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2012年6月15日 (金)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 5121小隊の日常Ⅱ」電撃文庫

 「定例会に無断欠席しておるから、なんぞたくらんでいるとは思ったが、タイガーよ、こんな時のための仲間ばいね。水くさか。はじめから俺らにはなすがよか」

【どんな本?】

 SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」の、榊涼介による小説化シリーズ第十弾。時系列的には「5121小隊の日常」から「九州撤退戦」の前あたりまでの、5121小隊の面々を中心とした短編集。

 緊張感溢れる「狙撃手」、ファンの間では傑作の呼び声高い「海へ」、滝川ファン必読の「Panzer Ladys」など9本の短編に加え、きむらじゅんこの憂鬱Ⅹ2頁を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2005年12月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約311頁。8ポイント42字×17行×311頁=222,054字、400字詰め原稿用紙で約556枚。標準的な長編小説の分量。

 文章の読みやすさは文句なし。ただ、長いシリーズの中の一冊なので、世界設定や各登場人物の説明は割愛されている。ゲームえおプレイ済みの人はともかく、そうでなければシリーズ始めの「5121小隊の日常」か、時系列的に最初になる「episode ONE」から読み始めよう。

【どんな話?】

 第二次世界大戦は意外な形で終わる。黒い月の出現に続く大量の幻獣の襲来に人類は敗退を重ね、ユーラシアを失い、人類の版図は日本・オーストラリア・北米・南米の一部・南アフリカを残すのみ。九州に上陸した幻獣に対し、1999年、日本は14歳~17歳の学生を招集、捨石として時間を稼ぎ自衛軍を再編成する策に出た。

 熊本で結成された5121小隊は、はみ出し者や落ちこぼれの学兵を集め、運用が難しい人型戦車士魂号を中核とする部隊だ。意外な事に隊は戦闘を重ねるごとに成長を見せ、今はそれなりに認められる存在となりつつある。

【収録作は?】

原事件
 熊本市街のカフェテラスで、木漏れ日の中ロヤルダージリンティーを楽しむ知的な美女ひとり。そう、5121小隊を支える整備班班長、原素子。その美貌につられてか、一人の薄汚れた学兵が声をかける…拳銃をつきつけて。その様子を目撃した森と茜は…

 才媛原素子の魅力全開の短編。相手が彼女で運がよかったのか悪かったのか。
準竜師の休日
 芝村準竜師とその副官ウィチタ更紗は、秘密会談に赴いた。相手は、幻獣共生派を名乗る三人で、議題は和平。今まで自衛軍は共生派を徹底的に弾圧してきた。この会談の事実が漏れただけでも、芝村の立場は危うくなる。果たして三人の正体は何者か、そしてその真意は。

 ゲームでは陳情や勲章授与で登場するつぶれトカゲこと芝村準竜師と、準竜師不在の時のボーナス?として登場するウィチタ更紗に光が当たる短編。「もうひとつの撤退戦」収録の「来須潜入、幻獣領へ」の前日譚で、共生派の実態と芝村一族の正体が垣間見える。「変態め」って、あなた、その辺はよく知ってるでしょうに。
海へ
 いつもはそつのない遠坂が、今日は珍しくミスをした。嫌味をこぼしつつ遠坂・田辺と共に軽装甲の整備を続ける狩谷が加藤と帰宅中、珍しく遠坂から夕食の誘いを受けた。不審に思いつつも、彼の誘いを受けた狩谷だが…

 ファンの間でも人気が高い短編。今まであまりいい所のなかった狩谷と遠坂の、意外な面が見られる。世を拗ねた人嫌いに見えて、冷徹な観察眼を持つ狩谷、おっとりとした物腰の裏で計算もできる遠坂。そして、読み所は後半。どう考えてもコテコテのギャグにしかならない役者ばかりなのに、なぜか清々しく爽やかな青春小説に仕上がってる。
我が名は芝村舞
 初陣から五回目の出撃ともなれば、戦術もそれなりに形になってきた…と思ったが、今回は危なかった。煙幕弾を担当する滝川の軽装甲が鮮烈を離れ、厳しい戦いを強いられてしまった。戦闘面のリーダーを自負していた芝村だが、コミュニケーション不足を原に指摘され、衝撃を受ける舞。人間関係は苦手だが、それで怖気づいては芝村がすたる。善処すべく奮闘する舞だが…

 撤退戦では司令代理として不慣れながらも5121小隊を率いた舞が、士魂号パイロット三人を相手にリーダーとして悩む話。日常会話ではオドオドする舞が、戦術の話になると途端に饒舌になるのが可愛い。
原日記 紫
 5121小隊整備班に悪夢が舞い降りる話。にゃん♪
狙撃手
 一張羅で裏マーケットをうろつく来須に、裏マーケットの親父が声をかける。掘り出し物のボルト・アクション・ライフルがある、と。弾丸は特別仕様の7.62ミリ競技用フルメタルジャケット、スコープは16倍。気に入った来須に、親父はサービスすると言う。何か裏があると感じつつも、ライフルを抱えて返った来須を待っていたのは…

 7.62mmは一時代前のNATOで自動小銃などに採用された一般的な弾丸。5.56mmは最近のNATO弾。射程距離より携帯性や反動の少なさでこちらに代替わりした。フルメタルジャケットは、弾丸を全部金属で覆ったもので、殺傷力より精度と貫通力を重視したもの…だと思うが、私はニワカなんであまり信用しないように。参考までに Wikipedia にリンクを張っておく。→7.62mm、→5.56mm、→フルメタルジャケット

 銃という道具を通して、それを使う人物の性格が見えてくる。徹底して吟味し自分用に調整した道具を使う来須と、全く異なる思想の者。来須から見た若宮が語られるのにも注目。つか来須、そのファッションセンスはなんとかならんのか。
Panzer Ladys
 軽快な機動性を買われ他隊の支援に向かった滝川は、ミノタウロス相手に苦戦する。危ういところで救いの女神が現れた。120mm滑空砲の強力な武装と整地では軽快な機動力を見せる装輪式戦車の士魂号L四台を駆る、女子学生の小隊だ。初めて連携する隊だが、慣れた様子で優れた指揮と息のあったチームワークで敵をかき回し、軽装甲も存分に活躍した。

 「episode ONE」収録の「憧れの Panzer Lady」の続編で、滝川ファンにはたまらない作品。本人は気がついてないけど、実は結構モテてるんだよな、滝川。軽装甲とか青スキュラとか。沢山の少女に囲まれて繁華街散策なんて、滅多にできる経験じゃないぞ。
ののみの涙
 ひとりムーンロードを散策するののみは、新市街でも人気者だ。幼いながらも学兵姿の彼女を不憫に思ってか、屋台の親父や憲兵も親切にしてくれる。ゲームセンターに入ると、滝川と茜が対戦している。今日は滝川が優勢なようだ。二人に送られ帰宅するののみだが…

 これもまた珍しく、ののみにスポットがあたる作品。あの滝川や茜でさえ、彼女の前では保護者モードになるのが可笑しい。
速水厚志の憂鬱
 朝から出動がかかる慌しい日。戦闘に慣れてきたためか、今日は激戦区の阿蘇で、精鋭部隊と連携し優勢な幻獣の包囲・殲滅を狙う、野心的な作戦だ。いつも通り突進する壬生屋の重装甲に追随し、敵の陣が乱れた所をミサイルで一網打尽、残敵を滝川の軽装甲が掃討する。が、今日の速水は…

 ヒロイン速水が主役を勤める作品。ゲームの二周目以後で見せる、覚醒速水の片鱗がうかがえるお話。段ボール箱詰めのあっちゃんなら、拾う女性ファンが殺到しそう。つか滝川、電池のネタはどこから仕入れたんだ?やっぱりののみ?

 明るくコミカルな表紙と裏腹に、「決別」や「決意」がテーマの切ない作品が多いのが、この巻の特徴。「海へ」は、熊本出身のSF作家梶尾真治の「ヴェールマンの末裔たち」(「ムーンライト・ラブコール」収録)にも似た爽やかな読後感だし、「Panzer Ladys」は、激戦を潜り抜けて成長する少年を描く、正統派の青春小説。ぼちぼち、また短編集を書いてくれないかなあ、榊さん。主人公はウィチタさんとレイちゃんと橘さんで是非。

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