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2012年6月25日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ 山口防衛戦4」電撃文庫

 「質問。その美少女、どんな靴下履いとった?」

【どんな本?】

  元は SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を榊涼介が小説化したシリーズ、第14冊目。ゲームに沿った内容は「5121小隊の日常Ⅱ」で完了し、「山口防衛戦」以降は、ゲームのエンディングの「その後」を、榊氏が独自に書き下ろす内容となっている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2007年10月25日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約357頁に加え榊氏のあとがき(兵どもが夢のあと)2頁+挿絵担当のきむらじゅんこ氏のあんぱん(顔)娘1頁。8ポイント42字×17行×357頁=254,898字、400字詰め原稿用紙で約638枚。いつもより原稿用紙で100枚ほど多め。

 文章は読みやすい。が、長いシリーズの一巻なので、登場人物の説明は省略されている。世界観も独特なので、初見の人は「5121小隊の日常」か「episode ONE」から入るのが吉。冒頭で山口防衛戦の概要をまとめてあるため、ガンパレの世界観を知っている人なら、この巻から読み始めてもいい…かな?榊氏オリジナルの人物の登場場面が多いんで、かなりキツいけど。

【どんな話?】

 5121小隊の人型戦車・矢吹少佐の戦車部隊・植村中尉の歩兵部隊との連携も、経験を積むに従い洗練の度を増し、連戦連勝の善行戦闘団。だが、幻獣の目的に気づいた彼らは岩国に転進する。岩田参謀の発想に基づく岩国防衛線は優れた戦果を挙げつつも、幻獣の圧力も増していた。

 防衛線に到着した善行戦闘団は遊撃部隊として神出鬼没の活躍を見せ、幻獣を圧倒させつつあった。しかし、幻獣共生派を率いるカーミラの暗躍により地下要塞は崩壊し、戦線に大きな穴が開く。また舞と速水の栄光号は、友軍であるはずの10体の光輝号の攻撃を受け倒れる。

 からくも脱出した舞と速水は、うみかぜゾンビやスキュラの空中幻獣を狩るミサイル・ネズミの二人に助けられる。唖然とする戦闘団は矢吹中佐の毅然とした指揮により持ち直し、また思わぬ乱入者「赤い嵐」の支援もあり、からくも場を切り抜ける。

 その頃、彼の身を案じる周囲の心配をよそに、しつこく若様はゴネていた。

【感想は?】

 ゲームの縛りが緩くなったためか、もはや完全にゲームのノベライズと言うより仮想戦記となった山口防衛戦、この巻では冒頭からオッサンが少ない登場場面で美味しい役をかっさらっていく。突然の舞の不在に慌てず部隊を掌握する矢吹少佐、立場を弁えず現場に乱入する荒波。お前はシャアか。赤だし速いしロリコンだし。

 立場を弁えないのは若様も同じ。散々暴走しては前線に突撃かました若様、やっと観念した模様だが、相変わらず考えてる事は戦争のことばかり。頭の切り替えが早く、目的に向かえば迅速に動く優れたビジネスマンの片鱗を見せる。彼が考えてる方向って、つまり民間軍事企業(PMFまたはPMC)だよねえ。PMFの仕事って、直接の戦闘ばかりでなく、物資調達・補給・兵舎建設・整備と多方面に渡ってて、その詳細は P.W.シンガーの戦争請負会社に詳しい。意思とコネと能力と需要、そして九州撤退戦で築いた実績があるんだから、当面の前途は明るそう。

 カーミラの情報は5121小隊の整備班にも届く。が、そこは魔窟。思ってもみなかった、というか一部の読者の期待を裏切らない展開が嬉しい。やっぱり奴らはこうでなくちゃ。果たして彼らは本懐を遂げられるだろうか。

 そのカーミラ、この巻では意外なユーラシアの様子を語っている。この設定は、今後に生きてくるんだろうか。なんとか生かして欲しいんだけど、何年後になることやら。なお、マリア・カラスが歌うプッチーニの「私のお父さん」は Youtube にあった→【Maria Callas】O mio babbino caro / 私のお父さん (Gianni Schicchi, G. Puccini)

 元々、士魂号に思い入れたっぷりの滝川に加え、前巻あたりから速水も乗機とのシンクロ率が上がってきている模様。ばかりか、意外な人も。でもやっぱり、こういう場面は滝川が一番サマになるんだよなあ。同じぐらい素直に森に語りかければいいのに。でも恐怖のラブコメ禁止令がでてるんだよね。政治委員の人選も当たってるんだか外れてるんだか。

 速水は、九州撤退戦あたりから見せてきた「覚醒速水」がいよいよ本格的に稼動した模様。冒頭から大暴れして、<院卒>をビビらせる迫力。元々のポジションはヒロインだったのに、なあ。

 5121小隊内のヒエラルキーで、意外な面が見えるのもこの巻。長距離での狙撃からカトラスでの白兵戦、そして新兵の訓練・指揮と、戦場では万能にして無敵の兵士、来須が圧倒されるという滅多にない場面が出てくる。やっぱりイタリヤ人だから?

 同じ士魂号乗りでも、華やかな土木一号・二号。うんうん田中、その気持ちよくわかるぞ。ラブレターの配送を頼まれるのって、切ないんだよねえ。村井も相方が田中でなけりゃなあ。島さん、尊敬だけに留めておこうね。実は奴が小隊で一番モテてるんだよなあ。

 壮絶な先頭が続いた山口防衛戦も、いよいよクライマックス。「あとがき」を先に読む人、この本の「あとがき」は後回しに方がいい。読後の感慨が違う。 

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