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2012年8月11日 (土)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 新大陸編 3」電撃文庫

「ソックス一トンの価値は……」
「金塊一トンの価値に勝る」

【どんな本?】

 2000年9月、SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズとして始まったシリーズ。ゲーム本体は(当時としては)卓越した自由度・野心的なシステム・アクの強い世界観と登場人物が好評を博し、星雲賞に輝いた。なお、現在では PSP 用にアーカイブで復活している。

 ノベライズのシリーズも2001年12月発行の短編集「5121小隊の日常」から始まり、ゲームに準じた内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了。以後、榊涼介オリジナルの内容で「山口防衛戦」よりシリーズは再開し、現在まで続いている。この巻で通算33巻目。

 この巻は久しぶりの特別短編「ソックスハンター列伝 ソックスギャルソーンの積と罰」を収録。ひゃっほーい。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2012年8月10日初版発行。文庫本縦一段組で本文約262頁。8ポイント42字×18行×262頁=198,072字、400字詰め原稿用紙で約496枚。標準的な長編小説の分量。安定して健筆だなあ。

 ライトノベルだけあって文章は読みやすい。ただし、元のゲームの世界設定が独特で複雑である上に、小説も長いシリーズのため、登場人物が多く背景事情が込み入っている。この巻から読み始めても、まず意味不明だろう。

 できればシリーズ開始の「5121小隊の日常」または時系列的に最初期になる「episode ONE」から読み始めるのが理想だが、「そんなに根気が持ちそうにない」という人は、「新大陸編1」から読み始めてもいいだろう。舞台が大きく変わり登場人物が整理されたので混乱が少ない上に、一応「前史」として「これまでのあらすじ」を冒頭に収録し、また、主要登場人物の一覧を口絵で紹介している。

【どんな話?】

 カナダのセントローレンス湾に上陸した幻獣は東海岸を大挙して南下、米軍はマジノ線を模して構築したボストン防衛線で幻獣をかろうじて食い止めたが、幻獣の勢いは衰えず、国民を欺く楽観的な報道とは裏腹にボストンも危機に瀕していた。

 米国に派遣され、フォレストウッド空軍基地に軟禁された5121小隊だが、大原首相の後押しもあり、行動の自由を得て海兵隊と共にレイクサイドヒルの救援へと向かう。既に同じ作戦に向かい挫折した陸軍の残兵を吸収しつつ、フェルナンデス中佐の指揮する海兵隊と戦闘を通じて連携を深めていくが、レイクサイドヒルに近づくに従い幻獣の攻撃は激しさを増し、救援軍は疲労と消耗を深めていく。

 幻獣の王族ハニエルは、軍産複合体を擁するマーメイド・グループを簒奪し国防長官アーロン・バーナードを抱きこみ、米国の政治・経済界に浸透を図る。バーナードは空襲の誤爆を装ってまで5121小隊つぶしを画策するが、フェルナンデスの副官デイヴィッド・プラッター大尉のコネクションにより謀略は暴露の危機を迎える。

 レイクサイドヒルで警部ケヴィン・マクベインと協力し市民の避難を支援していた浅井遊馬は、避難所へ合流するが、閉鎖された環境でストレスを溜めた市民により、避難所は次第に険悪な空気が漂い始め…

【感想は?】

 前巻では閉塞された空軍基地から脱出、九州撤退戦から5121小隊のお家芸となった救出作戦へと向かい、それなりに爽快な場面があったものの、この巻は全般を通して「溜め」のステージ。レイクサイドヒル・5121小隊+海兵隊・ボストン防衛線と、いずれもギリギリと締め上げられる緊張感に支配されている。

 整備班主催の悪ふざけで感情の交流はあったものの、近づけばそれなりに衝突が増えるのが人間関係。連戦の疲れも相まって、事務的に接していた時には表に現さない不満も口に出すようになる。一見、雰囲気が悪化しているように思えるけど、実は少しづつ本音で話せる関係になりつつある、と見るがどうなんだろ。ゴキブリもとい多脚戦車M11の弱点も意外。幻獣は物量作戦だしねえ。

 同じ対立の解消でも「下品の王様小隊」は彼らの流儀。苦労するねえ、トラちゃん。こっちじゃ唯一英語が話せる能見が大忙し。拾っといてよかったね。

 海兵隊ではフェルナンデスとプラッターの会話が意味深。海兵隊で佐官と言うと、民間企業だと部長クラスにあたるのかな?組織の中で、その辺になって見えてくる事情を、「これが現実」と受け入れつつ、それでも最善の結果を求めて判断を下すフェルナンデスの器の大きさも相当なもの。前巻に続き、この巻も映画ネタがチラリ。「胃を押さえ」とあるけど、フェルナンデス、実は結構楽しんでないか?

 疲労とストレスが蓄積する戦闘の中、楽園を見つけた舞。米軍も力で押さえつけず、潰れかけの牧場に子馬の数頭もつけて進呈すれば舞を釣れたのにねえ。

 肝心の救出作戦は、予想通り地形を利用した計画が持ち上がる。それも、単に敵のウラをかくだけじゃない。この地方だからこそ可能な、大胆不敵な作戦となる。幻獣側の不穏な動きもあり…

 レイクサイドヒルでは、浅井とジュディが意外な活躍を見せる。今まで勢いだけの人だったジュディが、ノリの良さを生かしてなりきるあたりは惚れてしまう。

 特別短編「ソックスハンター列伝 ソックスギャルソーンの積と罰」は…ついに、きた!ここになって明らかになる、人類の隠された影の歴史。地理的にも大きく広がったためか、時代的にも大変なことになっている。予想通り、新大陸にも困った人たちはいて、困ったコネクションが成立してしまった模様。お互いの利害が一致すれば、貿易と外交も一段と深まる。果たして、これを元にソックス外交が展開されるのだろうか。嫌な外交だw

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