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2012年6月29日 (金)

SFマガジン2012年8月号

毎日飲んでいると
体調もよくなり
怪人の呼び出しも苦になりません  ※個人の感想です  ――横山えいじ「おまかせ!レスキュ~」

 280頁の標準サイズ。今月号は日本SF作家特集。宮内悠介「ロワーサイドの幽霊たち」,仁木稔「はじまりと終わりの世界樹」,籘真千歳「蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス(前編)」,樺山三英×岡和田晃の対談,うえむらちかのインタビュウ,ハヤカワSFシリーズJコレクション10周年記念トークショー(大森望/倉数茂/法条遥/花田智/塩澤快浩)。Jコレクションを意識してか、新鋭の作家が多い。

 宮内悠介「ロワーサイドの幽霊たち」は、2月号の「ヨハネスブルグの天使たち」と同じDX9のシリーズ。舞台はニューヨーク、9.11をテーマに据える。ビンツは、10歳のときウクライナから両親に連れられアメリカに移住した。ブルックリンに育ち、今はツインタワーの北棟で働いている。その日、ビンツは父親と待ち合わせたが…
 随所に実在・架空の参考文献からの引用を挟む「報告書」っぽい体裁。参考文献が面白そうな本が多くて困る。特に朝日新聞アタ取材班「テロリストの軌跡――モハメド・アタを追う」草思社。

 仁木稔「はじまりと終わりの世界樹」も、6月号の「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」と同じシリーズ。多民族の血が混じった母と、ドイツ人の父の間にブラジルで生まれた男女の双子の子供。男の子はいかにもな混血だったが、女の子は金髪碧眼だった。合衆国に住んでいたころ、人種差別を経験した母は、娘がナチの残党による人体実験の結果と思い込み…
 主人公は双子の男の子の方。あっちに巻き込まれ、こっちに巻き込まれ、その度に断片的に自分と姉の出生の秘密を知るという形なのだが、これが二転三転。現代アメリカの宗教保守をデフォルメしたような米国を描きつつ、それ以外の社会の幻想も叩き壊す容赦のなさは、船戸与一に通じるものがある。

 籘真千歳「蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス(前編)」は、人工妖精シリーズで、看護学校時代の揚羽を描く。その事件の被害者は二人の人工妖精だった。一人は絞殺、もう一人は失血死。人倫の見立てでは、被害者Aが被害者Bを絞め殺し、その後、第三の人工妖精が被害者Aを切り殺したという。しかも、以前の事件との関連性も…
 殺伐とした導入部から一転、看護学校に舞台が移る後半のドタバタ風味がやたらと楽しい。たぶんマリみてをパロってるんだと思うが、こっちの「事件」の意外さ・転がる方向のアサッテぶりが笑える笑える。今まで「水」と「火」はよく出てきたけど、「風」って、楽しそうだねえ。朱に染まれば赤くなるのが水、むしろ紅に染めるのが火とすれば、染める間もなくどっかに行っちゃうのが風で、無限の染料が必要なのが土?

 「SFセミナー2012レポート」は、「ニンジャスレイヤー」に驚き。なんと、Twitter 上で連載とか。ケータイ小説の上を行ってる。

 若島正「乱視読者の小説千一夜」では、トマス・M・ディッシュの「SFとは児童文学なのだ」に苦笑いしつつ納得。そういえばディッシュは334しか読んでないや。内容はすっかり忘れてる。

 池澤春菜「SFのSは、ステキのS」、今回は新譜のお話。この人も17歳教だったか。なんとボーカロイド「ささやきさん」をバックにしたアカペラ。「ボカロは楽器」と定義しつつ、変なシンセサイザーに話を転がしていく。ちとサンプル聞いたけど、ロバート・フリップとかブライアン・イーノとかペンギン・カフェ・オーケストラを連想する私は旧いんだろうなあ。

 椎名誠「ニュートラル・コーナー」、「幽霊はなんで着物を着ているのか」って疑問に賛同。そうだ、特に若い女の幽霊は裸で出てくるべきだ!おっさんはどうでもいいけど。

 映画「トータル・リコール」の公開にあわせ、ディック原作映像全作品レビューとして10作品を紹介。しかしディックって、よく映像化されるよねえ。なんでだろ。小説じゃ「スキャナー・ダークリー」が一番好き。彼の作品の中では、最も自伝的要素が濃く、特異な位置にあるせいか、胸が痛くなる作品だったなあ。

 リーダーズ・ストーリーの齋藤想「液体式発信機」、こういうの大好きだ。変な発明をするセクハラ教授と、クールな美人助手。教授が発明したのは…。発明品自体は、結構マトモだったりする。このまんま、漫画化できそう。

 堺三保「アメリカン・ゴシップ」は、クールジャパンのお話。「コンテンツの輸出ばかりに注目してるけど、肝心なのはハリウッド映画のロケの誘致じゃね?」というもっともなお話。ロスじゃターミネーターが暴れ、サンフランシスコはダーティーハリーが守り、ニューヨークはキングコングがビルに登ってるもんなあ。ハリウッドに向きそうなのは…個人的には榊涼介のガンパレなんだが、池上永一の「レキオス」はお金かければ面白くなるんだけどなあ。または菅浩江の「そばかすのフィギュア」は…あれ、舞台、どこでもいいんだよね。じゃ、シュタゲで。

 スターシップ・トゥルーパーズ・インベイジョンの荒牧伸志インタビュウは、パワードスーツに注目。思ったよりスマートだな、と思ったら、「宇宙船内で戦う作品なので、あまりごつすぎると動きがとれなくなってしまう」に納得。

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