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2012年7月10日 (火)

シェイクスピア全集2「ロミオとジュリエット」ちくま文庫 松岡和子訳

ジュリエット ああ、月に賭けて誓うのは止めて。
        移り気な月は ひと月ごとに満ち欠けを繰り返す
        あなたの恋もあんなふうに変わり易いといけないから

【どんな本?】

 英国の文学・演劇界に、今なお燦然と輝くウイリアム・シェイクスピアの名作を、松岡和子が親しみやすい現代語に訳すシリーズ。ウエストサイド物語など何度もリメイクされ、今後も若手俳優・女優の出世作としてリメイクされるであろう、悲劇のラブ・ロマンスの原点。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 解説によると、1596年に成立、という説が今のところは最も有力だとかで、シェイクスピア32歳ごろの作品。松岡和子の日本語訳は1996年4月24日第一刷発行、私が読んだのは2007年4月10日の第八刷。

 文庫本縦一段組みで本文約217頁+訳者あとがき5頁+中野春夫の解説「死を印された恋」11頁+戦後日本の主な『ロミオとジュリエット』上演年表(1945~95年)。9ポイント29字×17行×217頁=106,981字、400字詰め原稿用紙で約268枚。小説なら中篇の分量。

 文章そのものは読みやすいが、なにせ形式が戯曲。地の文がないので、登場人物や背景が説明されない。冒頭の登場人物一覧は必須。ジュリエットの年齢がもうすぐ14歳というから、劇中では13歳。マキューシオやパリスの歳は明記されていないので、ジュリエットの歳から好きなように脳内で設定しよう。

【どんな話?】

 花の都ヴェローナでいがみあう二つの名家、モンタギュー家とキャピュレット家。いがみあいは下の者も巻き込み、喧嘩が耐えず、大公エスカラスも頭を痛めている。偶然にもキャピュレット家の仮面舞踏会の開催を聞きつけたモンタギュー家の若者たちは、跡取り息子のロミオを連れ舞踏会に侵入する。

 ロミオは、舞踏会で、モンタギュー家の一人娘ジュリエットに出会い、互いに恋に落ちる。互いの立場を理解しつつ、それでも思いを捨てきれぬロミオは、モンタギュー家に忍び込み…

【感想は?】

 いかにも若い頃の作品だなあ、というのが正直な感想。「オセロー」や「マクベス」に比べると、物語や人物がイマイチ整理されてない感がある。反面、勢いがあるというか、若者に受けそうな台詞がポンポン出てくる。

 特に盛り上がるのが、第二幕第二場。一旦舞踏会を引き上げたロミオが、想いに引きずられてキャピュレット家に忍び込み、窓の向うのジュリエットと言葉を交わす場面。かの有名な「ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」のシーン。落ち着いて考えるとロミオのやってる事は不法侵入のストーカーなのだが、そこはイケメン無罪である。納得いかない。

 …ではなくて。恐らく今まで何度もラブソングに引用され、これからも引用されるであろう名台詞が満載。しかも、ロミオ/ジュリエット両者とも、結構台詞が長い。ジュリエットの年齢設定が13歳だから、舞台や映画になる際は、両者とも若手の新鋭役者が演じると思うんだが、ここをキチンと演じるには相当の力量が必要なはず。逆に考えると、ロミオ/ジュリエットを演じる役者は、相当に見込まれてるって事になる。

 にしてもロミオ君、手が早い。初登場の時は、別の女性に思い煩ってる。それを心配した友人のマキューシオやベンヴォーリオが、憂さ晴らしにキャピュレット家の仮面舞踏会に誘い、そこでコロリとジュリエットに乗り換えるんだから酷い。しかも、その場でジュリエットの唇を奪ってしまう。くっそー。いいなあ、イケメンは←しつこい

 …などと、主役については人物像がクッキリしているんだが、反面、それ以外の人物はどうも巧くイメージできない。マキューシオは、今の日本なら若手漫才師が演じそうな、少々下品なお調子者で、ジュリエットの乳母は、やっぱりその場の雰囲気で態度をコロコロ変える、でも基本的にはジュリエットを溺愛してるお喋りなオバサン、ぐらいか。

 それと、二人の仲を取り持つロレンス神父は、聖職者だけど世知にも富んだ、落ち着いた懐の深いオジサン。まあ若い二人の恋の仲立ちをするぐらいだから、綺麗ごとだけのクソ真面目君じゃないのは確か。両家の諍いに悩むエスカラス大公は、胃痛に苦しむ感じの、顔色の悪い痩せた人のよさそうな老人。「重責に腰が折れそう」な雰囲気を出して欲しい。

 難しいのが、パリス。当主キャピュレットが、ジュリエットを嫁がせようとする相手。パリス本人もジュリエットとは顔見知りで、縁談には乗り気。でも肝心のジュリエットはロミオにゾッコン、という可哀想な人。彼をスケベったらしい脂ぎった役者が演じれば、物語は判りやすくなるけど、ちと俗っぽい。「よき兄貴」的な感じで演じると、より悲劇性は増すけど、ロミオが霞んでしまう。案外と、劇の色合いを左右する重要な役かも。

 シリアスな劇だと思っていたが、意外とユーモラスな場面も多い。特にマキューシオと乳母はシモネタ満載。これをカラリと「ガサツだけど陰湿でない」風に演じるには、かなりの年季が要るだろうなあ。

乳母 お嬢様のお喜びのために骨を折るのが私の役目。
    でも夜がくれば、お嬢様が重労働。

 などと考えると、この劇は典型的なアイドル映画の構造をしてる。ロミオ役・ジュリエット役に、時の話題の美男美女の新進役者を充てて若者の客を呼び込み、マキューシオや乳母などの脇役は演技派で固めて劇のクオリティをあげ、パリスで監督の独自色を出す。いかにも若者をあてこんでるよなあ、と思うのも、次の台詞。

ロミオ 恋人に会うときは、下校する生徒のように心がはずみ、
     恋人と別れる時は、登校する生徒のように心が沈む。

 昔から若者は勉強嫌いと相場が決まっていたようで。

 シェイクスピア劇で気がつくのが、神話・伝説の類を頻繁に引用している点。この劇でも、恋の神キューピッドはもちろん、ローマ神話の曙の女神オーロラ,アイルランド/イングランドの伝説の妖精マブの女王,ギリシャ神話のゼウスとレダの娘ヘレンと、日本人にはイマイチ馴染みのない名前がヒョイヒョイ出てくる。

 この辺は文化の違いなんだろうけど。特にシェイクスピア劇は、現代のドラマや映画でもよく引用されるんで、読んどくと、より細かいところが楽しめるってのはあるんだが、そのシェイクスピアを楽しむには、更に古い文学や伝説の教養が必要ってのは、なんかキリがないよなあ、って気になる。

 もっとも、解説を読む限り、シェイクスピアも、一から話を作ってるわけではなくて、大抵は既存の伝説や物語を加工して劇に仕上げているそうで。まあ、実際、この劇、最初の幕はキャピュレット家のサムソンとグレゴリーで始まるんだが、登場人物一覧がないと、誰がどっち側の人物なのか、よくわかんなかったりする。劇だと衣装で区別できるようにするんだろうか。

 ってな事を言いたいわけじゃなくて。劇ってのは、小説と違って地の文がない。だから、細かい説明とかができない。既存の、観客が良く知ってる物語を持ってきて、概略は観客の知識で補ってもらう、って事なのかも。

 戯曲ってのは、小説とだいぶ違う読み方をする必要があるなあ、などと、やっと気づいたのでありました。

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