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2012年7月24日 (火)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 青森血戦」電撃文庫

 「ぬ、どうも湯にのぼせたようじゃ、俺は出るぞ」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を元に、榊涼介が小説化するシリーズとして、短編集「5121小隊の日常」から始まった、俗称榊ガンパレ。ゲームの内容に基づいたストーリーは「5121小隊の日常Ⅱ」で完了し、エンディングの後を描く「山口防衛戦」でシリーズは再開し、続く九州奪還編の後、大判の「ガンパレードマーチ ファンブック ビジュアル&ノベルズ」を挟み、逆襲の刻編へと続いている。文庫本はファンブックとガンパレード・オーケストラを除き、通算24巻目。

 この巻は最後に特別短編「青森からの通信――輝け!突撃レポーター」を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2010年3月10日初版発行。なんと「東京動乱」から4ヶ月連続刊行というハードスケジュール。文庫本縦一段組み、本文約311頁。8ポイント42字×17行×311頁=222,054字、400字詰め原稿用紙で約556枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは、こなれていて読みやすい。ただ、内容的にほとんど架空戦記なので、榴弾だ師団だと軍事用語が頻発する。読み飛ばしても大きな問題はないけど、気が向いたら Wikipedia などで調べると、会話の内容がより具体的に理解できるだろう。また、津軽半島を舞台にしているので、青森・弘前近辺を地図帳や Google Map で参照しながら読む楽しみもある。

 長いシリーズだけあって、世界設定が独特かつ複雑で、登場人物も多いので、いきなりこの巻から読み始めるのは無茶。最低でも、逆襲の刻編はじめの「東京動乱」から入ろう。冒頭に前史として「いままでのあらすじ」が載っている。余裕があれば、シリーズ最初の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初期を描いた「episode ONE」から入るのが最善。または、九州奪還編までの内容が、「ファンブック」にまとまっているので、「ファンブック」から入る手もある。

【どんな話?】

 拠点防御は諦め戦線を整理し、弘前方面へ転進した5121ら遊撃部隊。弱兵と思われた大阪師団は意外な活躍を見せ、三宮参謀の即席迷路の効果もあり、粘り強く戦線を維持する。整備班の警護・市街に浸透する小型幻獣の掃討・物品調達・他関係者との連絡役・そして炊き出しなど、一ノ瀬小隊や海軍士官学校候補生たちも自らの役割を見つけ、活発に働き始め、調整役の山川道久も忙しく動き回る。

 一方、東京で泉野・木下が企てた首相暗殺は失敗したが、首相の大原は欺瞞に満ちた現在の状況に見切りをつけ、大博打にでる決心をする。軍需産業を仕切り暗殺を企てた黒幕の樺山を排除すると同時に、日本が置かれた政治情勢を転換すべく、東京に滞在していた幻獣共存派のカーミラ・野間集落の緑子と共に、善行と原をシベリアへ送り込む。

 その頃、青森の方面軍司令荒波は、起死回生の策を検討していた。

【感想は?】

 厳しい戦闘シーンが続いた最近の榊ガンパレの仲で、少しだけ息がつける楽しいインターミッション。特に終盤は、榊氏には珍しく正統派のライトノベルしてる。いや最近の榊ガンパレはライトノベルなんだか架空戦記なんだかわかんなくなってきてるから、こーゆーのもちゃんとやってくれないと。

 大筋では、大きな変化が二つ。ひとつは、善行・原・カーミラ、そして緑子が向かう先、シベリア。前巻で思わせぶりに出てきたシベリアの実情が、やっと明かされる。常夏のハワイに行く筈が極寒のシベリアになってしまった原さん、彼女にも弱点はある模様。だから豪華客船なのね。しかし、こういう役割に来須と萌は珍しい人選ミスじゃなかろうか。

 もうひとつ、戦線の大きな変化は、カーミラ配下の幻獣の参戦。さすがに陸上型は移動できないため、空中を移動できるものだけ…といっても、今まで最強の幻獣として君臨した空中要塞スキュラ、それも賢い青スキュラが青森湾に到着。ここじゃ意外な人が納得の理由でモテモテ。

 戦闘シーンでうれしいのが、やっと海軍に活躍の場面が来たこと。いや「幽霊戦線」でも少しでてきたけど、やっぱり海軍らしい活躍をして欲しいしねえ。今時の護衛艦はあまし艦砲射撃とか考えてないけど、見た目はミサイルより砲の砲が迫力あって絵になるし。

 いつの間にやら「下品の王様小隊」が通り名になってしまった箕田小隊、今度は箕田サーカスに改名か。能見が入ってから、更にデンジャラスになってる。そろそろ、久萬と中西にも彼女をあてがってやっても…いや、どっちも人間離れしてるからなあ、色々と。中西は意外と商売が向きそうな雰囲気だけど、久萬はねえ。

 司令部では、前園さんが獣の扱いに一苦労。なんか大変な餌を与えちゃってる。困ったことに、陰の組織はこういう所にも浸透しているらしく、下手に尻尾を出すと大変な事に。

 が、そんな事には動じないのが生徒会長閣下。「そういうコネクションの作り方もある」って、わかってらっしゃる。というか、やっぱり政府上層部にも浸透してるんだろうか。秋元さんとか、怪しいと思ってるんだが。

 息子の方は、色々と気が利く分、あちこちから頼られて大忙し。元々が茜に鍛えられて想定外の状況への対応力がある上に、九州で5121小隊に付き合って柔軟性がグレードアップ。閣下も喜んでるだろうなあ。その茜、「残したらダメじゃないか」って、お前が言うな。肉てんこもりにしてやれ、一ノ瀬。

 その茜、ここでも終盤で名誉の負傷。この辺のシーンは是非ともアニメ化して欲しい所。ファンブック第二弾、出ないかなあ。速水は野間の惨劇の傷が未だ癒えず、苦しんでいる模様。中村と岩田を見習って、早く立ち直れ。にしても湯川、同情するぞ。悪い奴じゃないんだけどなあ。

 特別短編「青森からの通信――輝け!突撃レポーター」は、タイトルでわかるように、桜沢レイちゃん大活躍。人の話は聞かないわ話題はあちこちワープするわで、前線で大暴れ。弱音もはくけど、切り替えと立ち直りが早いのがレイちゃんの取り得。彼女が出てくると、途端に場面が明るくなるから好きだなあ。

 シベリアと津軽、役者が続々と集合し、大きな転機を予感させつつ、次巻へと続く。

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