榊涼介「ガンパレード・マーチ 5121小隊 九州撤退戦 上」電撃文庫
「」だけん、俺らは大切な、命にも関わる秘密を打ち明けた。秘密を聞いた以上、今さら、抜けるなんてことはできんばい、ソックスステルス」
【どんな本?】
SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」の、榊涼介によるノベライズもシリーズ第七弾目。今までは比較的ゲームの流れに沿って展開してきた物語が、榊氏独自の新展開となり、また内容的にも大きな変化を見せる。
本編をなす「5121小隊 九州撤退戦」の他に、掌編「原日記 黒・赤」・「珠玉の短編 ソックスハンター列伝 飛べ!ソックスステルス」を収録。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2004年8月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約245頁+きむらじゅんこの憂鬱Ⅶ2頁。8ポイント42字×18行×245頁=185,220字、400字詰め原稿用紙で約464枚。標準的な長編小説の分量。
文章は読みやすい。ガンパレ独特の世界観は冒頭の序文で説明があるし、人物も5121小隊の面々は登場場面で軽く説明してあるが、カップリングなどの人間関係は多少独自に発展しているので、できれば「5121小隊の日常」か「episode ONE」から読んだほうがいい。とはいっても、大抵のカップルは予想通りなんだけど。
なお、「あんたがたどこさ♪」を読了済みの人は、最後の「断り書き」を最初に読んでおこう。
【どんな話?】
1999年5月6日。熊本城決戦で幻獣の大兵力を殲滅し、自然休戦期を目前に控えた熊本。しかし前線は静かになるどころか、幻獣の動きは活発化していた。自衛軍は今後に備え精鋭部隊を後方に下げ戦力の温存を図り、当初の予定どおり学兵を捨石とする動きを見せる。
折り悪く善行と原は出張で東京に向かい、芝村舞が臨時に司令を仰せつかる。新任の指揮官としては経験豊かな先任下士官の具申を当てにしたいところだが、若宮と来須は阿蘇特別戦区に支援に行っている。その阿蘇特別戦区で攻勢に出た幻獣は包囲殲滅の動きを見せ、若宮と来須は、独自の判断で部隊を率い、5121との合流を目指を図るが…
【感想は?】
いろいろな意味で、榊ガンパレの転回点。というか、これからが本当の榊ガンパレの開幕かも。
というのも。今までは「不慣れな堕ちこぼれの学兵」であった5121小隊が、ここでは「頼りになる精鋭部隊」という立場に変化している。また、今までは日常生活の合間に戦闘が起こっていたのが、この巻では戦闘場面の合間にラブコメが挟まる感じで、もはや小説としても「ゲームのノベライズ」というより仮想戦記に近い。
仮想戦記として読むと、幻獣の戦術は、小型幻獣の浸透作戦といい、人海戦術といい、共生派といい、某国の人民解放軍を思わせる。ゴブリンが大挙して押し寄せるあたりは、デイヴィッド・ハルバースタムの「コールデスト・ウィンター」を彷彿とさせるのだが、たぶん著者がモデルとしているのはもっと前だろう。すんません、ソッチはほとんど知らんです。
いかにも仮想戦記らしいのが、土地の情報。この巻では口絵に熊本の地図が付いているだけあって、地元の道路や地形がきっちり書き込まれている。熱心な人は、Google Map などで参照しながら読むと更に楽しめる。これ以降、榊ガンパレはこういう部分に強い拘りを見せ、それが地元のファンを喜ばせている。「私の地元を幻獣に蹂躙して欲しい」などと不届きな願いを抱くファンも多い。
さて、冒頭では若宮と来須が島村さんの助っ人として阿蘇特別戦区の戦線を維持している。激戦の熊本城決戦を生き延びた島村さんだが、どうにも戦闘部隊が似合わないのは、ある意味天性のものだろうか。しかし来須と萌の会話って、どんなんだろ。ゲームじゃ二人とも無口なんで、仲人プレイでもカップルにするのは難しそう。
そういえば、来須とヨーコさんは過去が語られていないんだよね。ヨーコさんは面倒くさそうだから仕方がないとして、来須は…下手すると、それだけで別のシリーズができちゃうとか?その来須が若宮と共に、軍人として「適当」な判断を下す場面は、冒頭にあるだけに、このシリーズの大きな展開を予想させる。いや、ほんと、いかにもコンバットとかの戦争物語に出てきそうなシーンなのよ。
対してパイロットと整備班の学兵連中は、というと。要である善行と原を欠いた上に、引き締め役の若宮と来須の不在で、どうにもギクシャクした様子。突然の司令代理に就いた舞も、慣れぬ立場に今ひとつ精彩を欠く模様。この巻では、不在ゆえに善行の意外?な存在感の大きさを感じる場面が多々。
その善行、原さんと愉快にランデブー…とはいかないようで、つか、糖尿は酷い。日ごろ苛められてる報復なんだろうか。この二人と絡む、初老の少佐さんが、無名なのに妙に印象に残る。どっかで再登場しないかなあ。なんとかなりません?
やはり隊と離れ独自に動いている遠坂と田辺。執事の橋本さん、タダ者じゃないと持ったら、そういう事か。珍しく花を散らしたイラストが華やか。というか、この緊張した状況で、それでも獲物を狙う執念はあっぱれというかしつこいというか。本物になったなあ。
カップルとしては恐らく著者が最も支援している二人が、この巻では大きな進展を見せるのも楽しいところ。というか、ののみ、子供が見るもんじゃありません。
戦記物の常として、全般的に殺伐とした雰囲気が漂うこの巻だが、末尾の三本の掌編が緊張をほぐしてくれる。果たしてF-22のごとくステルスは無敵の活躍を見せるのか?
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