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2012年7月 9日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 九州奪還5」電撃文庫

 「これは紀元前から連綿と続く、人類のウラ趣味ばいね。オモテの社会では禁忌とされ、地下……アンダーグラウンド秘めやかに追求されてきた快楽ばい」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズとして「5121小隊の日常」が出版されたのがシリーズの始まり。ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了したが、以降もファンの人気は衰えず、小説は「その後」を描く「山口防衛戦」で再開、九州奪還編へと続き、この巻でフィナーレを迎える。ちなみにシリーズ通算では19冊目。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2009年1月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約373頁に加え、著者によるあとがき2頁。8ポイント42字×18行×373頁=281,988字、400字詰め原稿用紙で約705枚。長編小説としてはやや長め。榊さん、最終巻は長くなる傾向があるみたい。

 文章は読みやすいが、内容的にゲームのノベライズと言うより架空戦記なので、軍事用語がポンポン出てくる。慣れている人なら、細かい部分をより深く楽しめるだろう。ただ、この巻だとファンタジー要素もだいぶ濃くなってくるんだけど。

 元のゲームも世界設定が独特な上に、榊オリジナルの登場人物も多い。長いシリーズの一巻なので、さすがにこの巻から読み始めるのは無理。余裕があればシリーズ開始の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初を描いた「episode ONE」から始めるのが理想。「根気が続きそうにない」という人は、「九州奪還1」の冒頭にに「前史」として「いままでのあらすじ」があるので、そこから始めるか、または次の巻「九州奪還0」から入ってもいい。編成表や登場人物一覧が「九州奪還2」~「九州奪還4」に付属しているので、まとめて大人買いしよう。

 なお、懐に余裕のある人は、「ガンパレード・マーチ ファンブック」から入るという奥の手もある。

【どんな話?】

 九州の戦線は膠着状態へと押し返したが、国家財政は破綻寸前。現状が続けば数週間で日本経済は崩壊し、戦線も壊滅するだろう。舞・瀬戸口両名による起死回生の案は迅速に承認され、極秘指令百二一号として走り出す。

 人類の異端5121小隊・共生派の異端野間集落,そして幻獣の異端カーミラの三者が連合し、幻獣/共生派の攻撃から野間集落を防衛、幻獣内の勢力図を書き換え、幻獣の主導者となったカーミラと和平卿協定を結ぶ、という奇想天外な作戦である。

 今まで人類は野間集落の存在はもちろん、幻獣との意思疎通が可能である由すら知らず、共生派を苛烈に弾圧してきた。作戦が成功すれば結果オーライで誤魔化しようもあるが、失敗した上で作戦が露見すれば内戦にも発展しかねない。しかも戦力差は絶望的であり、成功の確率は限りなく低い。だが、万が一にも成功すれば、半世紀以上も続いた幻獣との戦争終結が見えてくる。

 しかし、いかなる状況にあろうとも、人類は愚行と縁が切れない。温泉に浸るカーミラ・森・原・新井木らを狙う、怪しい影が五つ…

【感想は?】

 感動のフィナーレ。ゲーム内で語られた内容とは全く違う、けれどゲームのファンとして充分に納得できるケリのつけ方だった。とは言っても、小説はまだまだ続くんだけど。

 ゲーム内では全くコミュニケーション不能な敵だった幻獣が、榊オリジナルの登場人物カーミラによって、内情が見えてきたのは大きい。彼女を通じて、幻獣がこの世界に来た事情、それぞれの幻獣の正体、そして幻獣が人類を敵視する理由なども、この巻で明らかになる。

 と同時に、今まで単なる無表情な護衛役だったハンス君とカーミラの関係が見えてくるのもお楽しみ。無表情だからといって無感情とは限らない。単純な主従ではなく、裏で色々と丁々発止のやり取りをしてるあたりで、カーミラとハンス君の「人間味」が伝わってくる。つかカーミラ、「合コン」って言葉を使いたいだけなんじゃなかろか。

 そもそも人間味とは何か、ってのが、存分に現れているのが終盤、カーミラ・ハンス・新井木・中村の会話場面。この深刻な状況で、それでも己の本分を通す漢気はあっぱれ。というか、それが人間味ってのも…。

 読者サービスか、温泉シーンが多いのもこの巻の特徴。オキアミ鈴木の立場は天国か地獄か。もはや拷問に近い。意外なのが藤代さんの秘密。マニアックな趣味に理解がある、と解釈していいんだろうか←たぶん違う

 フィナーレを飾る巻でありながら、意外とユーモラスな場面が多いのも嬉しい。というのも、やはりハンターどもの前に、次々と獲物が現れるため。今までは戦場で稀に顔を合わせるだけだった人たちと、今回は同じ拠点で生活することになる。当然、接触の機会も増えるわけで。「5121小隊の日常Ⅱ」収録の「海へ」ではわかっていなかった狩谷も、さすがにここでは連中の性癖を充分に理解している模様。

 シリアスな場面では、冒頭の石丸さんの絶叫が光る。東三条大尉は、これを聞いて引くか惚れるか。その辺、是非聞いてみたいんだが。

 肝心の作戦内容、彼我の戦力差の具体的な数字が驚き。普通なら狂気の沙汰だってのが、否応なしにわかる。ちょっと朝鮮戦争のマシュー・リッジウェイの方針を連想したんだが、ガンパレの場合は補給は期待できても増援は期待できないのが辛い。これは戦争の性質も関係してて、このあたりはカーミラの説明から想像するっきゃないんだけど。

 5121小隊の4人のパイロットの立場の違いも明確になってきて、意外と重宝されているのが滝川。というのも、今まで5121小隊だけで戦ってきたのが、自衛軍に組み込まれ、他隊との関係ができたため。ただでさえ相性で人を選ぶ人型戦車、舞・速水・壬生屋のような特別の才能を持つ者は期待できない。

 けど、普通の少年である滝川が、その戦歴の中で産み出した戦術・戦闘パターンなら、他のパイロットも真似できる。って事で、滝川が人型戦車の規範になりそうな雰囲気。これで説明が巧ければ、将来は人型戦車学校の教官に納まりそうなんだが。まあ、人格には問題ないから、なんとかなるんじゃないかな。けど、カーミラの滝川評は辛辣。

 追い詰められた人類が、最後の希望を託す極秘指令百二一号。人類・野間集落・カーミラの思惑は、結実するのか。シリーズの転回点に相応しい、見事な幕切れだった。

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