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2012年8月22日 (水)

ティム・ワイナー「CIA秘録 その誕生から今日まで 上・下」文藝春秋 藤田博司・山田侑平・佐藤信行訳 2

「われわれはホメイニが何者かも、その運動に寄せられた支持もわからなかった」
  ――イラン人質事件当事のCIA長官スタンズフィールド・ターナー提督

「このイラン人たちには、CIAがそもそもこんな重要なところに、土地の文化と言葉にこれほど無知な者を送り込んでくるとは重いもよらなかったのだ。あまりに思いもよらなかったから、数週間後、とうとう本当の事実を知ったときには、自分が傷ついたように腹をたてた。イラン人たちにとっては、CIAが自分たちの国に、経験のない職員を配置するなどということを認めるだけでも難しすぎた。しかしこの局員たちが自分たちの国の言葉も話せないし、その習慣、文化、歴史も知らないというのは侮辱を超えていた」
  ――同事件で人質になったCIA職員ウィリアム・J・ドーアティ、テヘランは彼の最初の任地

 ティム・ワイナー「CIA秘録 その誕生から今日まで 上・下」文藝春秋 藤田博司・山田侑平・佐藤信行訳 1」に続く。

 ハリー・トルーマンによりOSSの後継として設立されたCIA。当時は第二次世界大戦が終わり、冷戦が始まろうとする時代。共産主義の脅威に怯える米国の世相を反映してか、トルーマンが求める「新聞」ではなく、工作に傾いてゆく。

 手始めは1947年12月14日イタリア総選挙で共産党を与党にしない事。イタリア系アメリカ人の富裕層をパイプとして、キリスト教民主党に数百万ドルを供与。共産主義者を排除した政権の樹立に成功する。その後もキリスト教民主党との関係が続くばかりか、同様の買収の構図が「イタリアやその他の多くの国で繰り返されるようになり、その後25年間もの間、続くしきたりとなった」。

 同じ例が日本。太平洋戦争で「戦略金属からアヘンまで」を外務省・陸軍省・海軍省・特別高等警察などに売りさばき財をなした児玉誉士夫は、彼の会社を隠れ蓑に朝鮮戦争でもCIAとの取引で大儲けする。日本軍の貯蔵庫からタングステンをアメリカに密輸出したのだ。

 だが、本格的な工作は岸信介と賀屋興宣を通した自民党との関係だ。岸を通してCIAは自民党の主要議員に金を渡し、「この資金は少なくとも15年間に渡り」自民党に渡る。そして「ダレスは賀屋を自分の工作員とみなしていた」。国務省とCIAが認めた1958年から1968年の秘密計画は4つ。目的はイタリア同様、左翼の影響を排除すること。

  1. 少数の重要な親米保守政治家に対しCIAが資金と選挙に関するアドバイスを提供する。
  2. 穏健派の左翼勢力を野党勢力から切り離すこと。
  3. 日本社会の重要な要素に働きかけて極左の影響を拒絶させる。宣伝と社会行動にほぼ等分する。
  4. 不明。著者は岸の支援と推測している。

 これは巧くいったが、東側への侵入工作は軒並み失敗する。原爆の開発も、フルシチョフのスターリン批判も、キューバへのミサイル搬入も、ベルリンの壁崩壊もCIAは予想できなかった。二重スパイに侵入されていたのだ。新しい所では1985年4月からソ連に情報を売っていたCIAソ連部のオルドリッチ・ヘンリー・エイムズがいる。

 なんてミスは可愛い方で、身の毛がよだつのはケネディ政権時代。彼はFBIのJ・エドガー・フーバーとCIAのアレン・ダレスを再任するが、その理由は両者がケネディ家の秘密を掴んでいたため、としている。CIAを担当したのは弟のロバート・ケネディ。「アイク(アイゼンハワー)が八年の在任期間中に行ったCIAの主要な秘密工作は170だった。ケネディ兄弟は三年足らずで163に上る」。そしてビッグス湾事件(→Wikipedia)を通してキューバ危機(→Wikipedia)へと向かう。このキューバ危機のケネディ政権の対応はドタバタ・ギャグとしか思えない。

ケネディ「なんの利益があるのか。まるで、われわれが突然、相当な数のMRBMをトルコに配置しはじめたかのようではないか。めちゃくちゃに危険なことだ」
テッド・バンディ「でも大統領、実はわれわれはそれをやったのですが……」

 そのケネディは暗殺されるのだが、それについても本書は重大な示唆をしている。何度もカストロの暗殺を試みたケネディへの反撃の可能性がある、と。

 ベトナムの泥沼は「ベスト・アンド・ブライテスト」に詳しい。ホワイトハウスは楽観的な見積もりを望み、軍もホワイトハウスに迎合して虚偽の報告を流す。CIAも軍と同調した、とある。同様の構図はニクソン政権でも続く。チリではアウグスト・ピノチェト(→Wikipedia)を支援してサルバドル・アジェンデ(→Wikipedia)政権を倒す。

 独裁政権を支援して大金をばら撒き、失敗した工作は大統領にも隠す、などと暗澹たる気分になる事ばかりが書かれているが、唯一ホッとできるのがカーター政権。暴力的な工作を控え…

CIAに命じて書籍を出版させ、ポーランドやチェコスロバキアでの雑誌や新聞の印刷、配布に助成金を出した。ソ連反体制派の著作を配布し、ウクライナ人やソ連のその他の少数民族の政治活動を支援した。自由な精神をもった人々の手にファックス装置やテープカセットが鉄のカーテンを超えて行き渡るようにした。

 それでもソ連のアフガニスタン侵攻には、対抗勢力への武器援助を承認するんだけど。CIAの主な取引相手はグルブディン・ヘクマティアル。パシュトゥンの軍閥で、タリバンと組み北部同盟に対抗した男。

 日米自動車交渉を仕切った橋本龍太郎、でもこっちの動きはアメリカに筒抜けだった。

 日本政府内で盗聴の恐れがない電話はほとんど外務省に管理されていた。しかし通産省の当局者は、これらの電話の使用を避けた。一つには、同僚の外交官に盗聴させないためだった。もう一つの理由は、橋本龍太郎にとって、当時首相の座を狙うもっとも強力なライバルが外相(河野洋平)だったことである!

 ちなみに後藤田正晴はCIAとの関係を公言している。まあ警察官僚だしなあ。

 冒頭の引用にあるように、CIAの弱点の一つは他国の文化や歴史、そして言語を知らないこと。これは本書で何度も繰り返される。冒頭の引用でもう一つわかるのが、イラン人の自己評価。今でも大帝国だと思ってる。両者の認識の齟齬が、今の両国関係やイランの外交に影響している。

 他にもハサン・サラメとCIAがつるんでたり、ベオグラードの中国大使館誤爆事件の原因をバラしてたり、衝撃的な内容が一杯。また、米国の各大統領の姿勢がわかるのもいい。意外と陰険なケネディ、清教徒的なカーター、経済重視のクリントン、イケイケのレーガン。続編は出るんだろうか。

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