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2012年7月11日 (水)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 九州奪還0 萩 幽霊戦線」電撃文庫

 「隊員は家族であり、互いに支えあい、助け合う仲間たい。戦友愛の精神あるからこそ、5121小隊はこれまで数々の危難をくぐりぬけることができた。……反論はあるかの? ソックスステルス、ソックスロボ弐式?」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介がノベライズするシリーズ。「5121小隊の日常」で始まり、ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了したが、以降もファンの人気は衰えず、小説は「その後」を描く「山口防衛戦」で再開、続く九州奪還編もめでたく完結した。

 この巻は、山口防衛戦編と九州奪還編の間を補う内容となる。シリーズ通算20巻目。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2009年2月10日初版発行。初出は雑誌「電撃マ王」2008年9月号~2009年3月号に連載したものに、一部加筆修正。

 文庫本縦一段組みで本文約311頁。特別短編「ソックスステルスの困惑」10頁に加え、なんときむらじゅんこのカラー・イラスト5頁が付属。8ポイント42字×18行×311頁=235,116字、400字詰め原稿用紙で約588枚。長編小説としては標準的な長さ。

 文章そのものはライトノベルらしくこなれてて読みやすいが、けっこう真面目に戦争してるんで、軍隊っぽい堅苦しい言い回しが多い。まあ、判らなくても、充分に楽しめるけど。

 それより、長いシリーズ物なので、初見の人は、世界設定や登場人物の説明がないのが辛いかも。世界設定については、冒頭に「前史」として「これまでのあらすじ」がついてる。登場人物もカラー頁に人物のイラストがあるが、顔だけで説明がない。しかも、肝心の5121小隊の紹介がない。

 この巻から読み始めてもいいが、できればシリーズ開始の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初を描いた「episode ONE」から始めるのが理想。または編成表や登場人物一覧が「九州奪還2」~「九州奪還4」に付属しているので、九州奪還編は0~4をまとめて買おう。なお読む順番は刊行順でもよし、0,1,2,3,4と数字順でもよし、お好きなように。

 なお、懐に余裕のある人は、「ガンパレード・マーチ ファンブック」から入るという奥の手もある。

【どんな話?】

 自然休戦期を破る突然の幻獣の本州上陸に戸惑ったものの、荒波・岩田参謀の構想による岩国防衛陣地は優れた効果を発揮、人型戦車を主力とする5121小隊と諸科連合による善行戦闘団の活躍もあり、自衛軍は首の皮一枚で防衛に成功し、本州から幻獣を駆逐しつつあった。

 例外は、萩市に陣取った幻獣である。10km四方ほどの領域に包囲されながら、自衛軍の攻撃にしぶとく抵抗し、膠着状態に陥りつつあった。攻めあぐねる自衛軍を尻目に、最新装備で固めた新着の部隊が積極的な攻勢に出た。海兵第一旅団である。

【感想は?】

 幕間劇というか、お蔵だしというか、ファンサービスというか。九州奪還編の背景事情を補う形のお話。ハイライトは戦闘場面だが、読み所はむしろ人間関係というか、軍内、それも海軍内の政治闘争っぽい部分に重点が置かれている。

 今までは会津閥 vs 芝村閥って構図が多かったが、ここでは陸軍と海軍の立場の違い、そして海軍内の海兵旅団の扱いが物語の大きなテーマとなり、それに加え、九州奪還編の本編に出てきた細かい謎のタネあかしが絡む、という形で物語りは進む。

 読みながら思ったんだが、まさか榊さん、自衛軍全体の編成表とか作ってるんだろうか。派閥争いみたいな生臭い話が、前半にヒョイヒョイ出てくる。表立った組織としては陸軍と海軍があって、空軍も一応は独立している模様。それとは別に会津閥と芝村閥、それに薩摩閥もある模様。出身地ごとに連隊を編成するしきたりも、帝国陸軍の習慣を引きずってる。

 一般に旧帝国陸海軍じゃ陸軍が悪役になりがちだけど、これに出てくる海軍は微妙に嫌な感じ。この雰囲気だとすると、5121小隊を編成した善行が、いかに型破りな人間かが、よくわかる。東三条を可愛がる理由の一つは、両者の経歴にあるのかも。ほんのわずかだけど、商船の奮闘にも触れているのには注目。

「そもそも、陸上戦闘は陸軍の仕事で、海軍は軍艦に乗るのが仕事でしょ?なんで(人型)戦車が必要なの?」という疑問は、ごもっとも。この巻で善行が明かす海兵旅団の構想が飲み込めてると、「5121暗殺」や「新大陸編」を、少し違った側面から楽しめるようになるのでお楽しみに。

 物語の序盤は、戦後を考えはじめつつ、大活躍の影響で微妙な立場になった5121小隊の面々の日常が描かれる。いきなり笑っちゃうのが滝川。天下の荒波中将に連行され、客寄せパンダ役を仰せつかる…が、ここでも「地味」と連呼される。まあ、そういう役どころなんだらしょうがないやね。士魂号の操縦は得意だけど、微妙な人間関係は苦手な滝川、まず頼りにするのが森ってのが可愛い。いいコンビだよねえ。

 対して、ひとりでも充分な能力を発揮しているのが狩谷。「小隊の日常」の頃からは想像できない進歩というか、たぶん元々バスケット・ボールをやってた頃から人を率いるのは巧かったんだろうなあ。元来の理論派に加え、過酷な先頭を通じて充分な経験を厳しい師匠の元で積んだだけあって、自分なりの工夫も加え、立派に役目を果たしている模様。

 細かい謎という点では、なんといっても植村大尉のアフロの謎。実は私も一時期似た経験があるんで、植村大尉の告白には思わずガッツポーズ。そうそう、あれ、往々にして大きな反動が来るんだよなあ。その辺、少しは考えればいいのに。けど、あの髪型、ヘルメットはどうしてるんだろ?

 もう一つは、カーミラが合コンに拘った理由。なんというか、文化の交流って、別の表現をすると、お互いに汚染しあうという事でもあるのですね。逆に向うからは、どんなシロモノが流れてくることやら。

 特別短編「ソックスステルスの困惑」は、タイトルでわかるように、アレな人向けの短編。いつの間にか弐式としてロボが復活している。やはり自家用士魂号の夢を捨てきれないのか。新大陸編を読むと、それなりに民需もありそうだし、案外と実現性が高そうな気もする。いつか、各員の戦果一覧表が出ないかなあ。

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