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2012年6月 3日 (日)

榊涼介・芝村庸吏「ガンパレード・マーチ あんたがたどこさ♪」電撃文庫

 「アタたちゃジャガイモば見くびっとる、うんねジャガイモば見損なっとる。ジャガイモばただの澱粉野郎て思ったら大間違いぞ」

【どんな本?】

 SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介がノベライズするシリーズの第六弾。再び時系列を熊本城決戦の後に戻し、目前に自然休戦期を控えた熊本を舞台に、終戦ムード漂う5121小隊の日々を描く。このシリーズ初の長編形式。謎の人物・芝村庸吏の介入も気になるところ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2003年12月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約278頁。残念ながら「きむらじゅんこの憂鬱」はなし。8ポイント42字×18行×278頁=210,168字、400字詰め原稿用紙で約526枚。

 ライトノベル作家らしく、文章は文句なしの読みやすさ。登場人物もゲームに出てくる人物が大半なので、ゲーム経験者はこの巻から読み始めても問題ない。未経験の人は…ガンパレ世界の背景を知らないと、辛いかも。一応、口絵に(少し偏った)人物一覧があるけど、あまり役に立ちそうにない。素直に「5121小隊の日常」または「episode ONE」から読もう。

【どんな話?】

 1999年5月5日。熊本城決戦で壊滅状態となったものの、間もなく訪れる自然休戦期を前に、町は終戦・復興ムードが漂っている。5121小隊も同様で、決戦を乗り越えた虚脱感も手伝ってか、やや弛緩した雰囲気が漂っている。折り悪く何の間違いか、大量のジャガイモが納入されてきた。これが発覚すればただでは済まない。事態の隠滅を図る5121小隊の面々。これが原さんにバレたら…あれ?そういえば、速水も…

【感想は?】

 榊ガンパレ初の長編。いろいろあって、後に時系列が修正される事になるけど、まああまり気にしてはいけない。

 ガンパレ世界の不思議なお約束自然休戦期。なぜか戦闘は5月10日までで、それ以後、幻獣は戦闘行動を止める。よって、召集された学兵で構成される5121小隊の面々も、5月10日まで生き残れば終戦となる。先の熊本城決戦で幻獣勢力は激減しており、暫く激戦の見込みはない。

 となれば、各自それぞれに戦後を考え始める。舞は芝村だからほぼ決まったようなもの、善行・若宮・来須は元々自衛軍だから古巣に戻るだけ。だが、他の面々、滝川や壬生屋、森や田代はどうするつもりなのか。それぞれの決意が語られるのが、この巻の前半の注目点。

 冒頭で楽しいのが、証拠隠滅の場面。中村が見事な腕を披露したり、新井木が意外と友情に厚かったり、茜がやっぱりガキだったり、壬生屋が予想通り几帳面だったり。後の巻で彼女が将来の希望を語る場面があるけど、案外と向いてるかもしれない。

 この巻でもうひとつ楽しいのが、滝川と壬生屋が慣れぬ役目を仰せつかるシーン。どちらも決戦の活躍で一躍スターに祭り上げられたものの、本人にその自覚は毛頭なく。ってんで、周囲の見る目と本人の無自覚のギャップがやたら可笑しい。

 特に笑ったのが壬生屋。episode ONE/TWO を読む限り、孤立するのには慣れていても、注目されるのには不慣れな様子。好かれてるんだが、イジられてるんだか。それでも、体を動かすと自然体に戻るのが彼女らしい。しかし滝川を接待した整備士は悩んだろうなあ。真相を知ったら、どう思うことやら。

 後半は、一転してシリアスで物騒な雰囲気となる。コメディタッチのカバーでは目立ってる速水と原、この二人の失踪に焦点があたり、二人の捜索がきっかけとなり…

 前半でも、速水と原の不在の影響はアチコチに見えてくる。前半で一度だけある出撃場面の、なんとも頼りないことと言ったら。特に大きいのが、整備班の雰囲気。原さんに代わってなんとか引き締めようとする狩谷だが、人望のなさが災いして空転するばかり。まあ、狩谷に新井木が抑えられるはずもなく。

 その新井木が、後半ではなんと…。いやいや、いいのか、それで。生意気だぞ、新井木のくせして。まあ、ゴブリンの面倒見るのが役目だし、ここはひとつ運命と諦めて。というか、こののイラストの色気のなさと言ったら。

 もう一つ、後半での息抜きが遠坂。熊本城決戦でもズレまくった感覚で場を和ませた若様、この巻でもピント外れな応対で笑わせてくれる。いや悪い奴じゃないんだよね、ズレてるだけで。しかし有能な執事さんだなあ。しかしこの状況でも獲物に目を光らせるあたり、筋金入りになってきたなあ。

 ドサクサに紛れて獲物もとい得物の伏線が張ってあるのも、この巻の憎い所。そう、滝川の得物に注目。ゲームでも、アレは意外と軽装甲と相性がよくて、使い勝手がいい。士気の高い壬生屋に展開型増加装甲を二枚進呈して盾にすると、とても気持ちよくハンティングできる。

 隊内の人間関係が微妙に変化するこの巻は、キャラクター・ノベルの色合いが濃い。特にラブコメ好きの人にお勧め。

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