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2012年8月30日 (木)

SFマガジン2012年10月号

「何年も昔のある日のことだ。ひとりの男が通りかかり、海の音のひびくなか、日のあたらない冷たい岸に立ってこういった。“われわれには、海のむこうによびかける声が必要だ。船に警告を与える声が。おれがその声をつくろう。あらゆる時と、これまであった霧を、一つにこりかためたような声を……”」  ――レイ・ブラッドベリ「霧笛」

 280頁の標準サイズ。今月はブラッドベリ追悼特集。まずは彼の作品5編、中村融訳のエッセイ「連れて帰ってくれ」・中村融訳「生まれ変わり」・中村融訳「ペーター・カニヌス」・伊藤典夫訳「霧笛」・宮脇孝雄訳「歌おう、感電するほどの喜びを!」。オマージュの短編が二つ、井上雅彦「祝杯を前にして」・新城カズマ「Hey! Ever Read A Bradbury? ―― a tribute prose」。追悼文は巽孝之,新井素子,梶尾真治,瀬名秀明,ニール・ゲイマン,ブルース・スターリング,グレッグ・ベア,ウィリアム・F・ノーラン。加えて主要邦訳作品や年譜など。

 「生まれ変わり」は、生き返ってしまった死体の物語。地下の棺桶の中で生き返ってしまった男は、ゆっくりと爪で掘り返し、地上へと出て、星空を見る。やるべき事があるような気がして、墓地を出て町へと歩き出し…
 一人称として「きみ」を使う手法は誰が始めたのか知らないけど、ブラッドベリの使い方は独特だなあ。

 「ペーター・カニヌス」は賢い犬の話。その病院には、火曜と木曜にリオーダン神父が巡回に来る。お供の犬を連れて。患者たちは、赤いバンダナを巻いたその犬が大好きで…
 「病院に犬って衛生的にどうなのよ」などと野暮言っちゃいけません。時として人より犬の方が役立つこともあるし。

 井上雅彦「祝杯を前にして」。小説仕立ての思い出話。アレをこういう風に仕上げる発想が面白い。やっぱり妄想と現実が混ざり合うのがブラッドベリの味だよね。

 新城カズマ「Hey! Ever Read A Bradbury? ―― a tribute prose」。失礼ながら冒頭から笑ってしまった。本当に死んだってのが、暫くは信じられないんだよね。霧のように消えていくんなら、少し納得できるんだけど。「――で、きみは彼の作品を、どれだけ読んでる?」私は初期の作品しか読んでないです、はい。

 「霧笛」は、人里離れた灯台で夜を過ごす二人の男の話。昔から灯台に勤めているマグダンは、海で起こる不思議な出来事をよく知っていた。ジョニーに向かい、とっておきの話を始める。「毎年、いまごろになると――何かがこの灯台をたずねてくる」。
 思いっきり有名な短編。どう見てもキワモノなシロモノを登場させながら、読了感はひたすら切ない。腐った目で読むと、マグダンの最後の台詞が更に切ない。いや薦めませんが。

 「歌おう、感電するほどの喜びを!」。母親が亡くなり、その家族は四人になった。父さんと三人の子供、ぼくとクララとティモシー。クララ叔母さんがぼくたちを引き取るって言ってるけど、ぼくたちは家族一緒がいい。今まで来たメイドや家庭教師や子守りはみんなハズレ。そこで父さんが考えたのが…
 ツンデレ幼女のクララちゃんが可愛い。この時代にそういう属性を作り出すとは、ブラッドベリ侮れない←違います。

 第43回星雲賞受賞者コメントでは、小林泰三に期待。「天獄と地国」はシリーズ化の構想もあるとか。

 新刊紹介は NONFICTION の「フランス流SF入門」、マンガやアニメの隆盛に比べて活字SFが苦戦しているのも世界共通」というけど、日本のライトノベルはどういう扱いなんだろ。SFとライトノベル、双方の属性を兼ね備えた作品も多いわけで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「我々はもっと一馬力を大事にすべきだった」、今回は馬の話。なんだけど、チンギス・ハーンの軍装を再現するネタがニワカ軍ヲタとして興味深々。馬の皮を編んだ鎧で、強度のわりに軽くて俊敏な動作も可能。馬の乗り方も腰を下ろさず、走る馬上から矢を射れる。モンゴル軍の快進撃の原因の一端が、これだそうだ。

 山本弘「輝きの七日間」ついに完結。正直言ってかなり不満…と思ってたら、編集後記で「加筆の上、単行本にて刊行予定」とあるので、今は控えよう。とまれ、イベントを七日間という短い期間に抑えたのは巧い仕掛け。いや人って明確な締め切りがないとズルズルいっちゃうし、今できる事を今すぐ取り掛かるには丁度いい期間だと思う。

 籘真千歳「蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス(後編)」。いよいよ迫る桜麗祭に向け、雪柳と揚羽のチェイスも激しさを増す。優れた統率力と冷徹な頭脳で追い詰める雪柳に対し、揚羽はなすすべなく連行され…
 いきなり扉のイラストで爆笑。いいなあ雪柳。今後もレギュラーで活躍して欲しいなあ。オチは…すんません、第一話と第二話を読んでないんで、立ち位置がわかんないっす。まあJAで「スワロウテイル序章/人工処女受胎」が出るというから、その際に読もう。

 丸屋九兵衛「逆襲のスタトレコロジー」、今回はなんとラリイ・ニーヴン脚本のスタトレ・アニメの話。あの世界にクジン人やステイシス・ボックスを投げ込むという無茶をやらかしてる。すんげえカオス。

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