筆者の顔や肩に食い込んでいました」などとサラリと書いてるあたり、なんとも剛毅。所々に政治的な主張が顔を出したり、自著の宣伝をしたりしているが、これをウザいと取るかお茶目と取るかは評価が分かれるかも。

 「科学」としての面白さもてんこもり。例えば爆轟と爆燃の違い。一般に銃の火薬は爆燃、爆弾は爆轟。反応速度は爆轟が桁違いに速く、秒速数千mの衝撃波が連鎖反応を起こす。TNTやダイナマイトがこれで、火をつけても実は燃えるだけ。

 燃焼速度は興味深い話が多くて、口径というか弾丸の重さと火薬の種類も密接な関係がある。量と種類が同じ火薬なら弾丸が重いほど弾丸はゆっくり動き、銃腔内にある時間も長い。だから重い弾丸はゆっくり反応する火薬を使う。

 逆に弾丸が軽いなら速く反応する火薬にする。小さくても速く飛ばせば威力はあまり減らない。弾丸は重力で落ちるんで、遅く飛ぶと落ち方も大きいく、速く飛べば落ち方は小さい。自動小銃の口径が7.62mmから5.56mmに変わった理由はこの辺にもあって、距離を見誤った時の誤差が少なくて済むって利点もある。

 イラストが大きい効果を発揮してる記事も沢山あって、仕組みの解説イラストは全般によく考えられてる。自動拳銃・サブマシンガン・自動小銃、それぞれ全く違うのね。しかしサブマシンガンの単純さには感服。ジャム防ぐのは難しいだろうなあ。

 拳銃弾を使うサブマシンガンと比べ、小銃弾を使う機関銃は重くないと反動で銃が暴れて狙いが決まらない。軽機関銃(分隊支援火器、主に5.56mm弾)は10kg~15kgで想定の射程は300mぐらい。7.62mmは中隊機関銃として射程1000m~2000mを担当、12.7mmのは装甲車とかを撃ち抜くのに使う。銃身は200発~300発撃つと焼けて曲がるんで、予備銃身を持ち歩く。

 構造では弾丸の種類もイラストが秀逸。タングステン合金の芯が入ってる徹甲弾丸とお尻に曳光剤が入ってる曳光弾が一目でわかって嬉しい。凝りすぎの炸裂焼夷弾には笑った。さすが職人の国ドイツ。

 著者は趣味で狩猟もやるらしく、末尾近くは民生用の銃の話が多くなる。「初心者が最初に買うならスライドアクション銃をおすすめします」なんてあたり、本当に銃が好きなんだなあ、などと感じてしまう。

 「ターミネーターが一発撃つごとに銃を折ってグルッと回してたの、あれ多分レバーアクションだろうなあ」とか「地球防衛軍のライサンダーはきっとボルトアクション」とか、映画やゲームでの火器やアクションの楽しみが増すのも嬉しいところ。

 同じ傾向の本としてはNRAの「銃の基礎知識」があるけど、敷居の低さ・面白さ・分かりやすさ・扱う範囲,そしてお値段など、あらゆる面で「銃の科学」の方が優れている。初心者には格好のお勧め。

 最後に恥を告白しておこう。私は今までサブマシンガンと軽機関銃を混同してた。ああ恥ずかしい。

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コメント

かのよしのり氏に尋ねてみてください。ライフル銃身の交換時期はいつですか?多分3000発ぐらいと答えるはずです。これは誤りです。
狩猟で命中率を上げるには?聞いてください。
答えは次の機会にします。

投稿: 道東放浪子 | 2013年6月13日 (木) 17時03分

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