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2012年8月17日 (金)

月村了衛「機龍警察 自爆条項」早川書房

[ライザには自由が必要なのよ]

【どんな本?】

 アニメの脚本などで活躍した著者による、近未来を舞台とした警察SF長編「機龍警察」の第二弾。ハインラインの「宇宙の戦士」のパワードスーツを思わせる「龍機兵」を用いてテロリストに対抗する、警察のはみだし者部隊警視庁特捜部の活躍と、警察内部の軋轢、そして龍機兵に乗り込む「傭兵」たちの葛藤を描く。

 SFマガジン編集部編「このSFが読みたい!2012年版」でもベストSF2011国内編で11位に食い込む健闘を見せた。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年9月25日初版発行。今はハヤカワ文庫JAから上下巻で文庫本が出ている。単行本縦一段組みで本文約455頁。9ポイント45字×22行×455頁=450,450字、400字詰め原稿用紙で約1127枚。

 「警察小説」という内容のため、娯楽小説として読むにはやや硬い文章。まあ、そうでないと雰囲気出ないしねえ。SF的な仕掛けはあるものの、メカっぽいのが苦手ならその辺は読み飛ばしてもいい。それより、北アイルランド紛争の概要を掴んでおこう。基本構造はプロテスタントのイングランド vs カトリックのアイリッシュなんだけど、かなり込み入ってる。また、銃器について詳しいと、より細かい所が楽しめる。

 また、続き物なので、前作の「機龍警察」は読んでおこう。この物語の世界設定や、特捜部の面々の人物像がわかる。

【どんな話?】

 通報を受けた鶴見署は横浜港大黒埠頭の小型貨物船の荷降ろしを調べようとしたが、突然被疑者の白人少年が短機関銃を乱射、刑事四人や荷役責任者を殺害後、船に乗り込み船長や船員も虐殺し、自殺する。捜査で発見されたのは二体の軍用有人兵器、機甲兵装だった。

 警視庁特捜部は強引に捜査に割り込み、捜査線上にアイルランド人の関与が浮かぶ。おりしも極秘でイギリスの高官ウイリアム・サザートンの来日が決定、アイルランドのテロ組織IRFがサザートンの暗殺を狙う疑いが濃くなった。IRFの有力メンバーで<詩人>ことキリアン・クインが現在姿をくらましており、特捜部は色めきたつが、外務省や公安は特捜の排除を目論み…

【感想は?】

 鬱々とした組織内の葛藤を描く警察小説としての側面と、ド派手なアクションが爽快なロボット物を合体させたこのシリーズ、前作では龍機兵の三人の搭乗者中、元傭兵の姿俊之にスポットがあたった。今回の主役は純白のバンシーに乗り込む無表情な美女ライザ・ラードナーが主役。

 とはいうものの、この作者、とことん登場人物を苛めまくるドSだ。ライザちゃんに用意された運命も過酷なんてもんじゃない。長く混乱を続け和平と闘争を行き来するアイルランド紛争の、溜まりに溜まった澱を凝縮したかのような彼女の一家の運命ときたら。ライザちゃんのファンは覚悟して読もう。

 このシリーズのもう一つのテーマは、疎外。分かりやすいのが特捜部の立場。基本的に順送りで成立する日本の警察組織の中で、外交官出身の沖津が立ち上げた特捜部。その成立の異様さから、警察内部からは異端視され、なにかと「いじめ」にあう。これのワリを食ってるのが、どう見てもまっとうな刑事の夏川警部補と由紀谷警部補の捜査班の両主任。今まで本道を歩いてきたのに、沖津にスカウトされたばっかりに同期や先輩から徹底してハブられる。ああ、悲惨。

 その特捜部の中でも、やっぱり疎外はある。日本の警官としての自負を持つ捜査班に対し、龍機兵に乗る三人は正体の知れない「傭兵」だ。実際に傭兵として世界の戦場で戦ってきた姿と、元テロリストのライザはもちろん、もともとロシアの刑事だったユーリ・オズノフすら、捜査班は「外様」扱いで接する。最初から覚悟ができてる姿、何事にも無感情なライザに対し、「警官であること」に未練たっぷりのユーリが切ない。

 やはり疎外を感じさせるのが、ライザちゃんの生い立ち。支配者として振舞うプロテスタントに疎外されるカトリック、そのカトリックの中でも七面倒くさい事情があって…。二重三重に疎外されるライザちゃんに涙すべし。

 こういう物語は、悪役がキモ。今回の悪役、キリアン・クインは冷酷で底の見えない頭脳派。<詩人>というコードネームに相応しく、意味ありげな言動で人を惹きつけ、無慈悲・無差別な殺戮を繰り返す。彼と沖津の息詰まる読み合いは、中盤以降の緊張感をビンビンに盛り上げる。

 などという鬱陶しい展開の憂さを晴らすのが、龍機兵と機甲兵装のバトル・シーン。姿俊之はダーク・カーキの都市迷彩フィアボルグ、漆黒のバーゲストを駆るユーリ・ミハイロヴィッチ・オズノフ、そして純白のバンシー。今回披露されるバンシーの「一号装備」に注目。発想が凄い。つか、よく開発したな、こんなの。

 前回活躍したフィアボルグ、今回主役を務めたバンシーに比べ、今ひとつ冴えないバーゲスト。次回は何か見せ場があるんだろうか。戦術巧者のフィアボルグ、火力のバンシーに対し、バーゲストの持ち味は速さ?

 全般的にどシリアスな色調のこの作品だが、終盤の展開は仰天もの。ひとつ間違えばおバカになりかねない仕掛けを、徹底して真面目に描いてる。ってんで気がついたんだが、この作品、読みようによっては、戦隊物の定番ガジェットを擁護する論文なんじゃなかろか。

 いやアレ、ヒネた青少年は色々とケチつけるでしょ。曰く無意味だ、むしろ邪魔だ、必然性がない…。けど、これ読めば、彼らがアレをわざわざ取り付ける意味が否応なしに分かるのですね。

 ということで、陰鬱でシリアスなトーンが漂う作品であるいながら、案外とその真意は「おバカな設定を大真面目に考察する」とゆー、回復不能なSF者が悶絶して喜ぶ危険な作品だったりする。特撮物が好きな人は頑張って読もう。「我が意を得たり!」とガッツポーズを決めたくなる。

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