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2012年6月13日 (水)

榊涼介「ガンパレード・マーチ もうひとつの撤退戦」電撃文庫

 「この話を聞けば、ぬしゃ二度とまっとうな道を歩めなくなるかもしれん。それでも聞く勇気がぬしゃにはあるね?」

【どんな本?】

 SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を、榊涼介が小説化するシリーズ第九弾。時系列的には先の「九州撤退戦 上・下」とほぼ同時期。今までは5121小隊中心だったこのシリーズだが、ここでは榊オリジナル色が強くなり、半分以上が榊オリジナルの登場人物が中心となる。

 6本の短編に加え、きむらじゅんこの憂鬱Ⅸ2頁を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2005年1月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約248頁。8ポイント42字×18行×248頁=187,488字、400字詰め原稿用紙で約469枚。標準的な長編小説の分量。

 文章そのものは読みやすいが、長いシリーズ物だけあって、世界観や登場人物の性格や背景を知らない人には辛い。初見の人は、シリーズ最初の「5121小隊の日常」か、時系列で最初になる「episode ONE」から読もう。

【どんな話?】

 1945年、黒い月の出現と幻獣の襲来で第二次世界大戦は終わり、人類は絶望的な戦いの果てにユーラシア大陸を失う。1999年、九州に上陸した幻獣に対し、日本政府は時間稼ぎの捨石として14歳から17歳の学兵を招集し熊本に送り込むが、5月初旬の幻獣の大攻勢に戦線は崩壊、九州から撤退を余儀なくされる。

【収録作は?】

来須潜入、幻獣領へ
 自然休戦期を前に終戦ムード漂う熊本。阿蘇地区の島村小隊を支援している来須に、芝村準竜師より極秘の依頼が入る。幻獣領に潜入し、共生派の指導者を暗殺せよ、と。胡散臭い依頼に当初は眉をひそめた来須だが、背戸口と共に作戦の決行を決意する。

 今まで謎に包まれた幻獣領内と、意外性に溢れた共生派の様子が明らかになる短編であり、今後の榊ガンパレの行方を大きく変える転回点となる作品。以後、山口防衛戦~九州奪還に至る流れで重要な役割を果たす存在が、その片鱗を垣間見せる。来須と萌の会話にも注目。
荒波小隊、危機一髪
 負傷により前線を退き、自他共に認める士魂号軽装甲の天才パイロット荒波は、配下の四人の学兵を伴い、自衛軍の士魂号パイロット養成の教官を努めていた。クセの強い士魂号に適正のあるパイロットは10人に一人程度で、操縦技能もなかなか上がらない。自衛軍は未熟なパイロットを前線に投入しては消耗の愚を繰り返し…

 今後、何かと出番が増える土木一号・二号のクルーが紹介される短編。食い意地が張って落ち着きのない田中、田中に引きずられ野生的になる村井、そつなく常識的な藤代、落ち着いた雰囲気の島。つか田中、「地味で頭悪そう」は酷いだろ。
最大最後のイ号作戦
 戦況の悪化により漂う撤退ムードの中、今後予想される激戦に備え、5121小隊の整備班は死蔵されている予備物資を調達すべく、最後のイ号作戦を発動する。士魂号の部品は他に需要があるわけでもなく、幸いにして物資集積所の所長は現実的な判断ができる少佐だったが…

 「5121小隊の日常」収録の「附・イ号作戦秘話――3月31日(火)夜半」に続く、イ号作戦の内幕を描いた作品で、茜大介が大活躍する話。自衛軍内にはびこる困った趣味の人たちのネットワークが、その病巣の深さを垣間見せる。やはり有名人のモノはプレミアがつくようで。
もうひとつの撤退戦
 坂上・本田・芳野の三人は、5121小隊を離れ、装輪式戦車小隊となる予定の学兵たちを教えていた。が、肝心の戦車は廃棄寸前の士魂号Lが一両だけ、学兵たちも食料調達には熱心だが授業の出席率は低く、自然休戦期を前に緊張感は全くない。
 そんなクラスメイトに苛立ちを募らせる斉藤弓子は、「イラ子」と呼ばれている。彼女が特に目の敵にしているクラス委員の椎名は、穏やかな性格だが大勢に流される傾向がある。学生気分が抜けない彼らにも、容赦なく戦争は影を落とし…

 この短編集の中核をなす作品。「九州撤退戦」では戦闘に慣れた5121小隊を中心に描いたが、この作品では、典型的な捨石にされた普通の学兵を描いている。常識では対処できない破滅的な状況の中で、ロクに訓練も受けていない少年少女たちがどんな対応を見せるのか。現実を直視するが故に周囲から浮いてしまう斉藤、チームワークを重視して現状認識を誤るリーダー、残酷な現実を受け入れられないクラスメイト、極限状態で意外な対応を見せる者、そんな学兵たちの様子が生々しい。
 それとは別に、今までは表に出てこなかった坂上・本田・芳野の本性が露わになるなるのも、この作品のお楽しみ。静かでオッサン臭い坂上、騒々しく荒っぽい本田、ほんわかした芳野が、子供たちを前にして大人としてどう行動するのか。やっぱり芳野先生はモテるんだなあ。
大破1、任務続行
 九州撤退戦ではモコスに乗り込み、「死んで花実が咲くものか」を合言葉に、優れた隠蔽術で活躍した紅稜α小隊を主役に据え、彼女たちの志願から訓練・出陣までを描く。

 軽ホバー輸送装甲車に120mm砲、ただし砲頭は旋回しないという、攻撃力と機動力が極端にアンバランスなモコス。こんなモン与えられてどうないせいちゅーんじゃ、と思うよなあ、普通。むしろ榴弾砲を搭載して自走砲として扱ったほうがいいんじゃなかろか。
ソックスハンター列伝 ソックスギャルソーンの憂鬱
 ロボは寝返り、ステルスは落ちた。だが、そこで増殖を諦めるほどハンターはヤワではない。例え前線にあろうとも、いやむしろ明日をも知れぬ命だからこそ、今日を輝かせるためにハンターは足掻くのだ。

 やはり書名にもなっている、「もうひとつの撤退戦」が臨場感に溢れて秀逸。最悪の状況での、坂上と本田の判断の違いが、二人の性格をよく現してる。今まで単なる「ゆるキャラ」だった芳野にフォーカスが当たるのも嬉しいところ。斉藤たち普通の学兵が、突然戦場に放り込まれた際の反応も、このシリーズの厚みを増している。

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