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2012年7月16日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 東京動乱」電撃文庫

 「戦争を散々体験してきた者こそが、心から戦争を否定することができる。どうか、一刻も早く、不法な反乱を鎮圧して欲しいのです。内戦は流通の敵なのですよ」
 「検問所がひとつあるだけで渋滞が起こります。渋滞しているうちにアイスクリームは溶けてしまいます」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズとして、短編集「5121小隊の日常」から始まったシリーズ、ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了したが、以降も続きを望むファンの声に応えてか、ゲームのエンディングの後を描く「山口防衛戦」で再開し、続く九州奪還編も完結。大判のファンブックも出て盛り上がった所で、新たに始まった「逆襲の刻」編の冒頭を飾る、シリーズ通算21巻目。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2009年12月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約311頁。8ポイント42字×18行×311頁=235,116字、400字詰め原稿用紙で約588枚。以後4ヶ月連続刊行と無茶なスケジュールをこなしている。そりゃ不健康作家になるわ。

 ライトノベルらしく文章はこなれているが、この巻はクーデターがテーマ。政府と軍の関係などの政治関係、迫撃砲や自走砲など軍事関係の用語が頻繁に出てくる。いったい、どの辺の年齢層を読者として想定してるんだろ。まあ、面白いからいいけど。

 長いシリーズだけあって、世界設定は込み入ってるし、登場人物も多い。できればシリーズ開始の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初となる「episode ONE」から入って欲しいが、なにせ20巻もある。この巻の冒頭の「前史…始めて読む人に」で、いままでのあらすじがまとめてあるので、この巻から入っても、なんとか…なるかな?

 また、時系列的には 九州奪還編→「ガンパレード・マーチ ファンブック」収録の短編→逆襲の刻 となっている。席亜背景や主要人物の紹介もあるので、懐に余裕のある人はファンブックから入ってもいいだろう。

【どんな話?】

 極秘指令百二十一号により、薄氷の勝利を得、日本は半世紀ぶりに幻獣との和平を実現した。今まで撤退の連続だったためもあり、東京は勝利の報に沸きたち、また5121小隊は英雄として祭り上げられる。のみならず、肥大して大きな影響力を持つ軍需産業と、好戦的な一部の軍人を中心に、「更なる勝利」を求める声が高くなり、和平の維持に奔走する大原首相の立場は次第に苦しくなっていった。

【感想は?】

 ゲームのノベライズから、次第に架空戦記の色が濃くなってきたこのシリーズ、特にこの巻では加齢臭プンプンのオッサン・オバサンが暴れまわり、「いったいどこがライトノベルなんだ?」という突込みが聞こえてきそうな。

 だいたい口絵からして平均年齢が40歳超えって、どうよ。いや年齢不明な人や明記してない人もいるけど。でも桜沢レイちゃんが出てるから許す。今度は水着の全身像を、原さんとツーショットで是非←をい

 なんたって、テーマがクーデター。幻獣相手ならいくらでも活躍できる士魂号だが、この巻では人間、それも同じ自衛軍が相手。速水ならともかく、滝川や壬生屋が戦力を発揮できるわけもなく。それでも、終盤にはちゃんと見せ場が用意してあるあたりは流石。

 替わって活躍するのが、大原しのぶ首相。なんたってクーデターである。首相である彼女の動きが、政権の動向を左右する。今までの巻で狸っぷりの片鱗を見せてきた首相、この巻の前半で見せる丁々発止のやりとりと、限界状況で示すふてぶてしさは相当なもの。

 その彼女をエスコートするオッサンが、これまたしぶとい人で。今までも散々叩かれつつ、土壇場じゃ度胸と口先で巧く立ち回って来た人に相応しく、決定的な場面で絶妙のバランス感覚と鬼気迫る交渉術を見せる。つくづく政治家って奴は…

 怪演といえば、5121小隊で予想外の大活躍を見せるのが、茜。館山の海軍士官学校でおとなしくトイレ掃除に励んでいるはずはなく、キナ臭い政治状況を嫌味に分析しつつ、血の気の多い士官候補生たちを思いもかけぬ方向に暴走扇動していく。後半、彼が率いる愚連隊?が活躍する佐倉のシーンは、もう抱腹絶倒。これを大真面目にやらかすんだから、やっぱり彼は天才なのかも。こんなの飼ってる士官学校の懐も相当なものというか、下手にシャバに放ったら何するかわからんので隔離してるってのが真相かもしれない。

 その海軍士官学校、茜と一緒に佐藤たちモグラ一党も潜伏中。「歴戦の学兵」と言われても、あまりに雰囲気が。美少女に囲まれウハウハ?な鈴木が妬まれていじめられないか心配。イザとなったらオキアミパンでご機嫌を…取れるわけないか。にしても、人気ナンバーワンは、やっぱり橘さん。せいぜい夢を見たまえ、士官候補生諸君。

 滝川・森のカップルは相変わらずというか。士魂号が約8mだから、1/35というと、約22cm。あんまし詳しくないんだけど、結構デカいなあ。「子供」などと言われつつ、瀬戸口に加え東三条大尉にまで教えを請うている様子。素直だから、成長も早…いのかなあ。

 いつの間にやら東京に侵入しているカーミラ。ハンス君との会話は、双方シリアスな顔してるくせに、妙にドツキ漫才の香りがしてくる。「九州奪還」でも意外と凝り性な一面を見せたハンス君、ここでも好奇心全開で没頭しちゃってる。全般に気を回さにゃならん立場がら遠慮してるけど、本来の性格は学究肌なのかも。ちゃんと打ち込む余裕があったら、匿名で歴史の学術誌あたりに論文を投稿しそう、というか、もうやってるかもしれない。

 同じく真面目なのが緑子ちゃん。彼女も東京に出てきて、なんとか巧くやっている様子。ただ、周囲にマトモな大人がいないというのも考え物で。真にとっていい人と、そうじゃない人は見分けようね。

 熊本から東京に来て、感覚がズレちゃってるのは5121小隊の面々も同じ、来須のセンスも相当なものだったが、舞も意外と大胆というか。まあ気持ちはわからんでもないが。

 クーデターという物騒な休暇を挟み、更に剣呑な最後の2行で幕を引きつつ、次巻へと続く。

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