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2012年8月15日 (水)

ジェリイ・デニス「カエルや魚が降ってくる!気象と自然の博物誌」新潮社 鶴岡雄二訳

…子どもたちが大きくなって、「なぜ空は青いの?」「鳥の群はどうしていっせいに向きを変えられるの?」「どうしてアオカケスはワタリツグミみたいに渡りをしないの?」「雪の結晶はひとつひとつ形がちがうってホント?」といった、するどい質問をするようになって、わたしたちはひどくお粗末な知識しかもっていないのを思い知らされました。
(略)
 この本は、子どもたちと、子どもっぽく思われることをおそれない大人たちの疑問に答えようとしたものです。

【どんな本?】

 なぜ雲ができるのか。飛行機が雷に打たれたらどうなるのか。なぜ夜の虫は街灯に集まるのか。最も長い渡りをする鳥は。鳥がV字編隊する理由は。星のまたたきで天気が予想できる?日常生活で経験する身近な気候の現象、それを人はどう解釈してきたか、その中で生きる植物や動物の生態から驚異的な能力までを解説する、典型的な「面白くててためになる理科の本」。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は It's Raining Frogs and Fishes, 1992, by Jerry Dennis。日本語訳は1997年10月30日発行。ハードカバー縦一段組みで約391頁、うち本文約367頁。9.5ポイント43字×20行×367頁=315,620字、400字詰め原稿用紙で約790字。長編小説なら長め。

 翻訳物の科学解説書としては文章はこなれている部類。内容的には科学というより理科に近く、特に難しい前提知識は要らない。中学卒業レベルで充分、どころか理科が得意で「寒冷前線」の意味を知っていれば、小学校高学年でも読みこなせるだろう…たまに難しい漢字が出てくるけど。ただ、米国人の読者を想定しているため、出てくる動物や昆虫が北米大陸の種が中心なのが少し残念。

【構成は?】

 謝辞/はじめに
春のはじめに/風よ、吹け/空気の球/雨降り、どしゃ降り/虹――四月の驟雨のあとで/カエルは降るは、魚は降るはの大騒ぎ/硬い雨――雹/自然の驚異――トルネード/空中セックス
夏のはじめに/炎熱にあぶられて/流れ星/蝕――太陽と月の消滅/雲をつかむような/雷鳴あるところ稲妻あり/自然の猛威――熱帯性低気圧/日の出、日の入り/聖ならざる幻影――蜃気楼などの光学現象/夜の虫/イオリア帯――空中の生息域/鳥と昆虫の天気予報
秋のはじめに/紅葉の上空で――渡り鳥/渡りをする昆虫/鳥の飛行/昆虫の飛行/哺乳類、魚類、その他の飛べる動物/オーロラの夜/月の輝く夜に/あいまいな「程度」の問題――霧、スモッグ、靄、露
冬のはじめに/寒さ/身の毛もよだつ尾をもつ星――彗星/宇宙のガラクタ/氷の花――霜/自然のバロック結晶――雪の結晶/自然の猛威――ブリザード/タフな鳥たち
 訳者あとがき/索引

 全体を季節ごとにわけ、また各章は(ほぼ)独立した短いコラムで構成しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

【感想は?】

 理科のおさらい。空はなぜ青く、夕焼けはなぜ赤いか。なぜ風が吹くのか。そういった基本的な疑問に加え、「虹のふもとには黄金の壺がある」など世界中の伝説を教えてくれるのも嬉しい。

 例えばトンボ。秋津島なんていうくらいだから、日本人にとってトンボは愛すべき昆虫。実際、害虫を食べるから益虫だし。でも嫌う地域もあって、「イギリスのワイト島の伝説では、トンボは、よい子を魚のたくさん釣れ場所につれていき、悪い子を針で刺すといわれています」。酷い。

 おさらいで「え?」と思ったのが、地平線に近い月が大きく見える理由。私は「地上に対比物があるから」だと思っていたんだが、これは古いそうな。「最近では、理由は明らかではありませんが、人間の視覚は、水平に見るときのほうが、垂直に見上げるときより、対象物を大きく感じてしまう傾向があるとしている研究者たちもいます」。つまり、よくわかってない。

 同様に知らなかったのが、大気の対流圏の高さが緯度によって違うこと。「赤道付近では約一万六千メートル、中緯度では約一万一千メートル、極地では約八千メートル」。

 雨粒の形も意外で、「じっさいの雨つぶは、よく絵に描かれているような涙滴型ではなく、天辺と底が平たく押しつぶされた、小さなハンバーガーバンズのようなかっこうをしています」。雨が降る前に、雨の匂いを感じることがあるけど、実はあれ、水の匂いじゃなくて。

じつは植物が発したオイルが土壌に吸収されて、土の匂いとまじりあったものなのです。(略)湿った空気は乾燥した空気よりも匂いをよく伝えるので、わたしたちもふだんより敏感になって、地球の麝香のような香りに陶然となりやすくなるわけです。

 書名の「カエルや魚が降ってくる!」、この現象の凄いのは凍ったカエルが降ってきた、という話。「アイオワ州デュビュークでは、1882年6月16日、二匹のカエルが生きたまま雹に閉じ込められて降った(氷が溶けると、カエルは跳んで逃げたといいます)」。きっとチルノが遊んでたんだな。

 この季節は裸族も多いかと思うけど、ピッタリした服はよくないとか。汗が蒸発する際に皮膚や血管から熱を奪うから涼しいんで、ぴったりした服は濡れた皮膚に空気が届かないから冷却効果がなくなっちゃう。「砂漠の民が何千年にもわたって、引きずるようなだぶだぶの服を着てきたのは、肌にじかに空気の流れをあてるためなのです」。

 「月がとっても青いから」なんて唄もあるけど、あれは火山灰の効果かも。「火山灰によって月光が屈折されると、ときには月が青みがかって見えることもあります」。火山が噴火した後は女性をデートに誘おう。

 「南極点のピアピア動画」じゃ蜘蛛に過酷な使命を命じてたけど、あながち無茶でもなさそう。「エヴェレストの山腹、海抜6700メートルという高さの氷原にも、ハエトリグモがいます」。何を食ってるのかというと、「無数のハ、アブラムシ、蝶、蛾、甲虫、アリ、ブヨ、ユスリカ、ダニ――どれも標高の高いところに土着のものではありません――が、上昇気流にさらわれて山頂まで運ばれ、氷雪の上に投げ出されていくことがわかったのです」。成層圏で蜘蛛が目撃された記録もあるってんだから凄い。糸を吐いて風に乗っていくんだそうな。

 けど長距離飛行のチャンピオンはキョクアジサシ。「毎年春と秋に、文字どおり地球の反対を目指して出発し、北極と南極を行き来します」。遠回りなルートなんで、「毎年、合計四万キロの世界一周の旅をしていることになるわけです」。んじゃ航法はどうやってるのか、というと、地球の磁気。確かめ方が酷い。

(伝書)ハトの首に小さな磁石をつけて放しました。予想どおり、この磁石が体内磁石を狂わせたために、伝書鳩はたちまち方向感覚を失ってしまったのです。

 飛ぶのは鳥だけじゃない。昆虫はもちろん、ムササビも飛ぶ。怖いのは蛇。

マレー半島のパラダイス・トゥリー・スネイクや、南東アジアのゴールデン・トゥリー・スネイク(略)体長90センチから1.5メートルほどのこの樹上の住民は、腹部をへこませて、わき腹の鱗を広げ、体を平らにして、木のてっぺんから地面へと滑空する能力を発達させてきました。

 ツチノコの正体は、もしかして?
 最後に、うらやまけしからん風習を紹介しておわりにしよう。昔から朝露は何か特別な効力があると思われていたが、この風習は世界に広げて欲しかった。

 古き良き時代のイギリスの五月祭では、ときに、うら若い乙女が、朝まだきの露の上を裸になって転がり、よりいっそう美しくなろうと努力したという話です。

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