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2012年7月 7日 (土)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 九州奪還4」電撃文庫

 「忍ぶ恋こそ至上なり。あの清楚さ、純朴さ、愛らしさ。彼女に純白のソックスを履かせる委員会を今から発足する。タイガー、仲間に入れてやってもよかよ」

【どんな本?】

  2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズとして「5121小隊の日常」を皮切りに始まったシリーズ、浮沈の激しいライトノベルの中でも異様に根強く長い人気を保ち、ついに18冊目となった。ゲームのエンディングは「5121小隊の日常Ⅱ」で迎えたが、以降もノベライズのシリーズは続き、エンディングの後を描く「山口防衛戦」で再開し、九州奪還編へ続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年10月10日発売。文庫本で縦一段組み、本文約306頁+登場人物一覧6頁。なお、今回は特別短編「福岡からの通信――ビルからビルへ、路地から路地へ」11頁も収録。8ポイント42字×17行×306頁=218,484字、400字詰め原稿用紙で約547枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすい。ただ、もはやゲームのノベライズというより架空戦記の様相を呈しているので、旅団だ師団だバルカン・ファランクスだと軍事用語が頻出する。とりあえず軍人の階級ぐらいはわからないと辛い。また、舞台が福岡県若松半島近辺なので、地図帳か Google Map を見ながら読むと、より堪能できる。

 長いシリーズの中の一巻だ。世界設定は独特だし、登場人物一覧が6頁もあることでわかるように、キャラクターも多い。榊氏オリジナルの人物も劇中で大きな役割を果たすので、いきなりこの巻から読み始めるのは無茶。できればシリーズ開始の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初となる「episode ONE」から読み始めるのが理想だが、なにせ巻数が多い。一応「九州奪還1」に「前史」として「おままでのあらすじ」があるので、そこから始める手もある。懐に余裕のある人は、「ガンパレード・マーチ ファンブック」から入るという奥の手も。

【どんな話?】

 5121の活躍もあり、自衛軍の虎の子の第三戦車師団と第三師団は多くの犠牲を払いながらも脱出に成功した。山川中将にかわり指揮をとる荒波による戦線の縮小は、即席ながらも岩田独特の築陣も相まって充分な効果をあげ、戦闘は膠着状態へとかわる。

 行方不明となっていた森は、カーミラに保護され野間集落に保護される。様々な人が混在しながらも、田舎風の生活感漂う集落の様子に戸惑った森だが、山積する修理・整備の仕事をこなすうち、次第に村人やカーミラと打ち解けてゆく。カーミラが明かす幻獣の正体と、その内情は…

 その頃、東京で政治家や情報関係者を相手に綱渡りを続ける善行をよそに、5121小隊は安定した戦闘パターンを獲得しつつあった。しかし、トラブルは常に予想外の方向から忍び寄る。岩田参謀との化学変化により劇薬と化した生物兵器は5121小隊の整備ハンガーを席巻し、既に二号機パイロット滝川陽平はその虜となりつつあった…

【感想は?】

 シリーズ全体を通し、大きな転回点へと向かう助走が、この巻。シリーズ18冊目にして、やっと幻獣の正体が明かされる。まあ、ゲームの方で「世界の謎」とかやってるんで、知ってる人は知ってるんだけど。それと同時に、幻獣の内情、そして気まぐれで残酷な爆弾娘カーミラの真意も見えてくる。つかカーミラって名前で「わたしだってノーマル」て言われても…

 カーミラに連行?された森さんは、意外と元気。どころか、山積する仕事に没頭し、周囲から頼られ感謝されながら、気持ちも落ち着いてくる。「リーダーとしてしっかりしなくちゃ」的に無理に頑張るのではなく、夢中で手を動かしているうちに落ち着きを取り戻す、というのが森らしい。働き者なんだよね、根本的に。

 集落の人間模様もいろいろで、意外な所から人が集まっている様子。日本海の漁師に「日本海は○○の海」の「○○」に好きな言葉を入れろってアンケートをとると「オレ」って答える人が多いというから、徹平じいさんも「オレの山」って気分なんだろうなあ。にしても、ナニぶら下げてるんだか。

 ってな森の様子をよそに、劇薬に直撃された滝川は何やってんだか。戦術の話じゃしどろもどろのくせに、こういう事だけは遠坂と互角に議論を交わすってのも、なんだか。島さんや栗田大尉が見たら、どう思うんだろ。でも「掃除は自分でやってる」ってのに、愛情がにじんでるねえ。未だマイ士魂号の夢捨てきれず。つか「第二種装備」ってなんだよタイガー。

 今までは軍内の政治だけだったのが、この巻では東京の善行を通し、日本の政界全体が俯瞰できるのも、今後のシリーズの方向を考えると興味深い所。今読み返すと、「野党」って言葉の響きが、発表当時と少し違うのも感慨深い。また、財務系が意外と現代的な感覚なのが意外。軍と白熱の綱引きしてるなら、国としてはそれなりに健全な気も。

 こっちでは、終盤に大変なお方が登場する。「誰かに似ている」って、ヒトゴトじゃないぞ、善行。秋元さん、悪い仲間に入ってるのかなあ。

 一方、派遣軍司令部では、岩田参謀が本調子を取り戻しつつある。前園少尉という格好の相方を得たためか、エンジンが温まってきた模様。まあ、普通の軍組織じゃありえないよね。ただ、かおりんを「赤毛で大柄」ってのは納得いかない。「赤毛でゴージャスな美人」でしょ。黙ってりゃ美人なのに。

 こちらでは、カーミラの明かす幻獣の真相に絡み、新たな動きが若松半島で出てくる。今までほとんどいい所なしだった海軍が、ここでやっと少しだけ登場。本当に少しだけなんだけど。

 特別短編「福岡からの通信――ビルからビルへ、路地から路地へ」は。福岡市街で激烈な一進一退の先頭を繰り広げる植村中隊。その配下の箕田小隊は、単独で徘徊する不思議な生物を保護する。口から出る言語は日本語らしいのだが、会話が成立しているかというと、どうも怪しい…

 以後、このシリーズで異彩を放つ人物にスポットがあたる珠玉の一編。今までも名無しで何回か出てきたが、名前が出るのはこの短編が始めて。原さんの逆鱗に触れ涙目になりながらも、意外と意志は強く…というか頑固で、己の職分には忠実なのがいい。あのヘルメットには、ちゃんと理由があったり。ニュータイプ覚醒のシーンは、笑っていいのか泣くべきなのか。いや名台詞だと思うんだけど、この人が言うとなあ。

 などと波乱を孕みつつ、ついに終結を迎える次巻へと続く。

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