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2012年7月 3日 (火)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 九州奪還3」電撃文庫

「ぬしゃらは発想が貧困じゃのー。整備班一同はこの日があることを見越して、極秘にプロジェクトを進めていた!なんのために軽トラがぬしゃらの後に続いているか、わかるか?整備班をなめると地獄を見るぞ!」

【どんな本?】

 2000年9月発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズとして始まったシリーズ、ゲームも単発物としては異様なロングセラーとなり、ノベライズのシリーズも常識外れの根強い人気を誇り、この巻では17冊目。ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で終わったが、ノベライズのシリーズはゲームのエンディングの後を描く「山口防衛戦」で再開、九州奪還編へ続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年8月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約303頁に加え、第三戦車師団の編成表5頁+きむらじゅんこの「おしらせ」2頁。8ポイント42字×18行×303頁=229,068字、400字詰め原稿用紙で約573枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすいが、なにせ長いシリーズ。世界設定も複雑だし、登場人物も多い。理想を言えばノベライズ開始の「5121小隊の日常」か、時系列的に最初となる「episode ONE」から読み始めて欲しいが、分量が多すぎて萎えてしまうという人は、「九州奪還1」の冒頭に「いままでのあらすじ」があるので、そこから始めるのも一考。

 また、元は一小隊の物語だったのが、この辺に来ると、軍に組み込まれての活動となり、「旅団」やら「小隊機銃」やらの軍事用語が頻出するので、ソッチに詳しいとより楽しめる。また、舞台が鳥栖・小郡・久留米・八女近辺であり、Google Map などで参照しながら読むのも一興。

【どんな話?】

 あっけない福岡の陥落に気を大きくした自衛軍は熊本奪回を目指し佐賀へと突き進むが、善行などの懸念どおり幻獣は猛反撃を開始する。善行は海兵第一旅団で鳥栖に前線を形成するが、上陸軍の主力をなす第三戦車師団と第三師団が八女で包囲され、孤立してしまう。

 前線の視察で負傷した善行をよそに、虎の子の二個師団救出に向け、幻獣の海となった筑後平野へ向かう5121小隊。そのころ、行方不明となった森は…

【感想は?】

 この巻は、九州奪還編中盤のヤマ場。5121小隊が自衛軍と連携しての戦闘としては、最大規模の盛り上がりを見せる。戦闘シーンの最大の見せ場は、山川中将率いる第三師団の撤退戦と、それを援護する5121小隊の死闘。特に重装甲で猛り狂う壬生屋と、彼女を支えんとする瀬戸口の会話は、瀬戸壬生ファンのトラウマ必至。

 と、派手な活躍を見せる重装甲に対し、見栄えはスタイリッシュでも戦闘スタイルは地味な滝川。「天性の脇役」って、喜ぶべきか泣くべきか。それでも、見てくれてる人はいるんだから、落ち込むな滝川。ギャグ担当ってわけでもなく、後半ではちゃんとシリアスな見せ場が用意されてるし。今思ったが、この辺、腐った人には美味しい場面だろうなあ。

 かと思えば、同じ戦場で爆笑ギャグをかますのが5121小隊。山川中将父子の会話は、緊張した場面の一服の息抜き。山川候補生が「……面白い友人ならば」と言いよどみつつ、見事にフォローするのは、やはり血筋かな?

 優等生な彼が、はぐれ者揃いの5121小隊に染まっていく様子も、この長いシリーズの楽しみの一つ。とっかかかりが彼というのも、納得。パイロットやスカウトとは接触の機会が少ないから難しいし、中村と岩田は刺激が強すぎる。純情な彼としては、女子相手に突っ込んだ話はしにくいだろうし、彼も知的で冷静な人との会話を楽しんでる風がある。

 とーちゃんの山川中将と泉野参謀、今までいい所なしで無能っぽかったのが、玉砕の土壇場になって猪武者ではなく合理的な思考のできる軍人である由を見せるのも意外な所。軍人としての名誉を、山川がどう考えるか。今後、彼が重要な役割を担う一端が、ここで伏線として示されている。

 意外な面を見せるもう一人が、矢吹中佐。コワモテの戦車屋だと思いきや、若い頃は相応のセイシュンを送っていた模様。

 その頃、方面軍司令部は嵐を呼ぶ男が席巻中。今までオッサンが揃う場面は陰険で剣呑な雰囲気だったのが、この人と手下がくると、グッと風通しが良くなるというか、変なウイルスが増殖するというか。おまけに煽る人が乱入するからたまらない。困った人と困った人が化学反応を起こし、悪の組織が共同戦線をはりだす。彼が手渡したアタッシュケースには、世界を震撼させる危険物が…。というか、島さんも大人しげな容姿とは裏腹に、案外と許容力はあるようで。

 これだけ長いシリーズでありながら、未だ語られなかった5121小隊の過去が出てくるのも、この巻の読みどころ。比較的暗い話が多い中で、楽しいのが舞。意思と頭脳と実行力に優れた人なのは昔から、とはいうものの、そこまでやるか。目前の試験が嫌になった中高生諸君は、真似をしないように。

 意外な真相といえば、幻獣。突然に現れては食事も取らずにひたすら人を狩り、倒されれば消えてゆく。単なる戦闘マシーンではなく感情を持つ存在である由は今まで出てきたけど、その正体の一端がこの巻で明らかになる。そういえば最近はヒトウバンの出番がないなあ。台風の後は電線に引っかかって停電を起こす…なんて話はウソです。

 後半のクライマックスは、5121小隊ファン感涙のシーンが連続。というか、そのために軽トラ仕立てたのか原さん。どう考えてもくじはイカサマだし、お陰でファンブックはあの有様。ところで、これ、誰が作ってるんだろ?イワッチがデザインしてヨーコさんと中村がチクチクと、って感じ?

 意外な人が仲介となり、対幻獣戦争の新しい展開が垣間見えたところで、次巻へと続く。

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